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愛されているきみ
しおりを挟むメリッサの跡を辿ろうとして妙な気配を感じた。
魔獣、おそらく小型獣が大量にある方向に移動している。その中心に相当数の魔獣の気配がした。
メリッサの魔力残滓とは別方向だが尋常じゃないそれに胸騒ぎがする。
湖の水辺に駈け降りた。
取り巻いていた多数の大型獣の周りには、争ったのか魔獣の骸が散っている。
それらが何かを守るように威嚇しこちらを見たが、金色の魔狼に道を開けた。そしてそこに山のように群がる小型獣が見えた。
大量のりす、うさぎ、狐の山の中から白い手が見える。その腕に光る白銀の腕輪に魔狼の喉がひゅうと鳴った。
駆け寄れば魔獣の山が霧散してずぶ濡れのメリッサが現れた。湖に落ちたのか?!
「メリッサ!メリッサ!」
人に戻り濡れた体を抱き上げ、その冷たさにぞっとした。森の湖は夏でも水温が低い。長く浸かれば魔獣とて命を落とすこともある。
メリッサはガクガクと震えている。生きようとしている証拠だ。
小型獣達は彼女を温め、大型獣達は深淵の魔獣を彼女に近づけまいと戦った。
魔獣達は彼女を守ろうと寄り添っていたのか。
おそらく彼女が『魅了』をかけた魔獣達だが、それほどまでに魔獣達に愛されていたのだ。
アレックスは風魔法でメリッサの服を乾かし、体から熱を放出して温めるも風が強くメリッサの震えはとまらない。どこかで暖を取らなくては。
アレックスはメリッサを抱き上げ人狼になり走り出した。抱えて走るのならこの姿の方が人よりも早く走れる。ここはアレックスの庭。どこに何があるか全てわかっている。
崖を駆け上がり大岩を飛び越え、よく使う洞窟についた。
アレックスは獣化を解き、震えるメリッサを抱きしめ魔力を強めに放出する。
アレックスの肌越しに熱が伝わり、しばらくするとメリッサに震えが止まり呼吸も落ち着いてきた。ついでに空気中にも魔力を放出して洞窟を温める。
頬に触れ暖かさを確認しアレックスはやっと安堵の息をついた。
「メリッサ‥‥」
するりと頬を撫でれば甘えるように擦り寄ってきた。そのあどけなさに笑みが漏れた。
「よく頑張ったな。」
「‥‥公爵‥様‥」
うっすら目を開けたメリッサはそう言うと目を閉じた。眠ったようだ。アレックスは労るように額にキスを落とす。
メリッサを改めてみるとそこかしこ傷を負っている。デイドレスは裂け靴もない。魔獣に襲われ逃げる時に湖に落ちたか。メリッサの魔力残滓を追わないでよかった。手遅れになっていたかもしれない。
足首や腕など傷が見える箇所を癒す。首元に鬱血痕が見えた。昨日堪えられずつけたものか。治すには惜しくてそのままにした。
邸に連れ帰りたいが、両手が塞がった状態で森を長く駆け抜けるには不安がある。何より今はゆっくり休ませてやりたい。捜索隊が来るまで待つか。
メリッサが身じろぎした。寒いのか?アレックスは思案し、魔狼になった。体を丸めメリッサを包み込み尻尾をかけてやる。これでしばらく凌げるだろう。
メリッサの寝息にアレックスはほっとして柔らかい温もりに目を閉じた。
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