【完結】ハンターを愛する公爵閣下の結婚

ユリーカ

文字の大きさ
上 下
8 / 18

『魅了』をかけられた?

しおりを挟む



 新月の真っ暗な夜、部屋の淡いろうそくの光だけでもメリッサは金色に輝いていた。

 夜着に肩掛けという頼りない姿にアレックスは焦りまくる。男の部屋にそんな格好で夜中にやってくるとは、俺の理性を試しているのか?
 目を潤ませ頬を染めたメリッサを見てアレックスは喉をごくりと鳴らした。
 兜をかぶったアレックスをじっと見ていたメリッサはほうとため息を漏らした。
 
「夜更けに何用か?メリッサ嬢」

 動揺しまくって返って低めの声が出た。
 グライドが何をどう“仕込んだ”のか皆目わからないので、慎重に、当たり障りなさげな問いかけをする。あいつの仕込みなんて碌なもんじゃない。

 メリッサはびくりと震えた。怖がらせてしまったか?背中を滝のような汗が流れる。しばらくしたのち、メリッサのか細い声がした。

「その‥公爵様に昨日のお詫びを‥‥」
「あなたの謝罪は昨日頂いた。今後気をつけてくださればそれでいい。」

 俺は何を言っている?こんなことを言いたいんじゃない。俺の方こそ君を傷つけた謝罪を——

 その時あの甘く懐かしい香りがした。これはメリッサの‥‥。
 
 最初の晩に魔狼の姿で会ったことを思い出した。嗅いだらダメだと思った時には鼻腔奥まで吸い込んでいた。ぐにゃりと部屋の様子が歪む。
 今は人の姿。今この香りに飲まれ意識をなくしたら、あんな格好のメリッサを目の前に我慢なんてできる訳ない。

 そこら中の魔素をかき集め全身の毛を逆撫でる勢いで魔力抵抗するもゴリゴリ精神を、理性を削られる。抵抗虚しく一気に侵され感情が支配された。これが彼女の『魅了』なのか?

 『魅了』ー精神系スキル。魔力抵抗に失敗すれば精神を侵蝕され心を奪われる。抵抗値の低いものは自我を失い隷属させられることもある。

 俺は何をしたかった?彼女の笑顔を側で見たかった。彼女に俺だけを見て欲しかった。それだけ?いや違う、もっともっと——

 急に頭の兜が邪魔になり、気が付いたら脱いでいた。視界が開けて美しいメリッサをよく見ることができる。
 あんなに怖がってたことが嘘のように気持ちが凪いでいる。これが『魅了』なら悪くないとアレックスは思い微笑んだ。

 驚いて目を見開くメリッサの前に進み出て膝をつき彼女の左手を取った。

「こ、公爵様?」

 メリッサの掠れた声で脳内のモヤが少し晴れる。メリッサの顔を、目をじっと見上げ思いを紡ぐ。

「メリッサ嬢、昨日は心ない言葉で貴方を傷つけてしまった。貴方を守るものとしてとても許されない行為だった。それでももしできるのなら貴方の慈悲を乞いたい。どうか許してもらえないだろうか。」

 じっとアレックスを見下ろして暫した後、メリッサはこくんと頷いた。
 許されたことの安堵と、メリッサの子供っぽい仕草に思わず笑みが溢れた。
 
 手に取っていたメリッサの左手にキスを落とす。嬉しくてついでに薬指に舌を這わせてしまった。早くここに結婚の印をはめたい。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。 十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。 そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり────── ※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。 ※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

処理中です...