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『魅了』をかけられた?
しおりを挟む新月の真っ暗な夜、部屋の淡いろうそくの光だけでもメリッサは金色に輝いていた。
夜着に肩掛けという頼りない姿にアレックスは焦りまくる。男の部屋にそんな格好で夜中にやってくるとは、俺の理性を試しているのか?
目を潤ませ頬を染めたメリッサを見てアレックスは喉をごくりと鳴らした。
兜をかぶったアレックスをじっと見ていたメリッサはほうとため息を漏らした。
「夜更けに何用か?メリッサ嬢」
動揺しまくって返って低めの声が出た。
グライドが何をどう“仕込んだ”のか皆目わからないので、慎重に、当たり障りなさげな問いかけをする。あいつの仕込みなんて碌なもんじゃない。
メリッサはびくりと震えた。怖がらせてしまったか?背中を滝のような汗が流れる。しばらくしたのち、メリッサのか細い声がした。
「その‥公爵様に昨日のお詫びを‥‥」
「あなたの謝罪は昨日頂いた。今後気をつけてくださればそれでいい。」
俺は何を言っている?こんなことを言いたいんじゃない。俺の方こそ君を傷つけた謝罪を——
その時あの甘く懐かしい香りがした。これはメリッサの‥‥。
最初の晩に魔狼の姿で会ったことを思い出した。嗅いだらダメだと思った時には鼻腔奥まで吸い込んでいた。ぐにゃりと部屋の様子が歪む。
今は人の姿。今この香りに飲まれ意識をなくしたら、あんな格好のメリッサを目の前に我慢なんてできる訳ない。
そこら中の魔素をかき集め全身の毛を逆撫でる勢いで魔力抵抗するもゴリゴリ精神を、理性を削られる。抵抗虚しく一気に侵され感情が支配された。これが彼女の『魅了』なのか?
『魅了』ー精神系スキル。魔力抵抗に失敗すれば精神を侵蝕され心を奪われる。抵抗値の低いものは自我を失い隷属させられることもある。
俺は何をしたかった?彼女の笑顔を側で見たかった。彼女に俺だけを見て欲しかった。それだけ?いや違う、もっともっと——
急に頭の兜が邪魔になり、気が付いたら脱いでいた。視界が開けて美しいメリッサをよく見ることができる。
あんなに怖がってたことが嘘のように気持ちが凪いでいる。これが『魅了』なら悪くないとアレックスは思い微笑んだ。
驚いて目を見開くメリッサの前に進み出て膝をつき彼女の左手を取った。
「こ、公爵様?」
メリッサの掠れた声で脳内のモヤが少し晴れる。メリッサの顔を、目をじっと見上げ思いを紡ぐ。
「メリッサ嬢、昨日は心ない言葉で貴方を傷つけてしまった。貴方を守るものとしてとても許されない行為だった。それでももしできるのなら貴方の慈悲を乞いたい。どうか許してもらえないだろうか。」
じっとアレックスを見下ろして暫した後、メリッサはこくんと頷いた。
許されたことの安堵と、メリッサの子供っぽい仕草に思わず笑みが溢れた。
手に取っていたメリッサの左手にキスを落とす。嬉しくてついでに薬指に舌を這わせてしまった。早くここに結婚の印をはめたい。
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