5 / 18
暴走
しおりを挟む「あのっ シリウスのことなのですが‥‥」
シリウス?
「庭に出てはいけないと言われておりましたが、その、シリウスを見かけてつい降りてしまいました。」
シリウス?ダレソレ?
「シリウスは公爵様のものですよね。もう一度あの魔狼に会いたいのですが‥‥」
シリウス?魔狼?ナニヲイッテ‥‥
アレックスの中に一気にどす黒いものが広がる。
この一週間、俺は君のことだけをあんなに想って‥‥想って想って焦がれていたのに‥‥。君は俺よりも魔狼を‥魔獣ごときに心をかけるのか‥。
ほんの些細なこと。理性では大人気ないと解っていても、禁断症状明けの身では気持ちがついていかない。
先ほどまであれほど心が満たされていたのに、今は体中がザワザワする。
なんとか言葉を縛り出そうと声が低くなる。
「メリッサ嬢。魔狼はそこらの魔獣とは違う。あれは人に決して懐かない。あなたの手には負えない。」
「‥ですが‥」
「ラウエン家には魔獣との付き合い方がある。あなたもそれに倣うように。勝手が過ぎては困る。」
視界の端でグライドが何か言おうとしているが、それどころではない。
口が勝手に何か喋っている。まるで操られているように。ダメだ。抑えが効かない。
じっとしていられず席を立つ。後からグライドが何か叫びながらついてくるが、ドクドクと血がたぎる音がうるさくて聞こえない。
意識を飛ばそうとするものを無理やり抑えこんで自室に駆け込み、それを解放する。
アレックスの体から部屋全体を塗りつぶす程のどす黒いものが吹き出す。続いて部屋に入ったグライドがそれに吹き飛ばされた。
顔と手足は狼に、全身から金色の毛が溢れでる。アレックスは人狼と化していた。体を丸めて吐き出した魔素を再び体内に取り込んで集める。
「やめろアレク!!」
グライドの制止も聞かず人狼はその背をしならせて『威圧』を発動する。
音なき咆哮と共に発せられた大量の黒い魔素がグライドを床に叩きつけた。グライドは必死で魔力抵抗を試みるも更なる魔素に取り込まれそうになる。
『威圧』—— 精神系スキル。魔力抵抗に失敗すれば意識を支配され傀儡となる。抵抗値が低いものは恐慌または発狂し、最悪死に至る。
「下がりなさい。お前では若に敵わない。」
駆けつけたバースがグライドを庇い、両手に幾重にも魔法陣をまとい最上級結界を張る。魔素の勢いで結界がビリビリ鳴った。魔素は炎のように部屋中をなめて家具という家具を破壊する。窓ガラスが弾け飛んだ。
猛烈な勢いの魔素に結界がガラスのように割れた。荒れ狂う風圧で飛び交う木端がバースの頬を切ったがそれに構わず魔力を込めた右手を正面に突き出す。人狼の首にかけられた青いペンダントが輝き魔法陣が展開される。吹き出す魔素を魔法陣が吸い込んでいく。
「ガァッ」
魔素を吸われ人狼より苦悶の声が漏れる。体から出る黒い魔素を魔法陣が全て吸い込み終えると、アレックスは両手をついて倒れ込んだ。
人狼が解けて裸体に戻っていた。体の中に大きな空洞が出来たようで震えが止まらない。乱れた髪をかき上げたバースは自分の上着を脱ぎアレックスの体にかけた。
「久々に寿命が縮む思いがしましたぞ、若。」
「‥‥すまなかった。怪我はないか。」
「大きな怪我はないですがお互いひどい格好ですな。」
こんな魔素暴走、大人になった最近では起こっていなかったのに。
後からやってきたグライドにも肩を貸され、アレックスは穴だらけのソファに座らされる。グライドも結構ボロボロだ。
部屋は魔獣の襲来があったかのように荒れているが、自室に常時張ってある結界のおかけで他の部屋には影響していないようだった。
0
お気に入りに追加
625
あなたにおすすめの小説
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。
十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。
そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり──────
※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。
※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる