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まずいことになった
しおりを挟むそしてメリッサが公爵領に入ったという知らせが届いたその日の朝、事件は起こった。
「アレク、それ‥‥」
「‥‥‥‥。」
人払された執務室には血の気の引いたアレックス、グライド、バースが集まっていた。
アレックスの人間の耳があったところから金色の狼耳が生え尻尾も出ている。手や顔はかろうじて人間だが、油断すれば人狼化してしまうだろう。
魔素制御がうまくできない。爵位を継いでから今まで制御不能なんてなかったのに。これはとてもまずい状況だ。
「魔封の森の影響やもしれません。昨日から騒がしいとの報告が上がっておりました。森の魔素が若の魔力に干渉しているようですな。」
「何とか抑え込めないか。」
「若の魔力が大きすぎます。これ以降症状が進行しないよう食い止める程度でしたら何とか。」
バースは先代領主である父の代から家令を務めており、いくつか顔を持っているが魔術士としても一流だ。宮廷魔術士の座を蹴って公爵家の家令になった事は王宮の一部で伝説となっている。
バースはラウエン家の中でアレックスに次いで魔力が強く、万が一アレックスが暴走した場合に止める役割も担っていたが、そのバースでも魔封の森の魔素は抑えきれない。アレックスは頭を抱えた。
「ちょっとはしゃぎすきたんじゃねえの?アレックスさんよぉ?」
グライドが片手で額を覆いため息をついた。
メリッサは午後にも屋敷に到着する。縁談時の条件からこの姿で会う事はできない。よりによって今日になぜ?!
確かにここのところ興奮で眠りが浅く、昨晩は徹夜してしまった。そして今朝この姿である。舞い上がりすぎた俺が悪いのか?
「どうするんだよ。もうついちまうぞ。急用で出かけたことにでもするか?」
「いや、歓迎されていないと勘違いされたくない。出迎えはしなくては。というか絶対したい!」
「お前はこんな時でもブレねぇな。」
ああだこうだと皆で対応を考え出した結論が兜だった。
全身鎧兜で出迎えたのち、バレる前に討伐という名目で出かけ近場の番屋で魔素が落ち着くのを待つ。出迎えに鎧は異様だが討伐に行くのなら不自然ではない‥‥で無理矢理押し切ることになった。
こうしてどうにかメリッサを出迎えることができたが、メリッサを目の前にして目一杯舞い上がってしまったアレックスは、鎧姿で言葉も態度もそっけないという残念な結果になった。
やっとうちに来てくれたというのに鎧越しでしか話せなかった。もっとたくさん声を聞きたかったのに‥‥。
アレックスは番屋で一人メリッサのことだけをぐるぐる考える。
今日の挨拶は緊張していたが、ドレス姿もとても綺麗だった。初めて出逢った時に嗅いだどこか懐かしい甘い香りが今日もした。
もう一度あの香りを嗅ぎたい。ああ、メリッサ、君に逢いたいよ。
夜空を見上げながらメリッサの名を呟く。
拗らせてる自覚はあったが、もう少しで手に入ると思うとどうにも思考は止まらない。半年間焦がれに焦がれ続けて待ったのだから。
せめてメリッサの笑顔を思い浮かべようと目を閉じて、そして‥‥
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