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第二章 : 恋に落ちたソロモン
外伝④大精霊のぼやき
しおりを挟むソロモンが現れた。
直系たる【至高ソロモン】が途絶えて百年経とうとしていた。
召喚士が死に絶えて突然変異で降臨する傑物を待つしかなかったのだが、ようやくそれに値するものが現れた。
だが過去、突然変異のソロモンはトラブルが多かった。血族であれば精霊の扱い方や召喚士の基本を一族の中で身につける。しかし孤立する突然変異にはそれがない。
よって今回、精霊界では特別な大精霊が守護精霊に選ばれた。
特に人の心を理解する大精霊に白羽の矢が立てられた。
大精霊ヴァルキリーはソロモンの紋様が現れた十歳の少年を時空から見下ろしていた。貧しい身なりの痩せ細る少年の髪はソロモンの証の銀灰色だ。十歳というにはその体はあまりにも小さい。それはこのものの辿った生い立ち所以なのだろう。
その精神を読みふぅとため息をついた。
『‥‥なるほど。流石は突然変異。荒んでるわね』
アイザックの今までの生い立ちを理解しヴァルキリーは目を細める。
召喚士は感情の起伏が弱い傾向にある。一族で群れれば大したことはないが、一般民の中では異常に映るだろう。そのため突然変異は迫害に遭うことが多い。
特にソロモンならば人間味は希薄となる。さらにこの少年は異常なまでに精霊を惹きつける力が強い。気配はむしろ精霊に近いと言える。感情のない人形のような少年では今まで生きづらかっただろう。
精霊は無条件で召喚士を愛する。召喚士を守ろうとして色々と手を差し伸べる。場合により危害を加えるものを敵と見做して攻撃した。特に小精霊は本能のままに動くが、良かれと思ってのことでも召喚士本人には悪く出ることがある。事実、過去に突然変異が孤立死したこともあった。
召喚士として覚醒していないうちから精霊に寵愛されれば、説明不能な現象は異様に映る。人々から忌諱される理由がわからない。自分が召喚士だと覚醒が早い方が心の負担も少ない。しかし———
『覚醒が十歳か。これはしんどい仕事になるかもね』
アイザックはすでに人間不信、女性嫌い、社会権力嫌悪を抱えていた。
悟りとも違う。諦めや絶望とも違う。虚空の様な空っぽな心。生気が全くない。
『よくここまで疎まれ病んだものね。まああの生い立ちではそれも仕方ないだろうけど。まずはこの精神に刺激を与えなくっちゃね』
感情で一番原始的なもの。怒り。
刺激を受けて心を揺り動かす強い感情。強い感情だが防衛本能や恐怖の裏返しでもある。だがあの少年はそれが恐ろしく希薄だ。
常に心を震わせて感情を揺さぶること。
人の生とはつまり感情の揺らぎ。
これがないのは心の死。心が死ねば不死身の肉体であっても死を迎える。
『時間はかかるけど他に手はないわね。あの子の性格を理解し怒るように仕向けるのが私の仕事ね。ただ一人のソロモン。死なれちゃ困るのよ』
召喚士は精霊を常世に繋ぐ。今は大精霊が繋いでいるが、大精霊にも限界はある。召喚士がいないと小精霊が常世に出現できない。精霊が希薄なこの世を精霊たちで満たす。その野望の為にもこのソロモンと嫁には沢山の召喚士を成してもらわなくてはならない。寵愛する召喚士が増えることを小精霊たちも何より喜ぶだろう。
ソロモンが覚醒すれば子を成す本能で一族は繁栄し問題はない。だが目の前の少年はまだほんの子供。そしてそれは深く封じられている。その本能を解きはなければならない。
『しょうがないなぁ。とにかく全然召喚士が足らないんだから。じゃんじゃん赤ちゃん産んでもらわないとね。お世話は私がバッチリするし♪ だけどこの性格で嫁ができるかしらねぇ。しかも女嫌いで性欲ゼロの堅物ときた。コッチの矯正も必要なの?男色とかやめてよ?』
小精霊を従え、ヴァルキリーは目を閉じる。
凹凸のない少年の心の僅かなささくれを探す。
『仕方ない。まずは苛立ってもらおうかしら。嫁が現れるまではあのカチコチ無機質な神経を逆撫でて揺さぶり続けないと。感情戻るまで時間かかりそうだわ~ついでに性欲マシマシ下ネタ対策か。あーあ、大変だよ~ご褒美たくさんつけてもらわないと!』
こんな下品は私のキャラじゃないのに!
大精霊がそう呟けば、辺りを漂う小精霊たちがひっそりと顔を見合わせる。
ヴァルキリーはため息をついて時空を見上げた。
『光が脱落してせーっかく久しぶりにお世話担当になれたのに!せめて私好みの美少年だったらよかったのにな。あれじゃ人に懐かない野良猫じゃない。あんなのはごめんだわ。ちっとも可愛くない。血統書付きのキラキラゴージャスな仔猫ちゃんはいないかしら?美しくて気高い心で癒してほしいわぁ』
そしたら思いっきり可愛がってあげるのに。
野良猫のような野生児を見下ろしヴァルキリーは目を細め陰鬱に嘆息する。そして諦めたように時空からハリセンを取り出し、不機嫌を纏って少年の前に降り立った。
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