22 / 35
第4.0章 真相 – シンソウ
第16話
しおりを挟む「辺境伯がティアに結婚を強いたのはティアを守るためだったんだろうね。叔母君の遺言のことは言えない。何も知らないあなたにあの遺言は酷だ。グイリオや他のろくでなしの手に落ちる前にと焦った結果じゃないかな?父君は不器用だね。」
「だからって‥あんなこと‥」
「そうだね、無理強いはよくない。結果あなたは家を飛び出した。でもティアが飛び出してくれたから僕たちは出会えた。だからこれでよかったんだよ。」
泣きじゃくるセレスティアにカールが嬉しそうにそう語る。セレスティアも微笑めばまた目から涙が溢れた。
そこである疑問をぶつけてみる。
「ねえ、カール?」
「ん?なに?」
「私に嘘をついてるよね?」
カールはセレスティアを抱きしめたままフフと笑みをこぼす。
「そうだね。例えばどんなこと?」
「目は‥見えてるんでしょ?」
抱きしめる腕の力はそのままに笑顔で沈黙。そして嬉しそうにセレスティアの髪を梳いた。
「流石に気がついた?どこら辺で?」
「私に犬歯がないって‥‥、それと父に会いに行ったって。」
「ああ、なんだ、さっきなんだ?」
「いつから見えてたの?」
「最初からだよ。ごめんね。」
悪びれない答えにセレスティアが唖然とし、カールの胸を押して体を離した。
「はぁぁ?!最初から?途中で回復したとかじゃなく?!」
「実は閃光弾を受けた時それほど酷くなかったけど念の為と包帯を巻かれたんだ。光は眩しかったけど見えなかったわけじゃない。」
「えええぇ?!」
それは想定外。しばし驚きで硬直するが次第に怒りがめらめらと込み上げてきた。
「医者は?!」
「問題なしと言われた。目の嘘は医者の診察結果だけ。あとは本当。嘘ついてごめんね。」
「宿の部屋でも見えてたの?!」
「まあそうなるね。だから包帯は外さなかったでしょ?何も見てないよ?見たかったんだけど我慢したし。」
「ひどい!我慢って当たり前でしょ!!」
セレスティアが真っ赤になり怒りの声を上げる。
「ひどいひどいひどい!目が見えないから同室にしたのに!すごく心配したのよ?!」
「うん、知ってる。とても嬉しかった。でも同室は姉弟の演技のためじゃなかったかな?」
ん?そうだったかもしれない。そういえば。
でも目の見えないカールを一人部屋にできるはずもないじゃない!
その冷静な返答でさらに怒りが込み上げる。
「目が見えてたのに見えないふりしてたの?!なんで?!」
「ティアがそうして欲しそうだったから。」
ぐっと言葉に詰まる。確かにそうだ。機微に聡い少年がそれに気がつかないわけがない。
ぐぬぬと言葉を無くしせめてと包帯の少年を睨みつける。
「正直目が見えなくてもティアもスノウも側に居てくれたから不便はなかった。むしろ色々お世話されて役得だったし。」
あけすけにそう告白する。
口ではごめんねと言ってはいるが!
本当に!本当に悪いと思っているのか?!
「‥‥私の顔も‥見たのね?」
「寝てる時に少しだけ。少しだけだよ?」
「程度の問題じゃないの!勝手に見ちゃダメでしょ!寝てる顔なんて!」
「別に可愛かったよ?口は閉じたほうがいいとは思ったけど。お陰で犬歯がないのはよくわかったし。」
「はぁ?!」
「もう少し早くしっかり見ておけばよかったと後悔したよ。そうすれば仮説をもっと早く絞り込めたのに。」
なんてものを見たんだ!意識のない令嬢の顔なんて!しかも口を開けてた?それを抜け抜けと本人に言う?デリカシーが全然ない。最悪だ!!
カールの答えにふるふると赤面しつつ怒りが止まらない。
その様子に隣に腰掛けるカールはふぅと息を吐く。そして包帯に手をかける。
「そういうわけなんでもうこれとっていい?」
「ダメ!絶対ダメ!」
「なぜ?」
慌ててカールの手を押さえる。なぜと問われ再び言葉を詰まらせる。顔を、全身を見られたくない。
自分は華奢でもか弱くもないのだ。世の男性は妹のような女性が好き。カールにだけは失望されたくない。
それに包帯を取ればきっと——
押し黙っていればカールがセレスティアの手を探り握った。
「勘違いしているみたいだけど、ティアは可愛らしいよ?顔はもう見たし。」
「見たならわかったでしょ?可愛くないよ!いかついし雑だし武骨だし。」
「違う。ちょっと抜けてるけど優しくて可愛らしい人。暖かくて柔らかくて。僕を癒してくれて僕が全力で守りたいと思う人だ。」
そう断言されればみるみる顔に熱が集まった。
子供だから?カールだから?
だからそんな恥ずかしいことを言えるの?
「僕が本気を出そうと思ったのはティアだけだ。お陰でちょっとやりすぎちゃったよ。初陣の時だってこんなふうに思わなかったのにね。すごいよティアは。」
ますます頭に血がのぼり、のぼせそうになる。
嬉しい。でも恥ずかしい。
こんな歳になるまでそんなことを異性から言われたことはないのだ。免疫なんてあるはずもない。まして相手は恋に落ちた人だ。
カールがセレスティアの手を取る。あ、と止める間も無くカールが指先に口づけを落とした。咄嗟に抜こうとしたが手首を掴まれてしまった。
さらに口づけが手の甲に降ってくる。セレスティアはいたたまれず目をぎゅっと瞑った。
手から唇を浮かせ、カールがそっと囁く。唇が手に触れてくすぐったい。
「大好きだよティア、どうか僕の、カール・ウォーロックの婚約者になって。」
「ふぇ?」
「もうフォラント家での婚約は破棄されているから僕と婚約しても大丈夫だよね?本当はティアとすぐ結婚したいけどまだ早い。それはわかるから。せめて約束が欲しい。」
約束?何の?茫然と考える。すでに思考は最初の手へのキスで飽和状態だ。話をほとんど聞いていなかった。最後の“約束”という言葉だけを脳が拾う。そこにカールが畳み掛ける。
「ティア、ずっと一緒にいて。僕の側を離れないで。今はそう約束してくれればいい。どうかうんと頷いて?僕はまだ子供だけどあなたに愛してもらえるようこれからもっともっと頑張るから。」
何を言ってるの?私はもうこんなにあなたを大好きなのに。でもあなたとずっと一緒にいてもいいの?そう約束してくれるの?
ぼぅと正面のカールの顔を見つめる。カールは真剣な表情でセレスティアの返答を待っている。
「うん。約束するよ。ずっと一緒ね?」
乞われるままに頷いて見せればカールにぐいっと手を引かれる。驚いて引かれるままに前方に倒れこみ受け止めたカールの胸の中にぎゅぅと抱きしめられた。
0
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる