【完結】呪われ姫の守護天使は死神

ユリーカ

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第四章:堕天使

堕天

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 アナスタシアは迎えにきたナベルズの指示で護衛の兵士とともの部屋に戻っていった。

 現場には額に包帯を巻かれたアンジーとナベルズ。アンジーから事情を聞いたナベルズはベルゼブルを見下ろしていた。『加護封じ』のくだりで相当に動揺していた。

「それは‥とんでもありませんでしたね。ご無事で何よりでした。それで?これが悪魔ベルゼブル?」
「正確にはベルゼブルの悪魔憑きにあった男だ。」

 布を被せてあるが腐臭がひどかった。
 布の中を覗き込んだナベルズはすぐに布を被せる。これが先ほどまで動いていたのが信じられない有様だった。

「ではベルゼブルは?」
「一応逃す前に撃ったつもりだが消滅の確認が取れていない。正直逃げられてると面倒だ。この体の中で消滅しててくれるとありがたいが。」

 アンジーは包帯が痒いのか、するりと額から外してしまう。傷は跡形もなく塞がっていた。傷のあったあたりをさすりながらアンジーが呟く。

「すごいな、姫の『祝福』は。頭痛も即効だったし。」
「‥その、ボスは見ましたか?殿下の‥‥」
「見た。俺も目視できちんと見たのは初めてだ。誰にも言うなよ。屋敷内にも緘口かんこう令を敷け。」

 言い淀むナベルズにアンジーは口止めする。

 アナスタシアの背後に現れた天使。
 アンジーにかけられた『加護封じ』が解けて目を覚ました時に最初に見たものだ。あのベルゼブルが一歩引いていたのだから、きっとあれが大天使ラファエルだろう。最上位の大天使。

 なるほど。あれを天使と名付けたのも頷ける。


「以前ボスの言っていた意味がわかりました。」
「うん?」

 俯くナベルズが何か思い出したようにぶるりと身を震わせる。

「何か超越した存在。それが神だと。あれはそういう存在と感じました。」
「あれは神ではなく大天使かみのつかいだ。まあ俺らにしてみればもう神みたいなものか。」

 アンジーは目を細める。

 姫のあれはアズライールと違う。
 あれが大天使ラファエル。格が全然違った。


 『加護封じ』が解けてから、そのアズライールの反応がまだない。動いている気配はするのだが何やらぶつぶつシステムがなんだとかセーフティだとか呟いて繰り返し何かしている。大丈夫なんだろうな?壊れたとか言うなよ?

 アンジェロもまだ目覚めない。
 ベルゼブルに直接触れられた。相当精神汚染を食らったんじゃないか?ここで堕天とかいうなよ、頼むから。そうなれば俺もヤバい。

 アンジーは深いため息を落とす。
 今回はそれほどにこたえていた。アズライールにアンジェロ、C班全員。あまりにも被害が大きい。


「今回色々と穴があった。想定も甘かった。今後の姫の警護の為にも抜本的な対策の改善が必要だな。やることが山のようにある。」
「改善ですか?」

 今後、のところが引っかかる。今回で任務完了ではないのか。アンジーが疲れたように遠い目をする

「人手不足、火力不足、アンジェロの護身術、そして堕天対策だ。」

 ナベルズはさらに怪訝な顔で眉を顰める。

「人手不足、は部隊の増設‥ですか?」
「強化も含めて体制の見直しだな。増員は必須だ。輪番を組める余裕も欲しい。攻撃の手段が少ない。武器も開発したい。」
「負傷者もおりますし確かに必要ですね。傭兵の確保はお任せください。しかしアンジェロ様の護身術は‥」

 アンジーがガシガシと頭を掻いた。

「今回は加護を封じられた。その想定を今後もしなければならん。アンジェロにはその対策だ。」
「背は良いのですか?」
「もうそうも言ってられん。そのくらいヤバかった。丸腰でも戦える程度の接近戦は解禁しなければならんだろう。」

 『加護封じ』など想定なんぞ無理だろう。ナベルズは嘆息する。だが確かに致命的な事態になりかねなかった。

「あとは?ダテン対策とは?」
「アンジェロの闇堕ち対策だ。」
「は?!」

 唖然とするナベルズにアンジーが声を低くする。視線は布に覆われた骸に向けられていた。

「ないとは言い切れないだろ。恐らく加護持ち全員にその可能性がある。アンジェロだって人間だ。何かの拍子に狂うこともあるかもしれん。アンジェロが堕ちればアズライールも堕天して悪魔になる。その場合の対処法だ。」
「えっと?堕天する前提ですか?」
「当然だ。他の天使のためにも有用だろう。他人事のように言っているが対処するのはお前だぞ?」

 ナベルズがさらに愕然として瞠目する。

「はい?私ですか?そこはボスの役目なのでは?!」
「バーカ。アンジェロが堕ちれば俺も闇堕ちだ。お前は闇落ちした俺を止めるんだよ。」
「絶っ対無理です!!」

 ナベルズが仰反って青ざめる。顔面蒼白だ。

「ほう、俺との実力差はきちんと理解しているようだな。まあそうだよな。そこが悩みどころだ。お前をこれから徹底的に鍛えるという手もあるが。お前に悪魔落としができればいいんだがなぁ‥」
「無理です!不毛です!堕天を予防しましょう!」
「不毛‥‥。お前自身が言うのか?だが予防もちょい厳しいんだがなぁ。」

 必死のナベルズを呆れ顔でアンジーが見やる。

 予防も何も。現状アンジェロの堕天など可能性がありすぎるのだが。色々と。早々にヤバいかもしれない。
 何よりアンジェロは魂に悪魔の穢れを受けてしまった。それがどう影響するか。それでなくても危ういのに。どうか無事に辿り着いて欲しいんだが。

 アンジェロの本性を知ったら姫はどう思うだろうなぁ。
 悪いやつではない。どうか引かないで欲しいんだが。

 まだ目を覚さない相棒と王女殿下を思いやり、アンジーは空を見上げて息を吐いた。





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