【完結】呪われ姫の守護天使は死神

ユリーカ

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第三章:秘密

王女の作戦

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 どうやって寝室に戻ったのか覚えていない。

 あの場から駆け出したのか、静かに辞したのか。
 変なことを口走らなかっただろうか。

 部屋には一人。アナスタシアは寝具の上でうつ伏せに横たわっていた。
 リゼットを下がらせた記憶はかすかにあった。不穏な様子を気遣われたが、今は一人になりたくて無理を言って下がらせたのだ。

 アナスタシアはかすかな記憶を辿る。


「ここまでは順調です。奴は屋敷周辺まで近づいて来ています。加護の気配でわかります。ですから殿下はこの屋敷でじっとしていてください。先ほどの様子なら今日明日にも僕に攻撃を仕掛けてくるでしょう。」

 明日の天気の話をするように青年は平然と語った。

 なぜ自分の側にいるのか。
 その問いかけにはきちんと答えてくれなかった。
 守るため。では婚約は?あれは偽りだったと?

 囮のために必要だった。それはわかる。聞かされた作戦でもそうだと言っていた。

 けれども城でアナスタシアを外の連れ出してくれた手の暖かさも本当だった。
 辛抱強く寄り添ってくれたのも本当。
 冗談のような話で緊張を解いてくれた気遣いも本当。
 ラクロワでの楽しい日々だって‥‥。

 あれは彼の生来の優しさだったのか?引きこもった姫を憐れんで?ただの憐憫?ただそれだけで毎日付き添ってくれたのだろうか?

 わからない。

 そこにあると確信していたものが今は霞の中に埋もれてしまった。

「殿下、僕からの質問です。この話を聞いた上で、あなたはまだ僕を信頼してくださいますか?」

 最後に問われた。なんと答えただろうか。
 なぜ信頼にこだわるのだろうか。


 ラクロワに来てから距離を置かれるようになった訳はわかったように思う。

 あれは溝だ。彼と私の間にあるもの。
 いっそ壁ならよかった。人の手で作られた障壁。壊せばいい。でも自分たちではどうしようもない障害、何なのかわからないあの溝のせいで彼は私を近づけない。だが警護という事情ならそれが説明できた。

 抱きしめられたことはない。先程初めて抱きしめられたのは衝動ではない。敵を煽り、守り庇うため。
 初めて外の出られた時、アナスタシアからアンジェロの胸に飛び込んだがあの時でさえ抱きしめられなかった。

 婚約を申し込んだのは私を守るため。側で守るため。結婚する意思はないんだ。
 以前は守るという言葉に愛情を感じたが、今は文字通りの意味にしか感じられない。

 終わった。もうダメだ。

 多分全てが解決すれば婚約は解消される。そして二度と彼には会えないんだ。
 その絶望を予感してアナスタシアは体を震わせた。

 酷い。それならいっそ振られた方がいい。その方が割り切れる。思いっきり泣いて吹っ切れるのに。
 いや、王女である自分が告白なんてしたら優しいアンジェロ様はきっと婚約を解消しない。そんなことできない。そんな憐情こそ、強制こそ辛すぎる。もうどうすればいい?


 ‥‥ん?あれ?


 ここでアナスタシアはあることに気がつく。

 あれ?あれれ?
 これ、ひょっとして終わってないんじゃない。そもそも始まってもないのでは?

 警護のための婚約。そこには好きも嫌いもないのだ。

 その可能性にがばりと身を起こす。

 彼に嫌われてはいない、多分。好かれてもいないかもしれないけど。それはこれからの話で!

 そうだよ!これから好きになって貰えばよいのでは?そして婚約を本物にしてしまえばいい!
 要は私がアンジェロ様を誘惑できるかどうかなんだ。なんか茶々が入ったらそれこそ王女の権力で押し通せばいい。こんな時に王女くらい笠に着て何が悪い!!

 なんだそうだ!これからじゃない!

 世間知らずにお嬢様特有のプラス思考が相まって、とっても前向きな思考へと発展してしまった。
 リゼットが言うところの勘違いのまま暴走するところが出たようだ。

 まずは私のいいところをアピールして振り向いてもらわなくっちゃ!
 警護の言い訳でくっつけるし!それも堂々と!状況が美味しすぎる!!

 先程の凹み具合を考えると異常な高揚。リバウンドだ。

 そしてアナスタシアの、アンジェロ誘惑作戦がここに開始された。




「アンジェロ様!おはようございます!」

 翌朝、朝食後にアナスタシアはアンジェロを捕まえた。アナスタシアのいつもより気合十分の挨拶にアンジェロはびくりとする。昨日の今日でいっそ引き気味だ。

「‥‥‥おはようございます、殿下。」
「今朝はいい天気ですね!そうだ!聞いておきたいことがあるんです!とっても大切なことです!」
「‥‥‥なんでしょうか?」

 祈るように両手を胸の前で握るアナスタシアにアンジェロが身構える。昨日の質問の続きと勘違いしている。しかしその質問にアンジェロは絶句する。

「アンジェロ様には好きな方がいらっしゃいますか?」
「‥‥‥‥‥は?」
「えっと、恋人というか、将来を誓い合った方とか。」
「‥‥‥‥‥え?」
「婚約者とかどうです?よりを戻したい恋人とか?いらっしゃいます?え?やだ!!いるんですか?!」

 勢いよくまくし立てた挙句に蒼白になり一歩身を引くアナスタシアに、茫然としていたアンジェロは我に返り慌てて否定する。

「いません!いません絶対!なぜその質問に?僕の婚約者は殿下ですよ?」
「では奥様は?妻帯者でいらっしゃいます?離別なされた方とか愛人は?元妻と復縁したいとか?」
「え?いません!僕が既婚?!そして離婚で復縁?!なぜ?どうなさったんですか?!」
「殿下。落ち着いてください。朝から支離滅裂過ぎです。」

 背後に控えていたリゼットが諦め顔で宥める。気合が空回りしているが、アナスタシアは気が付かない。


 アンジェロに女性の影が全ていないという確認が取れて嬉しくなり、勢いで朝の散歩にアンジェロを誘う。アナスタシアはそれはもう強引に庭に連れ出していた。

 アナスタシアに誘惑の手管はない。二十歳にして初めてやる気を出すも知識は皆無。皆無であることにも気づいていない。
 作戦はとにかく押して押しまくれ!という勢いだけだ。ここで言う押せは色気ではなく押しかけに等しい。

 四歳年下相手に年上アドバンテージを出せず。
 これはなかなか残念だがそれにも気づかない。
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