【完結】呪われ姫の守護天使は死神

ユリーカ

文字の大きさ
上 下
14 / 26
第三章:秘密

銃撃

しおりを挟む



「今朝は本当に気持ちのいい朝ですね!」
「‥‥‥ええ、はい。そうですね。」
「お元気ないですね?どうなさったのですか?」
「いえ、昨日の今日でちょっと混乱してまして。」

 腕に縋りつき見つめてくるアナスタシアに困惑の表情を向ける。
 アンジェロは激しく動揺していた。王女の行動動機を把握できていない。

「殿下、昨日の話ですが‥‥」
「害意の話は大丈夫です!何か近づいてきたらぶっ飛ばせばよろしいですか?」
「‥‥‥いえ、特に何もなさらないでください。」

 アナスタシアが鼻息荒く言い放つところをアンジェロがなだめる。
 謎のやる気が怖い。何が大丈夫?一体何をしでかすつもりだろうか?アンジェロの眉間のしわが深くなる。

 二人で庭園のガーデンアーチを潜る。辺りに人の気配はない。

「その、近くにいるのですか?」

 声を顰めるアナスタシアにアンジェロが辺りを見回す。

「今はおりません。かなり遠い。警護のものは控えております。」
「え?全然わかりません。」
「わからないように訓練しておりますので。」

 アナスタシアは目を瞬いて辺りを見回した。だとしたらすごいことだ。

「煽る件でしたらもう十分ですよ?今まで散々見せびらかせたので効果は出ております。」

 一緒にいなくていい、と暗に言われたがアナスタシアはめげない。

「いえ!これは私がアンジェロ様とご一緒したいと思っただけですので!」
「‥‥‥僕を信頼してくださるのですか?」

 おずおずと尋ねるアンジェロにアナスタシアは不思議顔だった。

「あれ?昨日そう申し上げませんでしたか?」
「‥‥殿下は昨日部屋を駆け出て行かれたので。ご記憶ありませんか?」
「‥‥ごめんなさい。後半記憶があやふやで。」

 はーっとアンジェロは長い息をついた。安堵の息のようだ。

「それほどに信頼は大事でしょうか?」
「大事です。最後の最後はそこに判断が委ねられます。僕がダメだと言っても信頼がなければ信じていただけない。そういうことです。」
「そういうことでしたら大丈夫です。アンジェロ様を信頼しております。」

 真摯に見上げればアンジェロは一瞬瞠目し少し困ったように微笑んでから目を閉じた。

「僕の指示にはどうか従ってください。殿下の御命が最優先です。」
「わかりました!でもアンジェロ様をどうぞお気をつけてくださいね。」
「僕は大丈夫です。僕はおとりですが、戦うのは相棒です。」

 初めて聞いた。相棒?

「相棒?ナベルズ殿のことですか?」
「あれのことはただナベルズとお呼びください。第一隊の隊長で出来る男ですがあれではありません。僕の相棒はもっと強い。おそらくこの世で最強です。」
「アンジェロ様よりも?」
「はい。僕よりも、です。」

 それほどに強い?名を言わないということは自分は会ったことがないのだろうか。
 庭園の奥までたどり着いたので屋敷の戻るためにアンジェロにぐるりと導かれる。

「火器の扱いにも長けていますが、白兵戦、特に遊撃行動ゲリラコマンドに特化しております。今回は森での戦いになりますのであれの得意な戦場フィールドです。」
「はあ‥‥?」

 言っている細かい意味はわからないがなんだか強そうだ。

「素手で相手を倒す術を持った男です。僕もぜひ身につけたいのですが身長が足らないからもう少し待てと。」
「身長が必要なのですか?不思議な技ですね。」
「そうですね。」

 アンジェロがにっこりと微笑んだ。

「敵は単独犯です。一対一なら絶対負けません。」
「相手が単独と分かっているのですか?」
「僕の加護はお喋りでして。色々教えてくれるんですよ。」

 アナスタシアは小首を傾げる。昨日加護を調べる時に手を握られた。アナスタシアの体内を駆け巡った何か。ひょっとしてあれのことか?

「昨日私の加護を調べたあれですか?」
「そうです。なかなか器用な奴です。」

 加護を擬人化している。なんだか微笑ましい。アナスタシアはくすりと笑った。





 その時。

 和やかな雰囲気だったアンジェロが突如豹変した。傍のアナスタシアを半分抱えるようにして走り出した。近くの茂みの影に飛び込む。
 そしてアナスタシアを覆うように被さりコートの脇の下のホルスターから自動拳銃を取り出した。緩やかに親指で安全装置を外す。

 耳を塞いで

 微かにそう言われアナスタシアは慌てて耳を塞ぐと同時に銃声が轟いた。アンジェロの体越しに発砲の反動が感じられた。耳を塞いでも連射する銃声が耳朶に響く。バラバラと薬莢やっきょうが降ってきた。

 空を見上げれば遥か上空にあの雨がいくも降っている。数が今までの比ではない。ぽつぽつと小雨の様なもの。小石サイズのものが波紋を作る。そして小石が爆発した。
 眩い光と音にアナスタシアは耳を塞ぎながら悲鳴を殺して目を瞑った。


 “目標と庭園で遭遇。C、D、迎撃に入れ”


 体の触れた部分からアンジェロの声が伝わる。ムセンと聞いていたので部隊に指示を出したとわかる。
 アンジェロは周りの様子を伺いながら手の中の自動拳銃グロックから弾倉マガジンを捨て新しい弾倉を叩き込む。

「ナベルズ!」
「こちらに!!」

 振り返らず叫ぶアンジェロの声にナベルズが背後から走ってきた。遠くのテラス窓付近ではリゼットが蒼白の顔でこちらを伺っている。

「殿下の身辺保護を最優先に。A、Bを使え。」
「了解しました。」
「アンジェロ様!!」

 その場を立ち去ろうとするアンジェロのコートをアナスタシアが掴む。アンジェロはその手をそっと左手で包みこんだ。

「申し訳ありません。奴が来ました。行かなくてはなりません。」
「でも相棒の方が戦うと!」
「僕も行かなくてはならないのです。」

 アンジェロはにこりと微笑んだ。

「すぐ戻ります。どうぞお部屋に。あそこが一番安全です。」
「でも!」
「僕を信頼ください。どうか。」

 信頼。指示に従え。言外にそう言われアナスタシアは目を瞠る。

 アナスタシアの手をコートから優しく外す。そしてアンジェロは森へ駆け出した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

【完結】サキュバスでもいいの?

月狂 紫乃/月狂 四郎
恋愛
【第18回恋愛小説大賞参加作品】 勇者のもとへハニートラップ要員として送り込まれたサキュバスのメルがイケメン魔王のゾルムディアと勇者アルフォンソ・ツクモの間で揺れる話です。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

処理中です...