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✠ 後日談 ✠
Ever after《クリフォード》②
しおりを挟む「そこまで私を甘やかすな。これでは働かなくなってしまう」
「クリフは働きすぎですもの。少しは怠けた方がちょうどいいです。お疲れでは?少し仮眠を取られては?昨晩も遅かったですし」
「いや、眠くはない。大丈夫だよ」
「では少し目を休ませて」
「トリシャは疲れていないか?」
「大丈夫です。私も仮眠を取ってますから」
トリシャがクリフォードの隣に腰掛けて自分の膝をぽんぽんと叩いてくる。ここに寝ろと言っている。クリフォードは思わず吹き出してしまった。
ここのところ睡眠が少ないのは毎晩愛し合っているから。楽園どころか天国のように快楽漬けの幸せな日々。そこに負担はない。むしろ日々充実している。だがトリシャがそこを気遣ってくる。
トリシャがクリフォードの体を気遣い眠るよう勧めるも、クリフォードが子作りの為という言い訳で口説きねだって押し倒している。体力差がある中で毎晩トリシャを抱き潰していた。本当はクリフォードがトリシャの体調を気遣うべきところなのだ。
そして今もわざわざ甘える口実をトリシャがクリフォードに差し出してきた。十二も年下な幼妻が自分を子供のように甘やかす。いや、この妻が大人びているためだろう。まるで過保護な母親のようだ。この溺愛体質も無自覚というのだから、クリフォードからさらに苦笑がこぼれてしまった。
初めて出会った頃の天使のような可愛らしい姫はクリフォードの本物の天使だった。
そしてそこまでわかった上で甘えようとする自分も自分だ。普段怒鳴り散らしている鬼の形相の自分を知っている秘書課の面々がこれを見たら卒倒することだろう。
「じゃあそうさせて貰おうかな」
クリフォードはトリシャの膝に笑顔で頭を預ける。トリシャの下腹部に顔を深く埋め腰を抱きしめた。手が丸みを帯びた臀部を撫でる。鼻を擦り付けて柔らかい下腹をくすぐってやる。その柔らかさに至福のため息が出た。吹き込まれた吐息にトリシャが甘い声を上げてびくんと跳ねた。
「あん!クリフ!」
「ダメか?いたずらはしていないだろう?」
「‥‥してないですが‥‥もう!ダメですよ。大人しく休んでください!」
服を脱がせていない。クリフォード理論ではこれはセーフだ。頬を染めて眉根を下げる、少し困ったようなトリシャがこれ程に可愛らしく愛おしい。そんな顔をされてはやっぱりいたずらしたくなる。
髪のピンを抜いて押し倒して服を脱がせてイチャイチャしたい。本能が顔の上の胸に手を伸ばしかけたがそれは午後に取っておこうと理性でぐっとこらえた。
最近理性が仕事をしていない。これではさすがにトリシャに叱られてしまう。
トリシャがクリフォードの目元をハンカチで覆う。眩しくないようにというトリシャの気遣いだが、ハンカチとトリシャ自身からあの魅惑の香りが漂いクリフォードの鼻孔をくすぐった。寒くないようにと膝掛けまでかけられてしまった。まるで子供扱いだ。
「休まれている間に今朝のタイムズの経済欄を読み上げますね」
トリシャはダグラスの元にいた時には視力の悪い夫の為に新聞や手紙の朗読も行っていた。その流れなのだろう。実際朗読を聞いたほうが目を休ませながら内容を理解できるのだが。
あのジジィ、こんな天国で仕事してたのか?膝枕抜きでも不公平がすぎるだろう?
朗読されているのは経済欄の記事。だがトリシャの声が読み上げれば耳に優しい詩のようにさえ聞こえてしまう。まるで子供を寝かしつける読み聞かせのようだ。トリシャの体の柔らかさと良い香り、優しい声音に包まれ甘い癒やしの中で、眠くないはずのクリフォードの意識が混濁し始めた。
まだもう少し仕事は残っている、午後はトリシャと温室で一緒に過ごす時間を確保したくて朝から頑張っていたのに。睡魔に抗うもその心地よさに少しだけ、とクリフォードはとうとう意識を手放した。
しばらく新聞の朗読を続けていたトリシャはふと朗読をやめ、膝の上の頭にそっと手を添えた。柔らかい寝息が聞こえてくる。
「やはりお疲れだったのですね。少しお休み下さい」
こうして二人きりの甘い時間をくれる
こんなにも自分を甘やかす夫
この愛しい人のそばに居られる
この日々がずっと続きますように
トリシャは自分の下腹部をそっと撫でた。あの山荘に出掛けてから一月、二週前に来るはずの月のものがまだ来ていない。幸せの予感に胸が甘く締め付けられる。夫がこれを知ったら喜んでくれるだろうか。
トリシャは愛おしげな笑みをたたえ膝の上のクリフォードの頬に唇を寄せた。
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