27 / 61
✠ 本編 ✠
024 秘密基地④
しおりを挟む「いつも一人のクリフぼっちゃまがどなたかを連れてここにお出でになるのは本当に久しぶりで。ご家族でいらしてた頃以来でしょうか。ここも賑やかになってようございます」
以前は家族で利用していたとクリフォードが言っていたからその頃からの付き合いなのだろう。ぼっちゃま呼びが可愛らしい。
そこから以降はずっとグレースの双子の初孫が生まれたと嬉しそうに話していた。今、育児を手伝っているという。トリシャも子供は好きだ。赤ん坊の話をしていたところでクリフォードの叫び声が聞こえた。
「グレース!グレース!」
「はぁい、なんでございましょうか、クリフぼっちゃま」
「ぼっちゃまはやめてくれ!」
階段の上から顔を覗かせてグレースを呼んだクリフォードは顔をしかめている。
「何だこれは?!コリンズから連絡は行ってなかったのか?!」
「なにがでございますか?」
「話が違う!ちょっと来てくれ、トリシャはそこで待っててくれ」
何か問題があったのだろうか?グレースが席を外し階段を上っていく。トリシャは大人しくお茶を飲んでいたが足元のチェスターが急に吠えだした。窓の外、白いものがはらはらと大量に降ってきた。
「あれは‥何かしら?花びら?」
刺すような寒さの中で外に出れば空から白いものが降ってきている。手に取れば冷たくすぐ溶けてしまった。トリシャの吐く息も湯気のように白い。
「これは‥‥雪?雪なの?すごいわ!」
ここは山頂に近く標高が高いが故だろう。街では見ることのない初めての自然現象にトリシャは子供のように歓喜の声を上げた。雪を知らせようと急いで二階に駆け上がるもクリフォードの声が聞こえてきた。クリフォードの部屋の前と思しき廊下にトリシャの旅行鞄が二つ置いてあった。扉は開け放たれている。
「だから違うんだ!」
「はぁ‥レイノルズのお嬢様と伺いましたので」
「またグレースの早とちりか。半分あってるが違う!他の部屋の準備は」
「すべて整えてあります。別室でよろしいのですか?」
「さっきからいいと言っている!それより今日は」
そこで駆け上がってきたトリシャにクリフォードが口を閉じた。
「クリフォード様?何か問題が?」
「いや、どうしたんだい?」
「すごいです!雪が降ってきました!」
「あらまぁ、今朝は冷え込むと思っていたのですが」
「雪?!この時期で随分早いな」
クリフォードが手で顔をするりとぬぐってふぅとため息をついた。
「トリシャ、済まない。色々手違いがあったようだ」
「手違い?」
「グレースがこれから村に帰ると言っている。双子の孫が生まれて忙しいそうだ」
先程その話は聞いていた。娘夫婦と一緒に山の麓で暮らしていると。手違いとは?
「ぼっちゃまがいらっしゃれば身の回りのことは大丈夫でございましょう。食料も薪も備えております」
「料理なら私でも作れるが‥他に誰か人を寄越せないか?」
「私の娘は産後で動けませんし、急には‥」
クリフォードが渋っている。そこでトリシャはようやく事態を理解した。グレースはただ一人の管理人。そのグレースがいなくなる。つまりこの山荘にクリフォードとトリシャはふたりきりになってしまう。その衝撃でトリシャの呼吸が止まった。体温が急上昇する。
ええ?クリフォード様とふたりきり?七日間も?
「ぼっちゃまはいつもおひとりで過ごされていたので問題ないかと」
「問題ないといえば問題はないんだが‥私はいいがトリシャをひとりにしたくない‥メイドもいない。ひとりでは生活に無理があるだろう?」
そこでトリシャははっと気がついた。確かに問題はない。なにせ自分たちは親子だ。家族ふたりで何が起こるというのだろう。部屋だって別々だ。今までの別邸での暮らしと何も変わらない。
意識してるのは私だけじゃなの、恥ずかしい!
ひとりにしたくない?さっきは大人の女性扱いしてくれたのに今は子供扱い?これでも身の回りのことくらい自分でできるのに!
ここは大人の女性としてひとりでも大丈夫だとアピールしなくては!
気合十分、トリシャは鼻息荒くグレースの手を取った。
「大丈夫です!私も自分のことは自分でできます。グレースはどうぞ双子のお孫さんの面倒を見てあげて、ね?」
「まぁまぁ、なんてお優しい。もったいないお言葉ですわ」
「トリシャ?!無理だろう?!」
クリフォードに頭から全面否定されトリシャはムッとなる。俄然やる気でいた。
「ひとりでも大丈夫です!なぜ無理と決めつけるのですか?やってみないとわかりません!立派にお役に立ってみせます!私は頼りないですか?」
「い、いや違う!頼りないとかそういうことでは‥あぁもう!そうじゃないんだがなぁ」
「本当にご立派でございますこと!さすがはぼっちゃまが見初められ」
「グレース!もう余計なことを言うな!話がややこしくなる!」
クリフォードが目元を手で覆いはぁぁと深いため息を吐いた。
「ひとまずグレースを家に送ってくる。代わりの人間を探してくるから。すぐ戻るがそれまでここにいられるか?いや、やはり一緒に」
「いいえ!私はここで待っております。チェスターも馬車を嫌がりますし暖炉の火を消したくありません。私も大人ですし留守番くらいできますわ!」
「そ‥そうか?ひとりで大丈夫だろうか?」
「心配いりません!こんな山奥に誰も来ませんし番犬のチェスターもいます。お任せください!」
「‥‥色々ツっこみたいが、君の謎のやる気でむしろ心配だ。まぁここはそれほど雪が積もる場所でもないから。夕方には必ず戻る」
何やら失礼なことを言われた。
グレースがトリシャの手を握って来た。
「トリシャお嬢様、ありがとうございます。好きなお部屋を選んでくださいまし。どこも暖炉を開いてあります」
「私の部屋を選んで良いのですか?素敵だわ。ありがとう、そうします」
「トリシャお嬢様、私は下がりますがクリフぼっちゃまをどうぞよろしくお願いしますね。トリシャお嬢様ならとてもお似合いでご」
「グレース!いくぞ!」
後半はクリフォードの声がかぶって聞こえなかった。笑顔のグレースに何やらお願いされたがクリフォードの身の回りのことだろうか。
外で待っていた小ぶりの馬車はグレースの馬車だった。御者はグレースの息子だという。ふたりの乗った馬車をトリシャはチェスターとともに見送った。
だが夜になるにつれて雪の勢いは収まることがなかった。
0
お気に入りに追加
409
あなたにおすすめの小説


密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる