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✠ 本編 ✠
024 秘密基地④
しおりを挟む「いつも一人のクリフぼっちゃまがどなたかを連れてここにお出でになるのは本当に久しぶりで。ご家族でいらしてた頃以来でしょうか。ここも賑やかになってようございます」
以前は家族で利用していたとクリフォードが言っていたからその頃からの付き合いなのだろう。ぼっちゃま呼びが可愛らしい。
そこから以降はずっとグレースの双子の初孫が生まれたと嬉しそうに話していた。今、育児を手伝っているという。トリシャも子供は好きだ。赤ん坊の話をしていたところでクリフォードの叫び声が聞こえた。
「グレース!グレース!」
「はぁい、なんでございましょうか、クリフぼっちゃま」
「ぼっちゃまはやめてくれ!」
階段の上から顔を覗かせてグレースを呼んだクリフォードは顔をしかめている。
「何だこれは?!コリンズから連絡は行ってなかったのか?!」
「なにがでございますか?」
「話が違う!ちょっと来てくれ、トリシャはそこで待っててくれ」
何か問題があったのだろうか?グレースが席を外し階段を上っていく。トリシャは大人しくお茶を飲んでいたが足元のチェスターが急に吠えだした。窓の外、白いものがはらはらと大量に降ってきた。
「あれは‥何かしら?花びら?」
刺すような寒さの中で外に出れば空から白いものが降ってきている。手に取れば冷たくすぐ溶けてしまった。トリシャの吐く息も湯気のように白い。
「これは‥‥雪?雪なの?すごいわ!」
ここは山頂に近く標高が高いが故だろう。街では見ることのない初めての自然現象にトリシャは子供のように歓喜の声を上げた。雪を知らせようと急いで二階に駆け上がるもクリフォードの声が聞こえてきた。クリフォードの部屋の前と思しき廊下にトリシャの旅行鞄が二つ置いてあった。扉は開け放たれている。
「だから違うんだ!」
「はぁ‥レイノルズのお嬢様と伺いましたので」
「またグレースの早とちりか。半分あってるが違う!他の部屋の準備は」
「すべて整えてあります。別室でよろしいのですか?」
「さっきからいいと言っている!それより今日は」
そこで駆け上がってきたトリシャにクリフォードが口を閉じた。
「クリフォード様?何か問題が?」
「いや、どうしたんだい?」
「すごいです!雪が降ってきました!」
「あらまぁ、今朝は冷え込むと思っていたのですが」
「雪?!この時期で随分早いな」
クリフォードが手で顔をするりとぬぐってふぅとため息をついた。
「トリシャ、済まない。色々手違いがあったようだ」
「手違い?」
「グレースがこれから村に帰ると言っている。双子の孫が生まれて忙しいそうだ」
先程その話は聞いていた。娘夫婦と一緒に山の麓で暮らしていると。手違いとは?
「ぼっちゃまがいらっしゃれば身の回りのことは大丈夫でございましょう。食料も薪も備えております」
「料理なら私でも作れるが‥他に誰か人を寄越せないか?」
「私の娘は産後で動けませんし、急には‥」
クリフォードが渋っている。そこでトリシャはようやく事態を理解した。グレースはただ一人の管理人。そのグレースがいなくなる。つまりこの山荘にクリフォードとトリシャはふたりきりになってしまう。その衝撃でトリシャの呼吸が止まった。体温が急上昇する。
ええ?クリフォード様とふたりきり?七日間も?
「ぼっちゃまはいつもおひとりで過ごされていたので問題ないかと」
「問題ないといえば問題はないんだが‥私はいいがトリシャをひとりにしたくない‥メイドもいない。ひとりでは生活に無理があるだろう?」
そこでトリシャははっと気がついた。確かに問題はない。なにせ自分たちは親子だ。家族ふたりで何が起こるというのだろう。部屋だって別々だ。今までの別邸での暮らしと何も変わらない。
意識してるのは私だけじゃなの、恥ずかしい!
ひとりにしたくない?さっきは大人の女性扱いしてくれたのに今は子供扱い?これでも身の回りのことくらい自分でできるのに!
ここは大人の女性としてひとりでも大丈夫だとアピールしなくては!
気合十分、トリシャは鼻息荒くグレースの手を取った。
「大丈夫です!私も自分のことは自分でできます。グレースはどうぞ双子のお孫さんの面倒を見てあげて、ね?」
「まぁまぁ、なんてお優しい。もったいないお言葉ですわ」
「トリシャ?!無理だろう?!」
クリフォードに頭から全面否定されトリシャはムッとなる。俄然やる気でいた。
「ひとりでも大丈夫です!なぜ無理と決めつけるのですか?やってみないとわかりません!立派にお役に立ってみせます!私は頼りないですか?」
「い、いや違う!頼りないとかそういうことでは‥あぁもう!そうじゃないんだがなぁ」
「本当にご立派でございますこと!さすがはぼっちゃまが見初められ」
「グレース!もう余計なことを言うな!話がややこしくなる!」
クリフォードが目元を手で覆いはぁぁと深いため息を吐いた。
「ひとまずグレースを家に送ってくる。代わりの人間を探してくるから。すぐ戻るがそれまでここにいられるか?いや、やはり一緒に」
「いいえ!私はここで待っております。チェスターも馬車を嫌がりますし暖炉の火を消したくありません。私も大人ですし留守番くらいできますわ!」
「そ‥そうか?ひとりで大丈夫だろうか?」
「心配いりません!こんな山奥に誰も来ませんし番犬のチェスターもいます。お任せください!」
「‥‥色々ツっこみたいが、君の謎のやる気でむしろ心配だ。まぁここはそれほど雪が積もる場所でもないから。夕方には必ず戻る」
何やら失礼なことを言われた。
グレースがトリシャの手を握って来た。
「トリシャお嬢様、ありがとうございます。好きなお部屋を選んでくださいまし。どこも暖炉を開いてあります」
「私の部屋を選んで良いのですか?素敵だわ。ありがとう、そうします」
「トリシャお嬢様、私は下がりますがクリフぼっちゃまをどうぞよろしくお願いしますね。トリシャお嬢様ならとてもお似合いでご」
「グレース!いくぞ!」
後半はクリフォードの声がかぶって聞こえなかった。笑顔のグレースに何やらお願いされたがクリフォードの身の回りのことだろうか。
外で待っていた小ぶりの馬車はグレースの馬車だった。御者はグレースの息子だという。ふたりの乗った馬車をトリシャはチェスターとともに見送った。
だが夜になるにつれて雪の勢いは収まることがなかった。
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