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✠ 本編 ✠
022 秘密基地②
しおりを挟む「トリシャ、あまりあれに関わるな」
「あれとは?アーサーですか?」
珍しく低い声だ。クリフォードの機嫌が悪いとわかる。
「じいさんの遺言もある。君はレイノルズから外れている。あれに関わるのはじいさんの本意ではない」
「‥‥‥そうですね」
自分はもうレイノルズではない。アーサーとも家族ではないのだ。なのに仲良くするのは世間から見れば奇異に映るだろう。クリフォードからそう指摘されたのだとトリシャは解釈した。
「君が管理していた会社の役員が君に会社に出るよう言ってきているがあれも無視していい。今まで問題なかったのに、じいさんが死んだ途端出てこいという輩は信用ならない」
「‥わかりました」
「喪が明けて色々と動き出している。何か君に言ってきたらまず私に教えて欲しい。こちらから話を通しておくから」
「ありがとう‥ございます」
「気にするな。それが後見人の仕事だ」
笑顔のクリフォードに大きな手で頭を撫でられる。昔からのクリフォードの癖だ。触れられて嬉しいが十七歳の女性の頭を撫でるのもどうなのだろうか。クリフォードにとってまだ自分は子供なのかもしれない。微笑むクリフォードを直視できずトリシャは視線をそらした。
だが日に日に来客は多くなっていった。ダグラス存命の頃に担っていた仕事の都合でほんの一部にトリシャの所在を明かしたがそこから徐々に広まっているようだ。身を隠したいトリシャにとってはあまり良いことではない。
その合間を縫ってアーサーがやってきて出かけるようねだられる。外には出たくない。人の集まる場所も怖い。正直アーサーの相手にも疲れてしまった。困っていればクリフォードが小言を言ってアーサーを追い出した。
急に人が群がってきた。どうしてだろうか。
夕食時にその話をすればクリフォードがため息をついた。
「おそらくじいさんがいなくなった弊害だな」
「そうでしょうか?」
「じいさんが君を守っていた。じいさんの妻でステイル伯爵夫人だった君にむやみに声をかけられなかった。だが今は表向きはレイノルズを外れイングリス姓に戻っている。爵位もなく独身、遠慮もいらなくなったわけだ」
「私はもう伯爵夫人ではないので関わる意味もないはずですが」
自分はもはやレイノルズではない。トリシャに関わっても良いことはもうないはずなのに。
「そんなことはない。これから遺産も相続する。じいさんの経営にも参画していた。今から取り入ろうとしているものもいるだろう。それに‥‥」
「‥‥それに?」
急にクリフォードが押し黙った。苦々しく顔をしかめるクリフォードの不穏な気配にトリシャはどきりとする。何か他にも問題があるのだろうか。目を閉じたクリフォードは吐息とともに話を逸らした。
「‥‥いや、なんでもない。本当は君はプリムローズ家に入っているのだが非公開にしている。貴族年鑑にも載せていないからな。皆それは知らない。いっそロージア伯爵の名が使えればいいが」
「いいえ!それでは色々とご迷惑がかかります!」
「‥まあそうだな、あまりうっとうしいようなら後見人権限を使うから教えてくれ」
それは面会謝絶ということだろう。そこまでの強権を発動するほどではない。なぜか年若い男性の面会希望が激増しそれらは断っているが、年配者でもよく知らない人との面会ほど苦手なものもない。トリシャはため息をついた。
だがある日、面会希望がパタリとやんだ。
「面会は断ることにした」
「だ、大丈夫でしょうか?」
「流石に目に余った。面会理由もひどすぎた。必要があれば書面を出せといえばおとなしくなった。その程度のことだったんだよ。君に会うこと自体が目的だったんだ」
「はぁ‥‥?」
会うことが目的。何の得にもならない。急に面会に応じすぎて顔と名前も一致していない状況だ。強権だがクリフォードがトリシャを思いやって動いてくれたと思えば嬉しい。
トリシャがときめいていたところでクリフォードから提案が出た。
「トリシャ、少しここを離れてみないか?」
「離れる?どちらに?」
「私の秘密基地だよ。気分転換だ」
クリフォードがいたずらっぽく笑った。
クリフォードの秘密基地?それは初めて聞いた。
「人間関係に疲れると逃げ込む場所だ。人付き合いを断つには無人島に籠もるのが一番だ。まあ無人島は無理だが秘密基地はそれに近い場所だな」
「そんな場所が?」
「山奥にある別荘だ。ここからそれ程は遠くない。以前は家族でよく行っていたが最近は私専用だな。今時期なら紅葉がきれいだ。秋の山を見たことは?」
「いいえ‥私は‥レイノルズ邸を出たことがなかったので」
ダグラスが外出しなかったというのもあったが、トリシャも引きこもりだ。旅行になど行く機会も行きたいとも思わなかった。
「‥‥そうだったな。今頃は紅葉も見頃だ。どうだろう?気晴らしに行ってみないか?」
「クリフォード様と?お仕事はよろしいのですか?」
「私もそろそろ出かける頃だった。秘書課の皆や重役たちはうるさい私がいなくなるだけで喜ぶんだよ」
「‥ご一緒‥ということでしたら是非」
手持ちの業務も急ぎのものはない。確かに面会に疲れていた。人がいない環境に行きたい。何よりクリフォードと一緒に出かけられる。初めてのことだ。それがとても嬉しい。
内心はしゃいていると知られたくない。トリシャはそっと目を伏せた。
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