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✠ 後日談 ✠

Ever after《トリシャ》②

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「本当は結婚式を挙げたかったろう?」
「式はいりません。再婚ですし」
「実質君の初婚だ。仕事が忙しくてとりあえずここに来たが、改めてきちんと休暇を取ってどこかに出かけよう。君を手に入れたくて先に籍を入れたが君のドレス姿も見たい。式もちゃんと」
「式も旅行もいりません。クリフと結婚できただけで十分幸せなのに‥‥、ここにつれてきてくださってありがとうございます!すごく嬉しい!」
「‥‥また可愛いことを言ってくれる」

 クリフォードがトリシャを横抱きに抱き上げたまま山荘に入った。まるで新婚の新居に入るよう。迷わず二階のクリフォードの部屋に入った。カーテンが引かれ薄暗かったがそこは何も変わっていなかった。
 クリフォードはトリシャをベッドに腰掛けさせトリシャの前にひざまずいて靴を脱がせてしまった。部屋は暖かく整えられていたがなぜか人の気配がない。その疑問にクリフォードが答えた。

「グレースは先程帰した」
「え?でも」
「今晩から雪だ。グレースが帰れなくなるからな」
「雪?!本当ですか?!」
「ああ、楽しみだろう?私もだ。君の面倒は私が見る。あの時と同じ、ふたりきりだ」

 あの時と比べればチェスターもいない。この夢の国で本当のふたりきりだ。どくんとトリシャの脈が上がった。膝をつくクリフォードに下からのぞき込まれてドキドキが止まらない。クリフォードがトリシャの頬にそっと触れた。

「懐かしいな。たった三月前なのに随分昔のようだ。吹雪の夜、あの時私は君に堕ちたんだ、完膚なきまでに」
「クリフ‥」
「君が私を心配して滅茶苦茶に怒ったろう?あの顔が愛おしかった」
「‥‥‥え?」

 なんですと?固まるトリシャにクリフォードはいい笑顔だ。

「君が欲しくてずっと堪えていたんだが。あの時君の怒った顔を見て、理性が粉砕された。あぁもうこれはダメだと思ったよ。無駄なあがきだと、いっそ諦めがついたな」
「は?ええぇ?!そこですか?!」

 衝撃の暴露発言。よりによって怒った顔が良かったと言われた。普通ではありえない。自分はどんな顔をしていただろうか?それともクリフォードがおかしい?きっとそうに違いない。トリシャの顔がムッと不機嫌になる。

「もうクリフ!ひどいです!」
「そう、その顔だ。ダメか?あの時君に心配されて嬉しかった。君に愛されているとわかったから」
「え?!なぜ?どうして?!あんなに怒ってたのに?!」
「トリシャは怒った顔でさえ可愛い」

 羞恥心のないクリフォードにしれっと恥ずかしいこと言われた。トリシャの頬が勝手に熱くなる。

 あの時はひどく怒っていた記憶しかない。しかもクリフォードにキレて殴りかかった。その前は銃を手にしていた。しかも扱いがとてつもなくへなちょこだった。

 羞恥で真っ赤になった頬に両手に当てるも一向に冷める様子がない。

「トリシャのあの顔を見れば鈍感な私でも流石にわかった。だが君の想いの強さはわからなかった。あの関係は良くないとわかってはいたが、せめてあの時だけでも親子ではなく君と愛し合いたいと思った。だがその後も手放せず結局無理矢理引きずってしまったな。ずっと前から君に愛されているとわかっていればあそこまで拗れなかったろう。まあそもそも私が悪かったんだが」
「クリフ?」

 その時を思い出したようにクリフォードが深いため息を落とした。

「遺言状公開の日に、じいさんの言う通りにしていればよかった。つくづく悔やまれる。年の差を理由に無理だと言い訳をして勝手に臆した。私が正直に話して求婚していれば君は私の手を取ってくれたのだろう?」

 頬を染めたトリシャは目を伏せてこくんと頷いた。

 確かにそうかもしれない。だがあの時婚約できてもどこかで何かが破綻していただろう。時に苦しくて悲しくて、でも幸せな時間、やはりあの五ヶ月は必要な時間だったとトリシャは思っていた。ダグラスもきっとそこまで計算していただろう。

「本当に‥‥私の姫は愛らしいな」

 クリフォードが嬉しそうにトリシャを抱きしめた。きつく結い上げた髪のピンを抜いてそっとベッドに押し倒す。トリシャの艷やかな栗色の髪がシーツに広がった。クリフォードはそれを愛おしげに手ぐしで梳いた。

「別邸ではダメだ。メイドがいては君は自制する。だから早くふたりきりになりたかった」
「え?クリフ?」
「この間は薬が切れたが今回はたくさん準備させた。乱れるトリシャがまた見たい。我慢せず存分に善がってくれ」
「くく薬?!たくさんって‥」

 サイトテーブルの引き出しを開けたクリフォードがバラバラと小瓶を取り出した、大量に。トリシャは目を疑った。ヤる気満々なクリフォードにちょっと引いてしまったが嫌ではない。クリフォードに求められればなんだって、際どい事だって応じるだろう。それ位にはクリフォードに堕ちている。何よりも今はふたりきりなのだから。

 クリフォードの手が早い。テキパキとトリシャの服を脱がせていく。トリシャもクリフォードの首元のタイを解きながらせめてと大事なことを懇願した。

「雪が積もったら今度こそ雪遊びがしたいです」
「わかっている、気をつけよう。積もるのは明後日だな。それまでは君を好きにしていいだろう?」
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