【完結】R18 秘密 〜 恋に落ちた人が義父になりました

ユリーカ

文字の大きさ
上 下
13 / 61
✠ 本編 ✠

010 楽園②

しおりを挟む



 クリフォードとの生活はその後穏やかに過ぎた。朝共に食事をとりクリフォードを送り出す。夜には帰宅するクリフォードを出迎えて夕食を共にする。日中は本を読んだりチェスターと庭に出たりして過ごす。トリシャの部屋の改築も進んでいる。

「おかえりなさいませ」
「ただいまトリシャ、お土産だ」
「これは?」

 クリフォードが小さな箱を差し出してきた。リボンを解いて蓋を開ければ翡翠色の万年筆と専用ケースが入っていた。

「衝動買いだ。店頭で目がとまった。トリシャに似合う色だと思って。万年筆は何本あってもいいだろう?」
「素敵‥ありがとうございます。大事にします」

 美しい万年筆にトリシャの胸がときめいた。どんな宝石よりも嬉しい。勝手に赤くなる頬を冷やそうと手をあてがうが冷める様子がない。

 クリフォードは刺繍が美しいハンカチやガーベラの花束を買ってきたこともあった。贈り物も華美なものではなく文房具などの小物の方がトリシャが喜ぶとクリフォードも学習したようだ。実用品だしちょっとした小物だと受け取りやすい。断ってばかりも気まずいので小物は受け取ることにした。そうすればクリフォードも機嫌が良い。その笑顔にトリシャの胸が更に高鳴った。

 こんなにされては困るわ。甘やかさないで欲しいのに。
 それともこれが普通の父娘なのかしら?

 記憶を失ったトリシャは父親のことはほんの僅かしか覚えていない。だからこの関係が普通の父娘と同じかどうかはよくわからなかった。

 ただクリフォードがトリシャを大事にしてくれていることはよくわかった。




 トリシャの日常に外の世界の情報は一切入ってこない。ここは隔離された世界、クリフォードがそのように対処しているとわかる。
 一度だけ気になってゴシップ紙の様子をコリンズに尋ねたが、ダグラスの死とトリシャが莫大な遺産を相続したことは報じられたとのことだった。だがこの家まで記者は詰めかけていない。トリシャの居場所は知らされていない。秘密は守られている。

「ああ、大丈夫だ。それもそのうち片付くから」
「片付く?」

 夕食の際にそれとなくクリフォードに話を振ればクリフォードはこともなげに言ってのけた。

「私がゴシップ紙三社の株主だ。私の名義ではないけれどね」
「え?」
「株主のいうことはよく聞く。そのうち静かになる」
「そう‥なのですね」
「色々とうるさかったからな。資本の力だ。黙らせるならこれに限る。以前から買い集めていた」

 以前から買い集めていた。株の購入はダグラスが存命の頃からということだ。ダグラスとトリシャの結婚は最初こそゴシップ紙に騒がれたが、数年したら嘘のように静かになった。一度目をつけられたらゴシップ紙はしつこい。それなのにだ。
 それは知らないところでゴシップに傷ついたトリシャをクリフォードが守っていてくれたということだ。言うことを聞かせるほどの株主とは大株主だろう。

 そこまで思い至ってトリシャのカトラリーを持つ手が止まった。頬が勝手に熱くなる。甘やかしも困ってしまうがさりげなくこういうことをされては堪らない。

「ありがとうございます」
「だが外出はまだ控えて欲しい。誰に見つかるともわからない」
「わかりました」

 守ってもらってばかり。少しでもお返しがしたい。どうすればいいのだろうか。
 こんな自分ができることなど少ししかないのに。

 ある日ふとコリンズに聞いてみた。この執事はクリフォードと付き合いも長いらしい。クリフォードの事なら何でも知っていそうだ。

「旦那様のお好みですか?」
「ええ、教えてもらえますか?少しでもお好みに添いたいので」

 家の中は好きにしていい。クリフォードから許可を貰った。夏から秋に向かう時期、暖色で纏めたらいいだろうとメイドたちとあれこれ相談し部屋の模様替えを行う。帰宅したクリフォードは相当に驚いていた。

「すごいな、家のイメージが変わった」
「気に入っていただけましたか?」
「ああ、こっちの家は正直週末に寝に帰るだけだったからここまで内装に気を遣ってなかった。居心地良くなったな」
「———寝に帰る?」

 今クリフォードは毎晩帰宅している。それまではどのような生活だったのだろうか。ダグラスは自宅で仕事をしていたからトリシャに通勤という概念がない。

「会社の上のペントハウスで寝泊まりしてた。思えばあそこも寝るだけだったな」
「自宅で仕事はなさらないのですか?」
「ああ、じいさんは自宅派だったな。私は外泊も多くて帰るのが面倒だった。家か、今はそうでもないしそうするかな」
「でしたらお手伝いさせてください」
「手伝い?」
「今手持ちの業務もありませんし、クリフォード様のお手伝いを許していただけないでしょうか」

 この家に移り住んで二週間が過ぎようとしていた。ここの生活にも慣れた。自分も何か役に立ちたい。何もしなくていいというクリフォードを口説き落とし、在宅でのクリフォードの業務の補佐をさせてもらえることになった。

 一方でクリフォードからも提案が出た。

「役に立ちたいと言うならトリシャの夜の時間をくれないか?」
「夜‥ですか?」

 夜の時間。意味深だ。
 トリシャは表情は咄嗟に凍らせたが心臓がドキドキと耳朶にうるさいほどだ。

「食後の時間に話し相手になってほしい。少しでいいから。じいさんともやっていただろう?」

 ああ、なんだあれか、とトリシャは息を吐き出した。色々と意識し過ぎだと自分を戒める。

「はい、でも私でよろしいのでしょうか?」
「ああ、トリシャがいい。良ければ今晩からどうだろうか」
「構いませんが‥‥‥?」

 ダグラスがその日あったことを話しトリシャが聞く。ただそれだけでダグラスはとても喜んでいた。何がいいのかトリシャにはよくわからなかったが、クリフォードもそれを望んでいる。疑問に思いながらもクリフォードに頷いてみせた。

 
 仕事があるのはいい。今までダグラス保有の数社の事務仕事やステイル伯爵領の領地管理業務を任されていた。とても有意義な時間だった。そして今、クリフォードと在宅で仕事を共にすることもとても楽しかった。

 仕事を共にし夕食後も一緒にくつろいでいる。幸せな時間だ。ふたりだけで過ごす楽園のよう。

 トリシャの一日はクリフォードを中心に回っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...