【完結】R18 秘密 〜 恋に落ちた人が義父になりました

ユリーカ

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✠ 本編 ✠

004 トリシャ②

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 本日何度目かの衝撃。トリシャは目を瞠り息を呑んで兄弟子を見上げた。クリフォードの言葉の意味がわからない。

「‥‥‥‥‥むすめ?」
「イングリスの姓のままでは危険だ。私が君の保護者になろう」
「え?ほご‥」
「君を私の姓へ。私と養子縁組を組むことになる。結婚はできないが君を守る権限は他にもある。父親になれば問題ないだろう。十二歳差だけれどもね。私ではダメかな?」
「‥‥‥え?‥‥ちち‥?」

 トリシャはますます目を見開いた。今も恋焦がれる相手が義父になる。その状況にトリシャは大混乱だ。実父の記憶はわずか。だから義父ができるということも想像ができない。実感がない。トリシャの躊躇いを違う意味でクリフォードが解釈する。

「確かに異常なことを言っている自覚はある。だがこの状況もまさに異常だ。あのじいさんが企てたんだがな」
「企てた?ダグラス様がですか?」
「財産を分与した上で君を族外に出した。レイノルズに私たちの婚姻を反対させないためだろう。そこまで考えて手を回してきた」

 なるほど、とトリシャはあのチグハグな違和感の意味がわかった。確かに族外に出たトリシャの婚姻にレイノルズは口を出せない。そうでなければ次期伯爵のダリルは犬猿の仲のクリフォードをトリシャの夫に許しはしないだろう。トリシャの幸せを祈り族外に出したダグラスの意図をトリシャはやっと理解できた。

「だが私と結婚せず身寄りのないままはよくない。君の相続財産目当てによからぬ輩が寄ってくる。それは避けたい」

 言外に昔の借金取りの男たちのことを指摘されトリシャに震えが走った。それはトリシャのトラウマに直結する。難癖をつけて付き纏ってくるかもしれない。男たちを退けたダグラスの庇護はもうない。青ざめるトリシャにクリフォードが慌てて言い募った。

「すまない、怖がらせるつもりじゃなかった。だが君を守りたいんだ。どうかこの話を受けてくれないだろうか?」

 おそらくこれが結婚をしないクリフォードの出来うる最大限の恩情なのだろう。トリシャは一度族外に出ている以上レイノルズを頼るわけにもいかない。イングリス姓では頼る親族もいない。爵位もなく一人では身を守るすべもない。
 何よりダグラスがいなくなり、トリシャが恐れない男性はクリフォードだけになってしまった。これでは助けを差し伸べられても他の誰かの手も取れない。

「でも‥ご迷惑ではないでしょうか?」

 自分は騒動の種だ。世間の目もある。父に売られたトリシャを守るためにダグラスはトリシャと婚姻を結んだが、今度は遺産相続でゴシップが動くだろう。
 クリフォードがそこも理解してくすりと苦笑する。あまり笑うことがないクリフォードのその笑顔にトリシャは魅入られてしまった。トリシャにとってそれはご褒美の笑顔だ。

「迷惑ならこんな提案はしない。このまま君を放っておく方が心配だよ。私のことを気にするということは、君自身は問題ないんだね?話は受けてくれそうかな?」
「ご実家にお話しなくては」
「母のことは気にしなくていい。どうせ何でも反対する。私の家族のことで口出しはさせないよ」
「世間がきっと‥」
「大丈夫だ。君を守ってみせる。うちに来ればいい。好きなだけ身を隠していればいいさ。君の居場所も養子縁組も秘密だ。こちらから手を回す」

 莫大な遺産を受け継いだうら若き未亡人。ダグラスの死でまたトリシャは注目されるだろう。ゴシップが怖い。でも隠れ場所を提供してくれるというクリフォードの言葉にトリシャは安堵の息を吐いた。

 この手を取ってもいいのだろうか。
 こんな想いを抱えたまま親子になる。
 だがどうせ叶わぬ想いだ。
 誰にも嫁げない自分。あなたにも愛されなかった。
 それなら———


 義父でもいい‥‥
 せめてあなたのそばにいたい。いて欲しい。


「よろしく‥お願いします」

 おずおずと応じるトリシャにクリフォードが顔を綻ばせた。

「よかった、これで天国のじいさんも安心するだろう。ああ、そうだ、合わせて後見人の登録も行おう。すぐにうちの弁護士に手続きをさせるから大丈夫だ」
「‥えっと‥‥こう?」
「あとのことは任せて。この部屋を出たら私の家へ一緒に行こう。色々言ってくる輩もいるかもしれない。すぐがいい、荷物は後からでもいいから」
「はい」

 呼び鈴で弁護士を呼び戻しクリフォードが説明をすると弁護士は目を見開いた。

「確かに‥問題はありませんが」
「養子縁組と後見人の手続きはうちの弁護士がする。そちらはレディ・ステイルの貴族籍除外の手続きを。詳細は連絡させよう。ステイル次期伯にも伝えておいてくれ。彼女の相続予定分の資産は——」

 茫然とするトリシャをよそにクリフォードが流れるように弁護士と今後の話を進めている。そしてトリシャの肩を抱いてクリフォードが部屋を出た。廊下で待っていたアーサーが駆け寄ってくるも、他にも知らない親族の面々が押しかけてきてトリシャに話しかけてくる。クリフォードと一緒にいなければ襲いかかる人混みに尻込みしているところだが、クリフォードが強引に人々を押しのけトリシャを連れ出した。

「トリシャ、話終わった?ここにいないほうがいいよ、僕の部屋に行こう」
「ごめんなさいアーサー、すぐに行かないと。今までありがとうね」
「どこ行くの?クリフォードとの話は終わったんだよね?」
「あとで連絡するから」

 クリフォードに手を引かれ自室に戻り侍女に荷造りの指示を出す。身の回りの最低限のものと犬のチェスターを連れて逃げるようにレイノルズ邸を出てクリフォードの馬車に乗り込んだ。
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