33 / 61
✠ 本編 ✠
030 夢の国①
しおりを挟むトリシャは暖かい温もりの中で目を覚ました。見覚えのない天井、ぼうとそれを見上げここが別荘だと思い出した。だがここはトリシャに準備された部屋ではない。大きすぎる。
「目が覚めたか」
そう耳元で囁かれ、視界の外から大きな手が伸びてトリシャを抱き寄せる。一人じゃない、その声を知っている。その衝撃でガチンと固まった。
「クリフォード‥さま‥‥?!」
「様はいらない。ふたりだけの時はクリフでいい」
なぜここにクリフォード様が?!一緒に寝てる?!
そこで昨晩のクリフォードの帰還から情事までの一部始終が脳内を駆け巡った。
昨日私はクリフォード様と———
「体はどうだ?無理をさせたな」
クリフォードはトリシャを慰ってくるがトリシャはそれどころではない。あのクリフォードと一線を越えてしまった。夢に見てはいたが現実となるととんでもない展開だ。クリフォードと目も合わせられずトリシャは視線を逸した。
「だだだだいじょうぶです!ここは!」
「私の部屋だ。あちらは‥ふたりで寝るには狭いからこちらにつれて来た」
暖炉には火が焚べられ部屋は暖かい。ベッドも大きい。全てが居心地良く整えられていた。
そこでふと自分が昨晩と違う夜着を纏っていると気がついた。新しい下着も身につけ体も清められているとわかる。全て自分が持って来たものだ。自分でやった記憶もない。
ということは?
戸惑うトリシャをクリフォードが別の方向で気遣った。
「すまない、手加減が利かなかった。痛み止めは効いているか?痛むようならもう少し塗った方がいいかもしれないな」
「え?」
「ん?どうした?」
痛み止め?塗る?
初めては痛いと聞いていた。確かに昨晩クリフォードに貫かれた時はすごく痛かった。だが今下腹部は鈍い痺れを感じる程度。
痛み止めが効いている
そこでトリシャは全ての事の次第がわかり血の気が一気に引いた。
あの情事の後、クリフォードが意識を失ったトリシャの体を清め夜着と下着を着せた。なおかつ痛むだろうとトリシャの中に痛み止めを塗った。その間、自分は目を覚ますこともなく寝ていた、ぐーすかと。この部屋に移って来たのは、おそらくあちらのベッドがトリシャで汚れたから。そこまでクリフォードに気遣われた。
最悪だわ!恥ずかしすぎる!!
「ううううッごめごめごめ」
「あ!いや違う!なんだか準備万端備えていたみたいだがそうじゃないからな!決して計画的じゃ‥グレースが何やら誤解して‥薬一式を用意していて‥いや、結果的には助かったんだが」
「!!!!!!」
グレースに誤解されていた。
滅多に女性を伴わないクリフォードがトリシャを連れてふたりだけでこの山荘にやってきた。トリシャは喪服を着ていない。親子なのだが何も知らなければ誤解もするだろう。お似合いだとまで言われてしまった。だからあれ程熱烈歓迎されていたのだ。挙句薬まで用意されていた。
そういうことをする関係と思われた
トリシャがぼふんと赤面し、上掛けを引き上げた。もういたたまれなさすぎてクリフォードにあわせる顔がない。
いらないことを言った、クリフォードも目元を覆い嘆息する。
「この話はやめよう。食事の準備をする」
グレースはいない。自分たちで食事を準備しなくてはいけない。起きようとするトリシャをクリフォードが押し留めた。
「私がする。君は休んでいるんだ」
「でも」
「ここの暮らしには慣れている。大丈夫だ。準備はできているから」
ベッドから起き上がったクリフォードも寝間着を着ていた。ガウンを羽織りスリッパを引っ掛け部屋を出ていく。入れ替わりにチェスターが入ってきた。もう食事をもらっていたのかご機嫌だ。おそらくクリフォードは先に起きていて、眠るトリシャを気遣い全て整えていたのだろう。
ベッドの中で半身を起こしチェスターを膝に抱き上げる。頭を撫でながらトリシャはふぅと嘆息した。夜着の中を覗き込めば胸元に赤い痕が散っている。胸元の傷痕の上に、それも大量に。それらにさらにトリシャの鼓動が跳ね上がった。
夢じゃない。膣内のかすかな痛みもある。体がだるい。
今回はクリフォードの記憶も残っている。
そういうことをした関係になってしまった。
トリシャの体の秘密も知られてしまった。
だが嫌われなかった。だたそれだけだったがほっとする。クリフォードに嫌われたらきっともう生きていけないだろう。
窓の外は風は落ち着いたもののまだ雪は降っている。一面真っ白だ。これはしばらくここから出られないだろう。幻想的、だが自然がふたりを世間から隔離している。ここは本当に無人島のようだ。耳をすませば静かなはずなのに雪が降り積もる音が聞こえるようだ。
トリシャはチェスターと共に雪景色をぼうと眺めていた。
0
お気に入りに追加
408
あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる