【完結】王子様は逃走中!

ユリーカ

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第一走

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 なぜ?どうしてこうなった?

 ファシア王国第二王子アルフォンス十五歳。
 目の前の状況が信じられなかった。



 今日は何度目かの、婚約者候補の令嬢たちとの茶会。

 またピラニアの池に放り込まれる。
 牙を剥いてないが似た様なものだ。令嬢たちの自分に向けられる突き刺さるような視線に生命の危機を感じる。
 この殺気まみれの集団から将来の妻を選べとか狂気の沙汰だ。

 全員初対面で?茶会程度で何がわかると?
 このお見合いシステム自体に疑問が生じる。

 さっさと今日も流して終わらせてしまおう。
 全く、誰も彼も王子の結婚ばかり気にする。
 僕は花嫁くらい自分で決める。そう言っているのに。

 そして今日も憂鬱な気持ちで中庭に来て驚いた。見える風景がいつもと違う。
 そこにはギラギラしたドレスもむせかえる香水の香りもなく。

 集まった令嬢たちはなぜかドレスではなくズボンを履いていた。身軽な格好。まるで男装しているようだ。しかも全員。ストレッチまでしている子もいる。髪型も実用的に結ったもの、化粧っ気もない。

 これからスポーツ大会でもするのか?


 背後に控えていた専属近衛騎士のルッツと専属侍女のジルケをかえりみた。二人とも幼少の頃からの付き合いで気心は知れている。

「今日は茶会ではなかったのか?」
「違います。鬼ごっこです、王子殿下をかけた。」

 ルッツの平然とした回答に凍りついた。
 なんだって?僕をかけた?
 その様子をスルーしてルッツが嬉しそうに空を見上げた。
 ルッツは独身でなかなかイケメンと城内では人気がある。近衛騎士なのに砕けた性格なのもいいらしい。

「いやー、晴れてよかったです。逃走日和ですな。」
「昨日の雨が心配でしたが地面も乾いて走りやすそうです。」

 ジルケも冷静に答える。
 ジルケはしっかりものでとにかく先読みが鋭い。よって備えがいつもなされている。

 逃走日和?走りやすい?なんの話だ?

「王子殿下。今日のお召し物はこちらを。」

 ジルケがいかにも走りやすそうなトレイルラン用のシューズを出してきた。
 いやいや、意味がわからないぞ?

「ちゃんと!ちゃんと説明しろ!どういうことだ?」

 そう問われルッツはなぜか得意げだった。

「いえ、先日お見合いの企画を殿下に伺った際に我々に任せる、と仰られたので趣向を凝らしてみました。」
「令嬢方も王子の反応がイマイチだ、とマンネリ気味でしたので気分転換になりましょう。」

 嫌な予感がする。こいつら、とんでもないことを仕込んだんじゃないのか?
 こほん、と咳払いをしてルッツがルール説明する。

「今日は令嬢方と鬼ごっこをしていただきます。逃げる殿下をハンター役の令嬢が捕まえて殿下にキスできたら婚約成立です。名案でしょ?」

 鬼ごっこ?キス?婚約?
 お前は何を言ってるんだ?!

「は?どこが?何が名案?」
「殿下の得意分野の運動系です。相手は深窓のご令嬢。よもやそう簡単には殿下も捕まらないでしょう。」

 言わんとしている主旨がわからない。
 だからなんだと?

「つまりこれは親交を深めるイベントです。茶会程度ではご令嬢の良さもわからないでしょう?」
「イベント?だったら婚約なんぞかけなくても!ただの鬼ごっこでいいだろ?いや、鬼ごっこもダメだが!」
「いやー、景品ないと燃えないでしょう?ご令嬢方も殿下も。ぬるい鬼ごっこなんぞ要りません。」

 絶句した。景品?親交を深める目的で?!
 僕の婚約が景品かよ!
 しかもキスって!

「キスってどこに?!」
「もちろん口です。」
「はぁ?!」

 絶句した。
 こいつ!!僕の貞操をなんだと?!

「考えたんですがね?ボディタッチやタックルだと捕まりやすい。体の一部へのキスも簡単。口にキスは殿下の動きを止める必要がありますので相当難易度上がります。」

 言ってることはわかる。確かにそうなんだが。
 いやいや、もうどこからツっこむ?

「キスが嫌ですと難易度を下げてタックルあたりにしますか?流石の王子でもうっかり捕まるかもですよ?」
「どうして難易度を下げる?!」
「では口にキスでよろしいですね?」

 ぐっと言葉が詰まる。まあ要はキスされなければいいんだが。

「そのルールを令嬢たちが納得しているのか?こんなことでしていいのか?‥‥キ、キスとか。」
「まあ?それが本日の参加の条件ですので?」

 正気か?!ここにいる全員が承知?ありえない!
 青ざめて絶句していればルッツが何やらニヤリと笑いかける。

「あれぇ?ひょっとして王子殿下はキスは好きな子と、とかいうクチですか?」
「は?!そんなわけないだろ?!」

 売り言葉に買い言葉というか。なぜか反射で答えてしまった。
 本音ではなんだが。特に初めてはそういうもんだろ!

 しかしルッツは腕を組んで納得したように頷いた。

「流石にそうですよねぇ。王族にとってみればキスの一つや二つ。どってことないでしょ?特に殿下はイケメン王子ってだけにハーレムですし?」

 おい!僕のことを、王族をなんだと?そんなにだらしなくないぞ?!
 そろそろこいつも不敬罪でクビにするか。いや、島流しだ!

「まあ、女性としては男性は経験豊富であった方が安心です。初めてというのはちょっと。」

 心を読んだようなジルケのその発言にざっと青ざめてしまった。

「そ、そうなのか?」
「この歳までキスできなかったのか、と残念な感じがしてしまいます。何かできなかった理由があるのかと私なら勘繰かんぐってしまいますね。」

 衝撃で立ちすくんでしまった。
 え?え?そういうもん?初めては好きな子のために取っておくものだと。好きな子のために取っといたのに残念?

「まあそういうわけでルールはそのままでいきます。ちなみに本日はクレマン卿の許可を頂いているので中止や王子殿下の欠席はあり得ません。」

 思わずルッツを睨んでしまった。
 くっ 宰相のクレマンまで抱きこんでいるのか。タチが悪いぞ!

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