【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

文字の大きさ
上 下
101 / 114
Ⅶ マオウ、俺。

087: 天上へ

しおりを挟む



 サクラを無事保護できた。さあこの勢いのまま次は天上だ!というところで問題発生。

「ゲート作らないといけなかったか」
「そうなりますね。我にできればよかったのですが」

 全てを理解しているガンドが目を閉じた。

 天上→地上ゲートはサクラが常設していたが一方通行だ。地上→天上ゲートがない。ちょっと前に俺が天上に上がったのはサードがこの俺を雑に鷲掴みにして引き上げたから。(あのやろぅ、ぜってぇ殺す!)

 ゲートを作る知識は俺にもダウンロードされているんだが。

「ぐぅぅ、仕方ない。ゲート作るか」
「そんなに面倒なのか?」
「いや、魔法陣を描くだけなんだが‥繊細な魔力制御が」
「悪かった。理解したのじゃ、皆まで言うな」

 ヘラが俺を制して手を突き出した。そこで察してくれるのもイタい。

「疲れているサクラを起こすのは忍びないしな。ここは頑張って俺が」
「転送の魔法陣なら僕が描こうか?」

 振り返ればディートが立っていた。今度は女の姿。こいつ、コロコロと何やってんだ?

「ディート?」
「姿は用途で変える。今度は万能モードかな」
「ふーん?魔法陣、お前描けんの?」
「一応魔王の知識はもらったからね。は得意だし。ま、正直こんなとこでしか役に立たない知識だよね。僕は魔王じゃないし」
「‥‥お前はいちいち一言言わないと気が済まないのか?」
「おかしいな、そんなつもりないんだけど?事実だし。被害妄想酷くない?」

 ホンットひねくれてるな!誰に似たんだ?俺がゲンコツを握ったところで笑顔のガンドがにこやかに仲裁に入った。

「まあまあここは一つ穏便に」
「お前!妹弟に甘過ぎるぞ!」
「少々素直ではないのですがそれ以上に陛下のお役に立ちます。ディート、早く描いてしまいなさい。陛下をお待たせしてはいけないよ」
「はい兄さん」

 この妹弟、兄貴には無茶苦茶素直なんだよな。ガンドゆえなんだがホントムカつく。どうせ俺には人望ないよ!
 さくさくと魔法陣を描くディート。俺より断然早い。ぐぅ、確かに役には立っている。

 ディートが天を仰いでつぶやいた。

「天上への障壁はないみたい。多分これで行ける。場所は既にある天上ゲートの隣だよ」
「罠があるかもしれません。安全確保に我とヘラが先に参ります、陛下は少ししてからお越しください。ディートは後衛だよ」

 ガンドとヘラが飛んだしばし後に俺も魔法陣に乗った。光の世界を一瞬で抜け魔素の暗闇を突き抜ける。もう馴染みの感覚だ。俺は天上に舞い降りた。乗り心地抜群、悔しいがディートの魔法陣の完成度は素晴らしかった。サクラとほぼ同等だろうが、サクラのほうが優しい感じがすると思うのは贔屓目じゃないぞ!

 天上の真っ黒い内装は相変わらず、見ればゲートの辺りには警備システムのドローンやらロボットやらの部品が大量に散らばっている。すでにそこはガンドとヘラに制圧されていた。

 あっさり天上に侵入成功。いたのは普通の警部ロボット。俺たちのことを全く警戒していない?この意図は?罠か?

 ヘラが壁に穴を開け配線を引っ張り出していた。宙に浮いた半透明のモニターを覗き込んで何やら作業している。モニター同様に透けるキーボードらしきものが複数宙に浮いていて、ヘラはそれらにもんのすごい勢いでタイピングしていた。

「ヘラは何してる?」
「このエリアのシステム制圧です」
「は?相手は人工知能だぞ?」
「ヘラは魔女の血を引いております。まずはここの安全確保を優先させておりますがちょっと手こずって」
「今落ちたのじゃ」
 
 ヘラが顔を上げてにっと笑って俺達に振り返った。

「第三ブロック、ここを制圧したのじゃ」
「おお!すげぇな!」
「わらわは大いなる魔女の娘じゃ。言語が暗号化されてたがシステム制御は問題ないのじゃ」
「言語が暗号化?ツールなしで復号デコードしたのか?」
「まあそこは感性で読み解いたのじゃ」
「か?感性?」
「雰囲気じゃ。そこは突っ込むな」

 魔女。ここでいう魔女の能力はハッキング能力だろうか。ヘラの能力は支配と創造。地上では死人使いネクロマンサーだったが天上ではエンジニアハッカーとなるのか。魔女ソフィアの能力は突き抜けていたし大いなる魔女サクラスも残された記録ではエンジニアとしても優秀だった。

 その能力って遺伝するものなのか?感性ってことは理屈じゃなさそうだ。よくわからんが今は———

「サクラの肉体がどこにあるかわからないか?」
「それはわからんのじゃ。というかここの人工知能も居場所をわかっていない」
「じゃあどうすんのさ」

 いつの間にかディートがたどり着いていた。何やら面倒臭そう、こいつはいつもやる気がない。

「大体ホントにここに体あんの?」
「そこは間違いない。気配はある」
「人工知能が存在に気がついていない‥‥そんな隠し場所があるでしょうか」
「ここで精神体を放したら勝手に体に戻るんじゃないの?」
「それは危険だ。サクラは弱ってるし、また精神体で捕まったらもう終わりだ。肉体を先に見つけて保護しよう」
「じゃあローラー作戦?とりあえず片っ端から壊しながら探すとか?どうせここ壊すつもりなんだろ?」
「それはやめた方がいいのじゃ」

 ヘラが端末を覗き込みながらつぶやいた。

「この要塞は軽く星レベルのサイズじゃ。当てなく探しても見つからぬ」
「ここの破壊は無理だということかい?」
「無理とは言わぬがSFA062の修復能力も早い」
「S‥‥F?なんだそれ」
「SFA062、人工知能の名じゃ。通称は『ソフィア』か?ここは時空移動も封じられておる。壊して回るのなら相当時間がかかるぞ」
「なるほど、ニュートン算だな」

 攻撃が修復を上回った分破壊が進むが対象は星サイズの要塞。あちらは反撃能力もあるわけで全壊は果てしない作業だ。要塞をこれほどに肥大させダミーまで配置、AI『ソフィア』は歴史上の独裁者同様、臆病に他ならないということだ。

「狙うならデカい体より心臓部か」
「僕たちを警戒していないのは、やれるもんならやってみろ的な余裕かな?素晴らしいね」
「確かにこの要塞と比べれば我らはアリサイズでしょうから」

 星サイズの要塞にたった4人。確かにそうだ。

「人工知能の破壊が目的ならコアシステムだけを破壊すればいい。じゃがコアは手のひらサイズ、常に要塞内を移動しておるし大量のダミーもある。この要塞から本物を見つけ出すのは正直相当厄介じゃ」
「じゃあ破壊は後回しだ。サクラの肉体を切り離した日のログは見えるか?」
「ログか?」
「何かヒントはないか?多分サクラがどこかに体を隠しているはずだ。普段と違う記録がどこかにあれば」
「ログ‥‥‥毎日ほぼ同じログなんじゃがちょっとおかしな日があるな。ログが日がある」
「ん?」

 画面には雨のように文字が流れている。そのデータをヘラが追っている。俺にはわけがわからない。すごいな魔女って。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】勇者パーティーの裏切り者

エース皇命
ファンタジー
「この勇者パーティーの中に裏切り者がいる」  Sランク勇者パーティーの新人オーウェン=ダルクは、この神託の予言が示す『裏切り者』が自分のことだと思っていた。    並々ならぬ目的を持ち、着実に実力をつけていくオーウェン。    しかし、勇者パーティーのリーダー、ウィル=ストライカーから裏切り者が別にいることを知らされる。  容疑者はオーウェンを除いて6人。  リーダーのウィルに、狼の獣人ロルフ、絶世の美女ヴィーナス、双子のアルとハル、そして犬の獣人クロエ。  一体誰が勇者パーティーの裏切り者なのか!?  そして、主人公オーウェンの抱える狂気に満ちた野望とは!?  エース皇命が贈る、異世界ファンタジーコメディー、開幕! ※小説家になろう、エブリスタでも投稿しています。 【勇者パーティーの裏切り者は、どうやら「俺」じゃないらしい】

悪役令嬢は始祖竜の母となる

葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。 しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。 どうせ転生するのであればモブがよかったです。 この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。 精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。 だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・? あれ? そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。 邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。 ※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。

処理中です...