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Ⅶ マオウ、俺。
088: 襲撃者
しおりを挟むそこでじっと画面を見ていたヘラがつぶやいた。
「ログ消失日は五ヶ月前、セカンド搬入日とある」
「それだ!俺とサクラが会った‥‥って搬入?俺搬入された?」
「セカンドがルキか?別時空から連れてきたようじゃ」
「俺が眠っていたのはここじゃなかったのか?」
俺荷物?搬入日だと引越しみたいだ。ふざけやがって!つまり冷蔵冬眠された他のやつらは別の時空に保管されているということだ。
「‥‥セカンドを反逆者と断定‥ファースト逃走‥ファーストはお母様か‥‥トラップ発動、警備・迎撃システムが作動するんじゃが‥‥ここで別方向から要塞が攻撃を受けておる」
「‥‥なんだって?」
「これが当時の様子じゃ」
モニターに要塞の管制システムが映し出された。丸い要塞の一部、地上ゲートへ向かおうとして囚われた俺達の周りのシステムが集中砲火を受けたように次々にダウンしていく。ここだけ狙い撃ちだ。
間違いない。こいつは俺たちを助けようとしている。
「何だこいつ?!」
「へぇ、これはすごいな。ひとたまりもないじゃん。このまま攻撃し続けてくれたらよかったのに」
「相当に強い。これは見事ですね。ボコボコだ」
「急襲じゃな。物理攻撃ではなくシステム干渉、襲撃者は‥‥特定できておらん。アクセス数から見るにアタッカーは複数おる、5人以上の集団じゃな。短時間でよくここまで壊したものじゃ。破壊増殖型ウィルスもばらまいておるな。このクラッキングで壊滅的な被害が出とる。瞬間的に外殻エリアの80%の機能がダウン。ここでオートログや追跡機能も途絶えたことで人工知能もお母様の肉体を見失ったようじゃ」
俺とサクラが追い詰められた時に警備システムがタイミングよく落ちた。それはそういうことだったのか。
だが誰がこんなことを?
「こんなこと誰にでもできるわけないだろう?この世界にそれを成せる者がいたと?」
「地上の生命体は考えられんな。この技はレベルが高すぎる。魔女相当じゃ」
「他に魔女がいるのか?」
「んー、記録にはないな。バイタルと熱源記録を見る限りではこの時点で要塞内で活動していた生命体は二人のみじゃ」
俺とサクラのみ。サードさえ目覚めていない。
そうなると辻褄が合わない。
「内部ではない。そうなると‥‥‥外部から侵入してきたってことでしょうか?」
「そこがどうもはっきりせん。侵入経路がわからん。こいつらいきなり現れていきなり消えた。人工知能も混乱しておるのじゃ。よほど怖かったのかこの時から現在の防衛システムが始まっておる」
「ダミーを散らして自分は移動し続けて隠れるってやつか」
確かに俺が目覚めた頃はそんなことしていなかった。想定外だったろう。至高神にまで上り詰めてここにきて天敵が現れた。
「襲撃者がどこら辺で消えたかわかるかい?」
「人工知能の追跡では最後のログは旧市街エリアとなっているがここでシステムがダウンして襲撃者に逃げられておる」
「旧市街エリア?ってどこだ?」
「相当に古いブロックじゃ。おそらくこの要塞が出来た初期の頃に作られておる。人を避難させられるシェルター仕様じゃが流石にボロい。施設も旧式、だからアタッカー達も逃げ切れたんじゃろうな。じゃがこいつらが要塞外部に逃走した記録もない」
「システムダウン中に逃げただけだろ」
「それにしても何も記録がないというのは気持ちが悪いのじゃ。外部にしろ内部にしろ忽然と存在が消えておる」
そこでディートがボソリとつぶやいた。
「ひょっとしてそいつら、まだそこにいたりして」
ぞわりとした。これはちょっとホラー的な展開か?閉鎖ブロックにレジスタンスやエイリアンがいるのはSF御用達な設定だ。
「現在の要塞内の生命反応は?」
「わらわたち4人、もうひとつは‥‥唯一神か?それだけじゃ」
「サクラの肉体は?気配は感じられる。絶対いるはずだ!」
「じゃからシステムではこれ以上はわからんのじゃ。可能性で言うならこの旧市街エリアじゃな。ここはシステムが落ちたままで中の様子もわからない。モニターするために一度ここに行って電源を復活させてみないことには‥‥ん?」
「おいおい、そんなヤバい連中がいるところにサクラの肉体があるのか?」
「それはいけません、急ぎましょう」
「行かせぬぞ!」
振り返ればそこにはサード、大量の警備システムロボと一緒だ。ここはヘラに制圧されたはずなのになぜロボットが?
「へぇ?あれが新しい神?唯一神自らご登場?」
「すまん、今気がついたのじゃ」
「間の悪い。急いでる時に限っていつも現れるやつだ」
「じゃあ魔王は兄さんと旧市街に行きなよ。僕はこいつに用がある」
「愚かな‥‥唯一神に逆らうか」
一連の事件のそもそもの親玉、ハイエルフを襲わせたのはこいつの指示だ。ディートの敵である。
そのディートが驚いたように声を上げた。
「え?うそ。魔力弱!こいつホントに唯一神?」
唯一神がぴくりと反応した。以前の俺との会話でそこがこいつの地雷なのはわかっていたが。早々にそこを攻めるのか。
「あんまり煽るなよ。どんな力があるかもわからない」
「でもこんなに弱い僕より魔力低いし」
「ちょいちょい気になっていたんだが。お前弱くないからな」
「ふぅん?じゃあ僕がそう思いくらいファーストとセカンドが強すぎたんだね。君ホントにサード?すごい差だね。棚ボタで神になれてよかったね、おめでとう」
嫌味を言わせたらこいつ天才的だ。魔王の記憶を持っているからわざと煽ってるんだろうが。サードが真っ赤な顔でこちらを睨みつけている。もうそれくらいにしておいてやれ。
「まあそんなしょっぼい神様に質問だよ。神様が変わって地上は争いがない理想郷になるのかな?魔王は無理だって言ってたんだけどさ。当然君にはできるんだよね?」
「前の神は無能だった。だが今私が神になった。地上はこれで永遠に楽園になる」
悦に入ったサード、やっぱこいつバカだ。ディートの誘導にサクって乗ってるし。ディードはため息と共に目を閉じた。
「嘘つきだな。そんなこと出来ないくせに。ホントにバカ。とりあえず前任者を弾劾するっていうのは王権交代では基本だよね」
弾劾云々、激しく同意。世襲ではない王は大概自己顕示欲の塊だ。コケにされたサードの気配が剣呑になった。
「賢いやつだったら魔王にしてやろうとも思ったが。こいつもダメか。仕方がない」
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