【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

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Ⅶ マオウ、俺。

083: ムショク、俺。

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「えー、それでは本日の予定を発表する。王都でサクラの精神体を保護したのちに可及的速やかに天上へ移動、総攻撃でサクラの肉体を奪還する。そしてあのムカつく人工知能と愚神をグーで殴ってギッタギタのボッコボコにして地上に帰還、以上。何か質問は?」
「軽い。ダークな見た目と言動が一致しておらんのじゃ」
「それ、一日で終わるのかい?」

 ヘラとヘルメスに冷静に突っ込まれる。確かに詰め込みすぎたか。

「だから速やかにって言ってるだろ?!業務の進行状況で残業もありうる。そこは臨機応変だ!細かいところは気にすんな!」
「残業は嫌ですね。定時で帰りたいです」
「定時じゃ帰さんぞ!サクラ奪還最優先!早く帰りたかったら死ぬ気で働け!」
「残業前提って‥‥どこのブラック企業だよ。それにさー、魔王って中立なんだろ?私怨で動いていいのかい?」
「いいんだよ!うるさい!もうぐだぐだ聞くな!」
「理不尽だ。質問は?っていうから聞いたのにさ。魔王ならよくないだろうに」
「問題ない!俺は魔王クビになったんだから!」
「「「クビ?!」」」

 三人が口を揃えて目を瞠っている。だがあれはクビだろう。

 新しい上司に「俺の下につけ」と異動命令が出たのに「お前が俺の上司?知るかボケ!次会ったらシメるぞワレがァ!」と捨て台詞を吐いて飛び出してきたわけで。ついでに「俺の邪魔したら殺すぞオラァ!文句あんなら好きなヤツ後任にしとけや!」と中指立てて脅してきた。辞表があれば叩きつけるところだったが。これはもう辞表を突きつけたも同然だろう。リアルなら威力業務妨害か恐喝で訴えられるかもしれないな。

「クビ?!陛下がクビですか?!そう言われたのですか?!」
「いや、言われちゃいないがクビだろ?いうこと聞かなかったし」
「魔王が何を言っておるのじゃ!クビじゃと?!」
「おう!俺は今無職だ!落ち着いたら就活するぞ!楽しみだ!」
「らしい仕事もしてなかったのに胸張って言われてもね。魔王なんて潰し効かないだろうに。大人な魔王と今じゃだいぶキャラ違うんじゃないかい?イメチェン?」
「最後の「ルキアス」が強すぎなのじゃ」
「確かに「ルキアス」に上書きされた感はある。だがこれも俺だ!なんか文句あるか!」

 だって仕方ない。最後の「ルキアス」が一番脳天気だった頃の俺で一番鮮明な記憶だから。だが「アスカ」や「魔王」の記憶だってちゃんとある。にじみ出る大人感がこいつらにはわからんのか。

 だが三人のヒソヒソ話ではそうではないらしい。

「魔王がクビ‥‥‥ってありえないでしょう?魔王は永久就職だと思っていたんだけど」
「あれでも一応王じゃしな。王がクビ、やっぱりおかしいじゃろ。軽すぎる」
「魔王が単なる中間管理職だとして。後任が来ていないならまだ魔王なんじゃないかい?引き継ぎ終わるまでは在任だよ普通。今下手に動いちゃったら後からアウトってなるんじゃないの?」

 そして三人にジト見された。俺、全く信用されていない。

「ああぁもう!今回はいいんだよ!今回は絶対俺が殴る!殴るからな!後からなんか言われても知るか!」
「ズルいなぁ、僕の時は止めたくせに」
「まあ、そういうことでしたら。ではまずは王都ですね。お供いたします」
「お母様救出ならわらわも行くのじゃ♪」
「僕も一発殴る権利はあるよね。まぁあの人はどうでもいいけど」

 美形兄妹が意気揚々と声を上げる中で一人ヘルメスがボソリつぶやいた。ヘラは不満げだ。

「兄上は冷たいのじゃ!」
「あの人を母と思ったこともないしね。ちなみに魔王が父ってのも論外だけど」
「お前本人の前で‥‥もう少し言いようが」
「ハイエルフが守っていた古代文明の軍事衛星が残っているけど使うかい?休眠中だが生きてはいるみたいだ。外部ネットワークは遮断されていたから人工知能に支配されていない。専用回線で操作できるよ。ヘラなら使えるだろ?」
「おいおい、そんなものが残ってたのか?!流石に」
「まあ兵器としては試してない。データベースは生きてたから情報検索には使ったけど動作は問題ないよ。これで魔王の記憶が妄想癖じゃないって裏も取れたしね」
「誰が妄想癖だよ!」

 五千年前の?端末をこいつ使ったのか?
 動力は?よく動いたな。だが何でも裏を取りたがるこいつらしい。

 一方ヘラは渋い顔だった。

「動くかどうかわからないシステムは使えないのじゃ。動作確認に時間がかかる」
「まあヘラならそういうと思ったよ。魔王の鉄槌の方が早そうだ」

 当然そのつもりでいた。怒りの鉄槌はゲンコツでボコるのみだ!

「じゃあさっさと行くぞ!次がつかえてるからな!」
「だからスケジュールに無茶があるんだって」
「言いたいことはそれだけか?あァ?」
「‥‥‥‥別にいいけどね」

 ヘルメスが目を閉じてため息をついた。




 といったわけで。
 俺たち四人は王都の上空にいた。

 すでに事態が愚神から知らされていたのか王都は戦場のようになっていた。多くの兵士が守りを固めている。そしてあの渦巻く魔素、だがその奥に懐かしい気配がある。

 サクラがあそこにいる。
 背筋に走ったのは震え、怒りが込み上げる。

 愚神の指示とはいえ従ったこいつらも同罪だ。

「お前たちはここで待ってろ」
「お一人で行かれるのですか?」
「おぉよ、サクラを救い出す。これは俺の落とし前だ。俺が落とす!」
「すごいです陛下!なんだか魔王の貫禄が出て来ましたね!」
「いやだから魔王はクビだと」
「そうかのぉ、わらわにはただケンカしたいチンピラにしか見えないが。ズルいのじゃ、わらわだってヤル気でおったのに」
「そういうお前もチンピラだよ」

 ヘラの 死霊使役ネクロマンスは昼間は使えないだろうに。こいつ何するつもりなんだ?

「血気盛んなのはいいけど、僕も留守番かい?」

 ヘルメスに鋭い視線を向けられる。まあ確かにこいつも殴る権利はある。

「じゃあヘルメスはついて来い。ガンドとヘラは待機。今日は予定が詰まっている。力を残しておけ」
「わかったのじゃ!」
「お気をつけて。陛下を頼んだよヘルメス」
「わかったよ兄さん」

 魔女っ子はウキウキしているがこれは襲撃の算段だ。まあいいけどね。

 王宮の中央、厳重に結界が張られたドームの中にサクラは囚われていた。だがその周りには兵士がひしめいていた。

「まずはお先にどうぞ」
「いいのか?」
「魔王は暴れたいんだろ?ほら、僕は弱いし。三下雑兵に興味はない」
「あそ」

 つまりめんどくさいと。全然弱くないくせに。
 まあ望むところだけどな。

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