【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

文字の大きさ
上 下
97 / 114
Ⅶ マオウ、俺。

083: ムショク、俺。

しおりを挟む



「えー、それでは本日の予定を発表する。王都でサクラの精神体を保護したのちに可及的速やかに天上へ移動、総攻撃でサクラの肉体を奪還する。そしてあのムカつく人工知能と愚神をグーで殴ってギッタギタのボッコボコにして地上に帰還、以上。何か質問は?」
「軽い。ダークな見た目と言動が一致しておらんのじゃ」
「それ、一日で終わるのかい?」

 ヘラとヘルメスに冷静に突っ込まれる。確かに詰め込みすぎたか。

「だから速やかにって言ってるだろ?!業務の進行状況で残業もありうる。そこは臨機応変だ!細かいところは気にすんな!」
「残業は嫌ですね。定時で帰りたいです」
「定時じゃ帰さんぞ!サクラ奪還最優先!早く帰りたかったら死ぬ気で働け!」
「残業前提って‥‥どこのブラック企業だよ。それにさー、魔王って中立なんだろ?私怨で動いていいのかい?」
「いいんだよ!うるさい!もうぐだぐだ聞くな!」
「理不尽だ。質問は?っていうから聞いたのにさ。魔王ならよくないだろうに」
「問題ない!俺は魔王クビになったんだから!」
「「「クビ?!」」」

 三人が口を揃えて目を瞠っている。だがあれはクビだろう。

 新しい上司に「俺の下につけ」と異動命令が出たのに「お前が俺の上司?知るかボケ!次会ったらシメるぞワレがァ!」と捨て台詞を吐いて飛び出してきたわけで。ついでに「俺の邪魔したら殺すぞオラァ!文句あんなら好きなヤツ後任にしとけや!」と中指立てて脅してきた。辞表があれば叩きつけるところだったが。これはもう辞表を突きつけたも同然だろう。リアルなら威力業務妨害か恐喝で訴えられるかもしれないな。

「クビ?!陛下がクビですか?!そう言われたのですか?!」
「いや、言われちゃいないがクビだろ?いうこと聞かなかったし」
「魔王が何を言っておるのじゃ!クビじゃと?!」
「おう!俺は今無職だ!落ち着いたら就活するぞ!楽しみだ!」
「らしい仕事もしてなかったのに胸張って言われてもね。魔王なんて潰し効かないだろうに。大人な魔王と今じゃだいぶキャラ違うんじゃないかい?イメチェン?」
「最後の「ルキアス」が強すぎなのじゃ」
「確かに「ルキアス」に上書きされた感はある。だがこれも俺だ!なんか文句あるか!」

 だって仕方ない。最後の「ルキアス」が一番脳天気だった頃の俺で一番鮮明な記憶だから。だが「アスカ」や「魔王」の記憶だってちゃんとある。にじみ出る大人感がこいつらにはわからんのか。

 だが三人のヒソヒソ話ではそうではないらしい。

「魔王がクビ‥‥‥ってありえないでしょう?魔王は永久就職だと思っていたんだけど」
「あれでも一応王じゃしな。王がクビ、やっぱりおかしいじゃろ。軽すぎる」
「魔王が単なる中間管理職だとして。後任が来ていないならまだ魔王なんじゃないかい?引き継ぎ終わるまでは在任だよ普通。今下手に動いちゃったら後からアウトってなるんじゃないの?」

 そして三人にジト見された。俺、全く信用されていない。

「ああぁもう!今回はいいんだよ!今回は絶対俺が殴る!殴るからな!後からなんか言われても知るか!」
「ズルいなぁ、僕の時は止めたくせに」
「まあ、そういうことでしたら。ではまずは王都ですね。お供いたします」
「お母様救出ならわらわも行くのじゃ♪」
「僕も一発殴る権利はあるよね。まぁあの人はどうでもいいけど」

 美形兄妹が意気揚々と声を上げる中で一人ヘルメスがボソリつぶやいた。ヘラは不満げだ。

「兄上は冷たいのじゃ!」
「あの人を母と思ったこともないしね。ちなみに魔王が父ってのも論外だけど」
「お前本人の前で‥‥もう少し言いようが」
「ハイエルフが守っていた古代文明の軍事衛星が残っているけど使うかい?休眠中だが生きてはいるみたいだ。外部ネットワークは遮断されていたから人工知能に支配されていない。専用回線で操作できるよ。ヘラなら使えるだろ?」
「おいおい、そんなものが残ってたのか?!流石に」
「まあ兵器としては試してない。データベースは生きてたから情報検索には使ったけど動作は問題ないよ。これで魔王の記憶が妄想癖じゃないって裏も取れたしね」
「誰が妄想癖だよ!」

 五千年前の?端末をこいつ使ったのか?
 動力は?よく動いたな。だが何でも裏を取りたがるこいつらしい。

 一方ヘラは渋い顔だった。

「動くかどうかわからないシステムは使えないのじゃ。動作確認に時間がかかる」
「まあヘラならそういうと思ったよ。魔王の鉄槌の方が早そうだ」

 当然そのつもりでいた。怒りの鉄槌はゲンコツでボコるのみだ!

「じゃあさっさと行くぞ!次がつかえてるからな!」
「だからスケジュールに無茶があるんだって」
「言いたいことはそれだけか?あァ?」
「‥‥‥‥別にいいけどね」

 ヘルメスが目を閉じてため息をついた。




 といったわけで。
 俺たち四人は王都の上空にいた。

 すでに事態が愚神から知らされていたのか王都は戦場のようになっていた。多くの兵士が守りを固めている。そしてあの渦巻く魔素、だがその奥に懐かしい気配がある。

 サクラがあそこにいる。
 背筋に走ったのは震え、怒りが込み上げる。

 愚神の指示とはいえ従ったこいつらも同罪だ。

「お前たちはここで待ってろ」
「お一人で行かれるのですか?」
「おぉよ、サクラを救い出す。これは俺の落とし前だ。俺が落とす!」
「すごいです陛下!なんだか魔王の貫禄が出て来ましたね!」
「いやだから魔王はクビだと」
「そうかのぉ、わらわにはただケンカしたいチンピラにしか見えないが。ズルいのじゃ、わらわだってヤル気でおったのに」
「そういうお前もチンピラだよ」

 ヘラの 死霊使役ネクロマンスは昼間は使えないだろうに。こいつ何するつもりなんだ?

「血気盛んなのはいいけど、僕も留守番かい?」

 ヘルメスに鋭い視線を向けられる。まあ確かにこいつも殴る権利はある。

「じゃあヘルメスはついて来い。ガンドとヘラは待機。今日は予定が詰まっている。力を残しておけ」
「わかったのじゃ!」
「お気をつけて。陛下を頼んだよヘルメス」
「わかったよ兄さん」

 魔女っ子はウキウキしているがこれは襲撃の算段だ。まあいいけどね。

 王宮の中央、厳重に結界が張られたドームの中にサクラは囚われていた。だがその周りには兵士がひしめいていた。

「まずはお先にどうぞ」
「いいのか?」
「魔王は暴れたいんだろ?ほら、僕は弱いし。三下雑兵に興味はない」
「あそ」

 つまりめんどくさいと。全然弱くないくせに。
 まあ望むところだけどな。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!? これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。 日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱
ファンタジー
ある開拓村で生まれた女の子が辿る特殊な物語。 使い古されている異世界物です。 初投稿に付き、誤字が多いかも知れません。読みづらいかも知れませんが、追々是正します。 追記)作者の気分で、更新が早くなったり、若干遅かったりします。定時更新ではありません、たまに修正の文字を入れずに直していることもありますので、悪しからず。 追記2)タグいれてみました。変化があるのか分かりません 2020/8/31に完結しました。 2020/11/12に第二部投稿始めました。https://www.alphapolis.co.jp/novel/797490980/566417553

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...