【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

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Ⅶ マオウ、俺。

085: 選択

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 俺は収納から魔剣を出した。魔王の記憶を思い出して学習した俺、『魔素真空』対策でここにくる前に収納に武器を色々と放り込んだ。これもそのうちのひとつだ。俺の解析スキルが発動、インフォウインドウが脳内に表示された。

【魔王の剣(仮)】
 正式名称: 魔王専用魔剣・プロトタイプコンバットHGモデルVer.2.031
 アークリッチが貴重なマンドラゴラをふんだんに使い呪いをかけた贅沢な上位モデルで‥‥‥

 後半は長いから割愛だ。

 今取り出した剣はるぅ改めヘラ特製、ムンク全面協力の元で俺のレベルと能力値を考慮の上、環境破壊にまで配慮したデバフ魔剣だ。ルキ専用ステッキと同じコンセプトで作られたプロトタイプ魔剣バージョン、追加効果は11/12の確率で呪いのデバフ発動、呪いの力で装備者の攻撃力発動値が1/1000となる。今回初公開だ。

 ヘラが密かに開発したモデルだったが軽くて丈夫、何よりデコが皆無でそれでいて刃から柄まで全て真っ黒でカッコいい。ヘラも剣ではステッキの様にデコにこだわらなかったようだ。

 シンプルイズベスト、まさに絵に書いたような魔剣!グッドデザイン賞を俺からヘラに贈呈した逸品だ。

 魔王は覚醒したが物理攻撃力は60→16万にアップ、普通の剣だと俺が手にとって、まず先に剣が壊れる攻撃力だ。俺は何に攻撃してんだよ?
 だがデバフ特化でさらに強化されたこの剣でなら壊れることなく英雄相手に怪力ではなく剣術で戦うことができる。ゾロ目ファンブルが出たら無修正16万の攻撃力になるが、その時は運が悪かったと思って諦めてくれ。

 目覚めたあの日、ゴリラのようだと思った王子と今日打ち合うのも運命なんだろう。俺は右手でぞんざいに剣を鞘から払う、そして正面の男に問いかけた。

「一つ聞いておく、お前が俺を倒す理由は?」
「お前はルキアスの仇、だがなにより神の敵、人類の敵は俺の敵、それが理由だ!」

 聖剣を突きつける王子の答えに俺の心が冷える。がっかりだ。

 ルキアス云々は誤解だとして。目の前にいる俺は殺されなきゃならない程悪党か?なぜ自分の目で判じない?神が間違っているとなぜ疑わないのか?神の敵なら問答無用なのか?

 まあまあ思い込みは強いが気持ちは優しい思いやりのある真っ当な王子だった。きっといい王になるだろう。今の俺は「ルキアス」ではない。それでも俺はこの男にちょっと期待してしまったのかもしれない。俺を理解してくれるんじゃないかと。

 正義は正義、悪は悪と断ずる英雄、その正義を疑わない優等生。いや、これもこいつらの正義だ。

 俺が納得できないものもあってもそれも答えの一つだ、そうソフィアに諭されたのに。成長してないな、俺。守りたいものを守るためにお互いの正義がぶつかり合う、そして争いが起こる。これも仕方がない。

 そしてこいつは己が正義で俺に剣を向けた。その選択に俺は応じるまでだ。黒光りする魔剣を下段に構えた。

「———残念だな」



 戦闘は二撃で終わった。デバフ発動一撃目で俺が勇者の聖剣を叩き壊した。聖剣は弱い魔力を帯びたただの魔剣に対しこちらは上位魔導具アーティファクト、造作もない。そして同じくデバフ二撃目で勇者の右腕を、肘と手首の間を切り落とした。基礎能力値差もレベル差もスキル差もある。例え勇者でも避けられなかったろう。

 勇者の絶叫、血を流し王子が傷を庇い膝をつく。それを俺は冷ややかに見下ろした。

 剣術は冷蔵睡眠中に散々ダウンロードされていた。おそらく英雄だったスケイチの記憶。さすがスケイチに筋がいいと俺は褒められたわけだ。
 だが俺が人を斬ったのは初めてだった。どれほど己が正義を振り翳しても、弱肉強食だと言っても。見知った相手を傷つける、やはり気持ちのいいもんじゃない。だからこれが決別の時だろう。

「‥‥‥‥ルキアスはもういない。あれは死んだ。諦めろ」

 魔王はクビになった。だがあの人工知能をぶっ壊した後でも俺は地上の安寧のために、断罪者として多くの咎人を処罰していくことになるだろう。
 頭では理解していたつもりったが、実際それがかなり億劫な仕事なんだと今更ながらに思った。


 俺たちを見守っていた兵士が一斉に逃げまどいだした。人類最強の勇者でも敵わない俺に恐れをなしたのだろう。
 遠くで戦いを見守っていた聖女が悲鳴をあげて駆け寄ってきた。勇者を必死に治療している。この聖女の能力では再生と回復、同時には無理だ。勇者を生かすためには腕の再生を捨て回復するしかないだろう。


 俺は二人の傍を通り過ぎ、目の前のドームの石壁を結界ごと蹴り飛ばした。粉塵とともに石壁が軽々と吹き飛ぶ中を俺は潜り抜けた。

 中は聖堂、天井にはステンドグラスが美しい。そして中央には巨大は魔法陣、だがそれに対して作られている結界は手のひらサイズだ。中央に小箱サイズの結界が浮いていた。それを大量の魔導士たちが守っていたが皆怯え切っていた。周りに兵士がいて逃げられないのだろう。

 小箱からサクラの気配がしている。
 あの中にサクラがいる。

 総勢で100人はいるだろうか。宮廷魔導士もいる。最後の選択だ。

「十数えるうちに逃げろ。逃げるなら見逃してやる」
「ダメだ!逃げるな!天罰が降るぞ!我らには神託がある!罰せられるは暗黒なる悪魔、魔王に神罰が———」

 そう叫ぶのはおそらく枢機卿クラスの僧侶だろう。こいつが神託を聞いたと理解した。他より魔力が強い故だろう。

「誰が暗黒だ?」

 白から見れば俺は黒いだろうが、白が正義で黒を悪と誰が決めた?

 皆まで言わせず俺はそいつの首を左の手刀で刎ねた。その背後にいたのは玉座に座るこの国の王と教皇、血飛沫とともに転がった刎ねられた首を見て明らかに青ざめ怯えている。己がしたことの報いで今更怯えるのか?

「十過ぎた。逃げないのか?」

 兵士と魔導士に動揺が走るも結局逃げなかった。信仰が深いが故か、神の怒りの方が恐ろしいのだろう。俺はため息をついて右手の魔剣を天に突き上げた。逃げないのならば俺への敵対、同罪だ。

「愚神の信仰のために死ぬか。それも選択だ」

 信仰は心の支えになるがそのために死ぬのは本末転倒だと俺は思うが。

「せめて苦しまずに———」

 初期魔導サンダーボルト、俺にとって初めての雷系魔導の発動だがそれは暗黒魔導・ 雷霆召喚ケラウノスとなった。これほどの人数を一人一人相手にするのは億劫すぎた。
 断罪は苦痛を与えず一瞬で。魔王がたどり着いたこの答えは断罪者が咎人にならないためだが断罪者の精神的な理由でもある。

 天が轟き数多の眩い光がステンドグラスを突き破り黒い雷が矢のように落ちてくる。いくつもの落雷が兵士と魔導士たちを襲った。

 床の魔法陣を傷つけることなくそれは一瞬で終わった。
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