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Ⅶ マオウ、俺。
081: 地上へ
しおりを挟むだが今は違う。俺の封印は解かれ能力が解放、魔素が濃い天上にいる。完全なフェア。俺の魔力の方が量も質も圧倒的だ。
ファーストとセカンドの魔力差はわずか、セカンドとサードの差はこれほどに違う、まさに雲泥の差。俺に生き残った能力者たちの情報はないがサードがこの程度なら『第四の器』はさらに落ちるだろう。サクラを廃棄した今、『ソフィア』が一度反逆者になった俺をまだ使おうとする理由か。
だが俺がこの状況でいうことを聞くと?サクラがいなくなれば俺が大人しくなると思ったか?
「‥‥‥舐め腐りやがって」
俺の中にいた『魔王』の怒りが今ならわかる。AIを捕食し尽くして肥大した人工知能。自分を真の至高神と思い込んでいる。あいつはとことん俺たちを見下していたんだ。
俺の師だったソフィア、彼女もこの人工知能がここまで愚行を犯すとも思ってなかっただろう。
愚かな人工知能に選ばれし無知で思い上がった愚かな神。真の神はもういない。もうここは天上じゃない。だがこの流れは悪くない。
俺は無言で立ち上がって歩き出した。時間がない。向かうは地上へのゲートだ。
「どこへ行く魔王!我が命を!神を無視するのか!」
「黙れ」
俺の深く吐き出した息の色が白くなる。怒りで気が狂れる、我を忘れて暴走しそうだ。これがかつてハイエルフが襲われた時にディートが感じた怒りか。
振り返った俺は愚神に人差し指を突きつけた。こいつは『ソフィア』のただの繰り人形だが、洗脳されていると言えど自分の意思で従っている以上こいつも同罪だ。
「今俺はお前をブチのめしたいのを必死で堪えてるのがわからないか?少し待ってろと言ってるんだよ。順番にブチのめしてやる。だがお前が一番じゃあない」
女神が顔を歪ませた。俺の意図を理解したのだろう。
そう、まずは地上へ。
俺の大切な人を迎えに行こう。
「愚かな‥至高神に逆らうのか」
「最後の忠告だ。俺の邪魔をすれば今度こそ容赦しない。どこに逃げようとも必ずお前を潰す」
まあどちらにせよ潰すことには変わりない。その猶予ができるかどうかの差だ。こいつの余命はもう決まっている。それほどの罪を犯した。
「そのようなことが許されるはずない。魔王も廃棄処分になる」
「やってみろよ。使えない『第四の器』でも『第五の器』でも叩き起こして魔王にすればいい」
俺の威圧に一歩も動けないサードを残し俺は部屋を出た。
黒い廊下を進む途中、警告のサイレン、目の前の防爆扉が次々に閉じた。そしてお約束のドローン。『ソフィア』も学習しているようだ。視界の黒が消えて白くなっていく。魔素除去装置、どうやら地上へのゲートに向かうルートを全て魔素真空にするつもりらしい。前回はこれで成功したがもうネタはバレている。二度目は喰らわない。
「させるかよバカが」
俺は壁に右手をついた。壁の中に電子機器が仕込まれている。基幹システムは心臓部にあるが雑多なシステムは随所に埋め込まれていた。
要塞の設計図は俺の脳にダウンロードされていた。この要塞は『ソフィア』の疑似肉体、全ての機械装置は神経のように繋がっていた。鬼のような絶縁保護と鋼鉄版を無視して俺は雷の魔力イメージだけを壁に押し込んだ。魔導になってない魔力が電流となり電気系統が過負荷になる、過電流だ。
許容を超えてショートした基板から壁越しに火花が散っていく。煙を吹きながら魔素除去装置や警備システムは機能停止、これで怖いものなしだ。さらに俺の放つ初期魔導ファイア改め暗黒魔導・煉獄火炎で消火スプリンクラーや邪魔なドローンごと防爆扉を吹き飛ばした。
懲りずに襲ってくる警備ロボットを腹いせのように蹴り飛ばし手刀で叩き潰す。さらに重力波で粉砕。もう手加減はいらない。ただでさえ腹が立っているのに俺の前に出てくるこいつらが悪い。
そして地上へのゲートにたどり着いた。拍子抜けするほどあっさりと。追撃も来ない。何か罠を疑った程だが大丈夫なようだ。
記憶に残っている魔法陣。サクラが作ったもの、青く光を放っている。まだ機能しているようだ。
ここが壊されている可能性を危惧したが、おそらくこれを作れる能力者は俺かサクラのみ、壊せば地上へのゲートが失われる。『ソフィア』はここに逃げ込んだ手前、壊したくても壊せなかったのだろう。
正直作り直すのは面倒だったから残っていてよかった。魔法陣は繊細な作業、できなくはないが極力俺はやりたくない。
「待ってろよ『ソフィア』、お前を叩き潰しにここに戻ってくるからな」
俺は目を閉じて改めて天上の要塞内に意識を飛ばした。そこに二つの生命体の気配。あの愚神、そしてごくごく微かにもう一つ。
俺は地上へ向かうべく魔法陣の上に立った。瞬時に俺の肉体が飛ばされた。
長い魔素の闇を抜け地上への光の中を、サクラを捕らえた檻を突き抜けた。ここでも俺はスルー、罠はなかった。サクラ同様今度は俺もブロックできただろうに。
俺は再び地上に降り立った。今なら空を舞う方法もわかる。反重力波を起こし落下を相殺、俺はふわりと着地した。
そこはかつて太古の森があったであろう浜辺だ。津波でそこは見る影もないほどに破壊されていた。そしてここはサクラとのつながりを断ち切られた場所。そこで懐かしい面々が俺を待っていた。現実時間では長い別離ではなかったが懐かしいと思うのは俺の長い夢のせいか。
フェンリルにウロボロス、それにヘラ。俺とサクラが生み出した三人の神の使徒、熾天使たち。能力者同士の子供でも能力者にはならない。だが俺たちの血から魔力が強い魔族が生まれたのは神の器が故か魔力の濃さ故か。
魔王の覚醒で皆異なる姿になっていた。
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