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Ⅵ ✕✕ンシャ、俺。
073: 楽園の喪失
しおりを挟むそして運命の日がやってきた。
「うん、血液検査の適正値になったわ。問題なしね」
「じゃあ俺!」
「うん、完治したわ。おめでとう、アスカ」
「完治!やった!」
発症から一年で命を落とすと言われた難病、そういえば入院して九ヶ月が経っていた。ドナー制度の検査からだと大体一年くらい。結構ギリギリだったんだな俺。
サクラが目を伏せて頬を染めた。俺の回復を喜んでくれてるんだな!なんでモジモジ?
「えっとね、アスカも元気になったし‥‥だからもう大丈夫」
「じゃあもう俺患者じゃないんだよね。ここも退院になるのかな?」
「え?ダメよ!」
俺の声にサクラがビクンと反応した。ちょっと驚いた風だ。
「え?違うの?退院だよね?」
「いえ、まだ経過観察もあるし」
「完治って言ったじゃん」
「でも再発の可能性もあるし。外は危ないわ。‥‥別にいいじゃない、私とここにいても。ここじゃイヤ?」
それは退院後の経過観察だ。普通は自宅で様子を見るようになる。もちろんサクラと一緒にいるつもりだし、ここもいい場所だった。でもここじゃなくてもいい。サクラの言わんとすることがわからない。
「え?ひょっとして俺が退院するとサクラ異動になる?病院クビになっちゃうの?!」
「いえ、そうじゃなくて‥まだアスカはここにいてもいいんじゃないかって」
完治したのに俺まだここにいるの?
なんで?
「サクラ‥‥どういうこと?はっきり教えてよ。俺はまだどこか悪いの?」
「‥‥‥そういうことじゃ‥」
「じゃあ一度家に帰らせてよ。うちの両親にサクラを紹介したいんだ、サクラが俺を治してくれたんだって。サクラならきっと気に入られるから。避難所から戻ったって言ってたからさ。じいちゃんにも会いに行こう?写真見せたっけ?ほらこれが」
窓際のデスクに家族の写真が飾ってあった。じいちゃんと父さんと母さん、ガンドに俺。中学卒業の時の写真だ。俺がそれに手を伸ばした時に———
衝撃が走った。
俺は初めて聞いたがおそらくそれは爆発音。窓から見える世界は森と草原だけなのにどこから?そう思ったら視界にサクラが飛び込んできた。
「危ない!」
二回目の爆音。俺の鼓膜を破った。最初に聞いた音は場所が遠かったんだとわかった。二回目は直撃だ。酷い衝撃と爆風で俺は完全に聴覚を失っていた。水の中にいるように音がくぐもっていた。
「アスカ‥怪我はない?」
「サ‥‥」
俺を庇ったのは血まみれのサクラ。俺を抱きしめて笑顔を見せていた。
「サクラ!!」
「よかった‥怪我はない‥わね」
「な‥‥‥‥」
なんだこれは?ありえない。さっきまで俺たちは普通に話していて‥爆発?車が突っ込んだ?ガス漏れ?なんで?
血が‥‥血がこんなに‥‥
サクラの背後に視線をやれば、そこは焼け野原の世界だった。
俺が見ていた森や草原はもはやない。そこは一面焼け爛れていた。部屋は壊され壁が吹き飛んでいる。焦げ臭い匂いがする。そしてそこを飛び回るドローン。辺りで爆発音がしている。壊れた看板、道路、標識でわかる。俺の呼吸が文字通り止まった。
なぜかはわからない。だがそこは間違いなく俺の母国だった。そして人は誰もいない。
見えたものが信じられない。震えが止まらない。
庭には何度も出てたのに道路なんて見たことなかった。なぜ今それが見えるのか。
「次元を分断したのに‥‥見つかっちゃったわね。これだから‥機械は嫌い」
見つかった?誰に?何が?
浅い呼吸のサクラがゆらりと振り返った。出血が酷い、その原因は背中に刺さった破片だ。窓ガラスが爆風で吹き飛んだ。サクラはガラスの破片から俺を庇ったとわかった。
俺のせいでサクラが死ぬ
「サクラ!動いちゃダメだ!」
「私は大丈夫‥だって私は‥」
———魔女だから
サクラが囁いた。
俺たちの前に浮いていたドローンは対人攻撃なのだろう。サーモで人体の温度を見つけ攻撃する。そんなものがあると以前ネットで見たことがあった。そして俺たちはこいつらに見つかった。
ドローンたちが俺たちに襲いかかってきた。それにサクラが右手を払った。ドローンが激突音と共に次々に爆発していく。俺は目を瞠るばかりだ。自爆した?わけがわからない。
爆発しなかったドローンが地面に落ちた。何か透き通った細い棒状のもので串刺しにされている。氷かと思ったがおそらく金属‥いや水晶だ。剣のように尖ったそれが地面からボウガンのようにドローンめがけて撃ち放たれたとわかる。
防犯システム?迎撃システムか?いや違う。
サクラがこれをやったんだ。なぜかすとんと理解できた。
これがサクラが『大いなる魔女』と呼ばれた理由?
「‥‥‥‥サクラ?これは」
「楽しかった‥‥アスカとここでずっと一緒にいたかったわ‥‥でももう‥‥時間切れね」
「サクラ?なにを」
時間切れって?
浅い呼吸のサクラが俺の腕の中にすとんと倒れ込んだ。血は流れ続けている。これじゃ出血多量でサクラが死んでしまう。俺は医者じゃない。俺に手当てをする術はない。
俺は何もできないのか?
震える俺の頬をサクラの手が撫でた。俺が死に怯えてると思ったようだ。
「大丈夫よ、貴方は死なない」
「違う‥サクラ‥いやだ‥‥俺をひとりにしないって約束しただろ?」
「ひとりにしないわ、ずっとそばにいるよ」
「いやだよ‥そんな‥もう終わりのような言葉‥」
「ひどいことをしてごめんね‥‥貴方に許されるためなら‥もしまた貴方に巡り会えるためなら‥‥私は‥」
「何?何を言ってるの?」
「ごめんね‥ありがとう‥アスカ」
わからない。わからない。わからない。
サクラの言っていることが、何故それほど俺に謝るのか、今の状況がわからない。
サクラが血塗られた手で俺の目を覆った。
そこで俺の意識がプツンと断ち切られた。
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