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Ⅵ ✕✕ンシャ、俺。
071: 復活
しおりを挟む長い長い闇の中をまどろんで———
俺はベッドの中で目を覚ました。眠りが深すぎてなかなか意識が戻らない。ぼぅっと天井を見上げていた。
えっと、ここどこだ?
夏休みにたくさん遊んで夜更かししてたらふく寝た後の満足感。頭はボケているがひどく清々しい気分だ。
「‥‥‥‥アスカ?」
名前を呼ばれて何気に横を見たら先生がいた。だが様子は全然違っていた。先生は俺と同じ布団の中、服を脱いで上下お揃いの赤いブラにショーツ姿だ。白衣越しにわからなかった程よい胸の膨らみと谷間も見えた。顔は童顔だか体はきっちり大人の女性。半裸で髪ももさもさ、いかにも一緒に寝てましたといった風である。
え?ええええぇぇ?!
なんで?どうして?
つーか!嬉しいけど!目のやり場に困る!!
「アスカ!よかった!」
ドギマギする俺に涙目の先生が布団を吹っ飛ばして抱きついてきた。半裸の先生に抱きつかれてさらに混乱する俺。これは仕方ない。
ヤバい!なんか色々当たってる!
「せ?せんせ?!」
「目が覚めて‥‥本当に良かった‥‥」
「ええ?えっと?」
「覚えてないの?貴方、一ヶ月眠っていたのよ?」
「えええええ?!でもここは‥‥」
一ヶ月。そりゃたっぷり寝たと思ったわけだ。だが最後の記憶の、機械だらけの集中治療室じゃない。ここは俺の病室だ。
「三日で症状が落ち着いたからこちらに移したんだけど、意識だけが戻らなくて。本当に怖かったんだから」
体が正常で意識が戻らない、脳死だ。先生はそこを心配していた。
「‥‥心配かけてすみません」
「目が覚めたならいいわ。気持ち悪くない?動けそう?」
先生が忙しなく仰向けの俺の体を撫で回してくる。下着姿で俺の腹の上に乗るのは天国すぎるからやめて!この場で昇天してしまいそうだ。先生は相変わらず遠慮がない。そしてお約束のゾクゾク感。俺の平常運転だ。
「い、異常ありませんから!」
「うん、そうみたいね」
撫で回して満足したのか先生も安堵の息を吐いた。
先生から逃げるように起き上がって体を動かしてみても異常なし。俺の体は畑で倒れた時と全く変わらない。寝たきりで落ちたはずの筋肉も戻っていた。記憶の中の痩せた自分の腕を思い出す。普通なら体力落ちたところから地獄のリハビリが始まるはずだ。
俺の記憶違い?あれは夢だったか?
「何したい?まずは食事かな?体は拭いてたけどシャワー浴びたいよね。着替えは———」
嬉しそうにベッドと飛び出して白衣だけを羽織る先生。いやいや、それでも目の毒だ。同棲中の男女ってこんな感じ?彼シャツ?俺が寝てる間はどんな格好してたんだ?下着に白衣はエロいって!ちゃんと服着て!
目のやり場に困りつつも白衣から覗く生太ももやら襟の間の胸の谷間やら透けて見える下着やらチラチラ見てしまうのは不可抗力、男の性だ。
先生は部屋を駆け回って引き出しを開けて俺の風呂セットを準備する。手慣れている。そこで疑問。
「えっと、ひょっとして‥‥俺が寝てる間先生が俺の面倒を?」
「ええ、してたわ。アスカは大きくって大変だったけど頑張ったよ?」
寝たきりの介護は大変だ。床ずれ防止の寝返りに始まり、食事介助に着替え、入浴に下のお世話。慌てて下半身を見たが俺はオムツは履いていなかった。ちょっとほっとする。だがそうなると?
大きくって大変?何が?俺のはそこまで大きくないはずだが?寝てる間に勝手に大きくなってたとか?もしそうだったら恥ずかしくて俺死ねるぞ!憤死ならぬ愧死だ!
つまり?俺は好きな人に着替えやらほにゃららをお世話されていた?
「あ!えっとそっちはしてないから!大丈夫だったから!見てないよ!」
絶句する俺の思考を理解してか赤面して慌てる先生。じゃあ見られていない?俺の口から安堵の息が出た。
ん?でも俺、寝てる間そっちは大丈夫だった?食事してなかったのか?それに着替えとか体を拭いた時だって色々見られて———
「いや、だから見ないようにしたから!大丈夫なんだから!お、大きくって大変だったのはアスカの体だからね!み、見てないし!全ッ然!見てない!」
俺の思考を隅々まで読んでくる。すごいな先生。何度も否定されると返って怪しい。これは絶対見たね。他の人なら恥ずかしいが先生に見られる分ならいいかな。ちょっとゾクゾクしちゃったし。
ひとまず『アスカは大きくって大変だったけど頑張ったよ?』は色々使えそうだから赤い下着姿のスチールとセットで脳内永久保存———
「もう!いやらしいこと考えてるでしょ!バカバカ!」
「え?なんでわかる‥‥やめッ痛い痛いッわぁッ」
真っ赤になった先生が俺に殴りかかってきた。先生ってば意外に凶暴?手が早い?グーでぽこぽこ殴られるが力がないから可愛い感じ。全然痛くないが痛がるふりで俺は笑いが止まらなくなった。
殴りかかる両手を受け止めれば先生の息が上がっている。興奮してるせいか真っ赤になった先生がイキイキしている。
「先生、いつもと感じ違うね?」
「これが私よ。普段は真面目にしてるけどホントは怒りっぽいし多分‥‥嫉妬深い」
「俺だってそうだよ?先生の前ではカッコつけてるけどホントはすごくバカだし」
「あんなに賢いのに?」
先生が不思議そうに俺の顔を覗き込んできた。顔が近い、さらに青い炎のような大きな瞳に見つめられ俺の思考が停止した。一ヶ月前、もう目覚めないと覚悟した時の想いが湧き上がってきた。
あの時は動けず言葉もうまく出せなかった。だけど今は違う。そう思えば俺の体は勝手に動いていた。
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