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Ⅴ メシア、俺。
056: アフロディテ
しおりを挟む「いやぁ、周りと全然話が合わなくって。この手のネタわかる人がいないから今日はすっごく楽しかった!」
「俺は全然楽しくなかった」
「え?嘘なんで?どうしてかな?」
お前のせいだよ!わかってないのか?!
打って変わってフレンドリーで従順になった令嬢。顔は確かに笑っているんだがなんか引っかかる。この違和感はなんだ?
令嬢はるぅがいる部屋へ案内するという。そこで気になっていたことを聞いてみた。
「お前の名前は?」
「 この姿の時はアフロディテ、ディートと呼ばせてる」
この姿。いちいち気になる言い方をするな。アフロディテは前世の世界での美の女神の名前。こいつのこだわりか?
「お前も転生者なのか?」
「僕も?いいや、違うよ」
「は?」
「僕はこの世界で生まれた。そういうんじゃない。記憶があるだけ」
「それを異世界転生というんじゃないのか?」
俺の問いに令嬢は静かに微笑んだ。
「違うよ、全然。僕も違うし君も違う」
俺も違う?
まるで禅問答のよう。はぐらかされた?
「なんであんなことしたんだ?」
「あんなこと?」
「るぅを人質にしてからの鬼ごっこだよ、あれの目的は?」
「‥‥‥‥魔王さまをウチにご招待したかったから。そもそもが死なないリッチの人質とか成立しないし」
「お前が言っただろ?!リッチを殺せると」
「あー、あれ嘘。魔王さま信じちゃった?」
「あれ嘘か!!」
「リッチなんか殺せるはずないじゃん?信じたんだぁ?ちょっとカッコつけすぎちゃったかな」
信じたからここまできたんだろうが!!
手を合わせて可愛い女の子がする「ゴメンね!」の顔だ。あの時のこいつは完全に悪役だったがあれ演技か?!カッコつけすぎた?ってやりすぎだろ!
こいつ、しれっと。人格が出来ている温厚な俺でもちょっとイラっと来たぞ。
「まあクイズは本物の魔王かどうかのチェック?魔王以外には答えられない問題だっただろ?」
「確かに」
問いは俺の前世の記憶ばかり。転生者以外には答えられない問いだが俺以外はわからない?転生者は他にいないのか?
つーか、そういうことなら鬼ごっこや罰ゲームはいらなかったんじゃね?
「僕の居場所は誰にも知られたくなくてね。あんまりにもタイミングよく出会えたから魔王を騙るスパイかもって警戒した。敵も動いてるし」
「敵?」
「‥‥‥‥そこはおいおい話す」
俺の問いにはとりあえず答えてくれている。今ならなんでも教えてくれそうだ。細い洞窟を進みながらさらに聞いてみた。
「ところでお前、女?」
そいつがちょっと驚いたように目を瞠り俺に振り向いた。予想外の反応だ。
「あ、やっぱ違うのか?」
「いや、僕は女性だよ」
んー?ということは体は女だが中の人は男?中身はサバサバしてるというか。正直女の子っぽくない。
「じゃあなんで今驚いた?」
「そこを気にした君に驚いたんだ。疑われたのは初めてかな?魔王さまは真実の目を持ってるんだな」
「真実の‥目?」
「君ならいつか僕の本当の名前を呼んでくれるかもね」
真実の目とは?本当の名前とは?
じゃあディートという名は嘘なのか?こいつはまた変なことを言う。
女性かどうかを疑ったつもりはないんだが。怪訝な顔に令嬢が何やら笑みを浮かべる。
「女って証拠が欲しければ見せるけど?」
プチプチとボタンを剥がしドレスの胸元をぐいっとはだけさせた。そこには確かに女性特有の白い肌にむっちりご立派な谷間が見えた。もうポロリ寸前、俺はぎょっとした。
「げッ やめッ やりすぎだ!」
俺は慌てて視線を外したが。ヤバい!女神様の逆鱗に触れる!もうこの展開ヤダ!胃痛に備えて俺は身を強張らせるも何事も起こらない。そういえば今日は女神様の気配がしないなぁと思いついた。
例の電波障害のせい?命拾いしたー
一方の令嬢ディートはニッと歯を見せて俺に笑った。
「触ってみる?下着も見たい?別に魔王様の前でなら全部脱いだっていいよ?」
「ヤメろって!悪ふざけがすぎるだろッ」
「へぇ?魔王さまは奥手なんだ?」
服は戻してくれた。俺は心底ほっとした。
というより露骨にグイグイ来られると女性経験値皆無の俺はむしろ引くというか。ドン引きである。そもそもこいつは何やら嫌な感じがする。王子と聖女の時もその本能に助けられた。理屈じゃない、こういう時は本能に従った方がいい。
さらに洞窟を進むと突き当たりに木の扉が見えた。その奥から何か音が聞こえてくる。そしていい匂い。その懐かしくもありえない匂いに俺は自分の鼻を疑った。
「あ、ちょうど準備できたみたいだ。イメージ見せただけなのに、すごいなへるぅは」
そしてディートが扉を開けた。そこは俺にとってとても懐かしい部屋。
「な?なんでここに?」
「いいでしょ?僕の部屋」
「お前の?!」
それは俺の前世の自室だ。俺はふた部屋をぶち抜いて自室にしていた。あまりに本が多いせい、一部屋は書庫となっていた。今いるのは書庫兼勉強部屋、奥は寝室兼リビングだ。勉強机、四面の壁を覆う本棚まで間取りが全く一緒だ。あの時はこの部屋が世界を拒絶した俺の全てだった。そこが俺の記憶の最後。随分昔のことのように思える。だがこの部屋の再現度はとんでもない。本棚の大量の本にフィギア、どこ見ても確かに俺の部屋だ。
「お前どうやって‥‥」
「企業秘密‥‥と言いたいとこだけどヒント。記憶って曖昧なようでいて意外に覚えてる」
「あ?」
「これ見覚えある、っと思うのは脳にその記憶があるから。忘れたと思っていても脳は記憶している。僕はそれを具現しただけ」
「全然意味わからん」
「ならいいんじゃない、それで」
「何を話しておるのじゃ?」
俺がすっかりノスタルジーに浸っていたのにそれをぶち壊す奴らが奥の部屋の中央にいた。
洞窟の中のはずなのに部屋の窓の外は夜。そして部屋の中央にはちゃぶ台にホットプレート、そこで大阪風お好み焼きをじゅうじゅう焼くエプロン姿のスケジとそれをるぅとポメ少年、スケイチにスケゾウが見守っていた。部屋はソースの匂いが充満。
スケルトンに美兄妹、こいつら俺の部屋だと浮きまくり、ツっこみどころ満載だ。
俺以外がすでに全員集合、コレイカニ?
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