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Ⅴ メシア、俺。
055: 「ではここで問題です」
しおりを挟む魔力発動?
こいつ!風使いか!だからこの風穴!!
「卑怯だ!空飛べるのか?」
「あれ?魔王さまは飛べないの?」
「飛べるかよ普通!!」
「ではここで問題です」
「は?」
がなる俺に令嬢が口を開いた。
「虫歯の原因としてミュータンス菌が有名ですが、ミュータンス菌の正式名称は?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥え?」
「当然知ってるよね?答えて。一音でも間違えるとゲームオーバーだよ」
ミュータンス菌?
俺の脳が思考停止。それは俺の前世の世界にはあったがこの世界にはないであろう単語だ。脳の切り替えが間に合わない。そして俺の足が止まった。
「足が止まると罰ゲーム」
令嬢が俺の頭上を指差した。同時にざらざらーっと頭上から白いものが大量に降ってきた。ぬるぬると動くそれは大量の白い蛇だ。蛇まみれの俺の前にピコンとインフォウィンドウが開いた。
【青大将(白蛇)】
タイプ:精神攻撃(恐怖)
精神抵抗値+1d100、50以上で抵抗に成功。失敗すると恐慌に陥る。ちなみに毒はない。
え?これ、武器か?!なんつぅ悪趣味!女子なら恐怖判定前に確実に発狂してんじゃね?だが竜の咆哮に耐えたごん太精神の俺は基本抵抗値で余裕でクリアだ。おそらくあいつもそれと知っている。
つまりこれはただの嫌がらせだ。
「蛇神信仰の対象になっている白蛇様を武器にすんじゃねぇ!罰当たりが!」
「あはは、まったくだね」
踏みつけないように丁寧に白蛇を道端で払い俺が怒気を吐いて走り出した。一方の令嬢はドレス姿でのらりくらりと突撃する俺をかわしている。
「ほらほら、ミュータンス菌。え?うそ?まさか知らないの?答えは?そろそろ時間切れだよ?」
「知っとるわそんなもん!舐めんなよ!連鎖球菌だからコッカスコッカス連鎖連鎖‥‥ストレプトコッカス・ミュータンス!」
「正解。まぁこんなの君なら楽勝だね」
あっぶねー、あっててよかった。ちょっと怪しかった。生物得意。多読な俺はこういう雑学には強いんだよね。
「じゃあ次の問題。元素記号、原子番号36の名前は?」
原子?36?
俺の脳内は水兵のリーベが七曲をクラークしたが当然20で終わっている。科学は大の苦手で早々に捨てた。そして俺の授業の記憶は中三で終わっていた。
36?お前は何を言ってるんだ?!
「知るかボケ!!」
「んー?ダメ?じゃあヒントね。スーパーマンの故郷の星の名前」
「だから知るかよ!アメコミ読んでねぇ!」
「あれ?そんなはずないんだけど。じゃあ大サービスヒント。超有名なツインテールのボーカロイドを発売した札幌のソフト会社の名前」
「クリプトン!!!」
「正解。さすがこれなら答えられたね。おまけでゲーム続行だ」
令嬢が目を細め口元を扇子で覆い上品にくすくす笑っている。問題を出しヒントを出す、そしてそれを正解と断じれるこいつの知識。俺の母国の、しかも俺好みのちょっとマニアックなものだ。
こいつも俺と同じ転生者か!
鬼ごっこなのに何故か問題が出され俺に間違いなく答えろという。足が止まればお仕置きでへびが降ってくる。そうして俺はひたすら走らされた。もうなんでこんなことしてるのかわからない。
何よりこいつがとても楽しそう。ドレス姿なのに逃げ足が早い。すばしっこい。狭い洞窟なのに全然捕まえられない。こいつ、一体何がしたいんだ?
ここに来るまでに俺は馬を全速力で走らせていた。そこそこ疲れたところのこの鬼ごっこ。流石の俺も息が上がってきた。
「問題。和名で一番長い魚の名前は?」
「ぐぇぇッお前鬼か?!え———ッと、ウケクチノ‥‥ホソミオナガノ‥‥ハァハァ‥‥オキナハギ!」
「おしい、僕の聞き間違いかな?もう一回全部つなげて」
「あとで絶ッ対殺す!ハァハァッ ウケグチノホソミオナガノオキナハギ!!」
「正解。やっぱり僕の聞き間違いだったね」
「もッ問題の性格が悪い!走りながら‥‥ハァハァ‥‥こんな長い名前を答えさせんな!」
「全然聞こえない。問題。六人兄弟に妹が一人ずつ。全部で何人?」
「じゅッ———」
反射で答えを言いかけてグッと飲み込んだ。危ねぇ!
「‥‥‥‥‥‥‥‥ななにん」
「正解。残念、引っ掛からなかったなぁ」
「ざッけんなッ一体ッなん‥‥なんだよ!」
膝に手をついてぜぇぜぇと息を吐く俺を見て令嬢はすこぶる楽しそうだ。
「さぁ、なんだろうね?なんだと思う?問題。PCR検査のPCRの正式名称は?」
「知るか!俺の話を聞けよ!」
「正解。だよね、これは僕も知らなかった。調べたらポリメラーゼ連鎖反応って言うんだって」
「お前が知らない問題出すな!!」
「だから出したんだよ。答えてたらアウトだったね」
調べたら?この世界でどうやって?
そして答えられなくて正解とは?
キレた俺に令嬢がくすくす悪戯っぽく笑っている。もうご満悦だ。
「まあそんなこと言ってたら普通の人は問題出せないよね。でもすごいよ。ここまで全問正解、さすがは魔王さま」
「マジでッ‥‥ハァ‥‥ふざけんじゃッ‥‥ハァ‥‥ねぇ!」
「あれあれ?魔王さま疲れちゃった?すっごく走ってるもんね。ホント可哀想!ほら頑張って、これで最後の問題だよ。これ読んでごらん」
笑顔の令嬢が突然俺の前に紙を突きつけた。
Jesús bleibet meine Freude
紙に俺の目の焦点が合う。そこには懐かしい文字。投げられたボールを思わず打ち返すように俺は読み上げていた。
「主イエスよ、変わらざる我が喜び」
「———正解。僕、この曲好きなんだよね」
俺もそうだ。バッハの名曲。だからその邦訳名も覚えている。呼吸を落ち着かせ答えた。
「Jesu, Joy of Man's Desiring
主よ、人の望みの喜びを」
令嬢がふわりと微笑んだ。いつの間にか洞窟の最奥まで来ていたようだ。その突き当たりの扉を開け、令嬢が恭しく俺に、執事のように頭を下げた。
「ようこそ我が家へ魔王、ゲームコンプリートおめでとう」
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