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Ⅴ メシア、俺。
054: 鬼ごっこ
しおりを挟む「あれ?ひょっとして知らないのかな?リッチを消滅させる方法」
「‥‥‥‥え?」
「太陽が一番高くなる正午の陽の光を集めて浴びさせればリッチは一瞬で灰燼になる。あと一時間で正午。どう?この子で試してみる?」
「させるか!返せよ!」
飛びかかる俺を令嬢とは思えない身のこなしで難なくかわす。圧倒的な力の差だ。こいつは強い。レベルが違う。本能でわかった。
俺は脳内でポイント切替機に手を掛けた。ここは魔王を呼び出すしかない。色々後が大変だがるぅには代えられない。だがそれもあっさり封じられた。
「あれ?ここで魔王を呼んで僕と戦うの?いいの?貴重な本が丸焼けだね」
今度こそ俺はガチンと固まった。ここは王都の図書館、おそらくこの大陸中の貴重な書物が集められている。ここは人族の叡智の結晶だ。そんな書庫で、魔王なら間違いなく、躊躇いなくここでヘルファイアを放つだろう。
脳内の切替機に手を置いたまま俺は動けない。こいつは狡猾にも人質と地の利で俺を完全に封じたんだ。
そんな令嬢がふぅとため息をついた。
「魔王さまはやる気なんだね?本を愛する僕としてもここじゃ気は進まない。仕方ないから場所を変えようか」
「は?」
「正午までに街の外れの洞窟に来てくれる?そこでなら存分にやりあえるでしょ?来てくれないとこの子は灰と化すよ」
確かにそんな洞窟が、風穴があると観光ガイドに書いてあったような気がした。だが王都はデカい。遠すぎる。街の外れに行くにも相当時間がかかる。
「あと一時間で?!無理だ!」
「無理でも来ないと。あ、魔狼は使っちゃダメだからね。こっそり連絡を取っても僕にはわかるから。その時点で君はゲームオーバーだよ?」
抱き上げる意識のないるぅの首を掻っ切るように令嬢の指が横に引かれた。魔狼の存在もバレている。魔狼を使うとこいつにバレるというのは?
「まぁ歓迎の準備をして待ってるから。遅れずに来るんだよ、ルキ?」
微笑む令嬢の背後にパックリ時空の闇が開く。息をのむ俺を置き去りに令嬢と魔女っ子がその闇に消えた。
図書館を飛び出した俺は街中を走っていた。必死にあるものを探す。魔狼があの場に居れば形勢は変わっていただろうか。女神様とも話そうとしたが電波障害で繋がらない。もし電波障害がなくあの時女神様を呼び出せていたら?俺の脳内に出てくるのは”たられば“ばかりだ。
そして俺は目的の店を、駅馬車を見つけた。無理を言い、大金を積んで疲れていない馬を一頭買い上げた。「ルキアス」は乗馬の経験がある。これならなんとか間に合うだろうか。風穴の洞窟の場所を改めて店主に確認し俺は馬に飛び乗った。鞭を入れて街中を全速力で駆け抜ける。
ポメが使えないなら自力で洞窟に辿り着くしかない。いつも俺を守ってくれたあいつに元気な妹を返してやるために。
「やあ、予想より10分早かったね。頑張ったんだ。お疲れ様」
洞窟の前の木陰で優雅に本を読みながら待っていた令嬢を睨みつける。まるでピクニックに来ているようにのん気だ。こっちは馬を全速力で駆って息が上がっている。
「馬は放しておいて大丈夫だよ、ここらは魔獣がいない。まぁ、夜になると野獣が出るけどね」
「るぅを‥どこにやった?!」
「るぅ?」
はて、と一拍考えた令嬢が微笑んだ。
「なんだ、あのアークリッチ、るぅって呼んでいるの?へぇ?魔王さまはあの子は大事にしてるんだね」
笑顔なのに言葉の端々にトゲがあると思うのは気のせいか。初対面のこいつに恨みを買った覚えはない。
「どこだと聞いている?!」
「ちゃんと大人しくしてるよ?奥で。じゃあ早速やる?」
令嬢がくいと洞窟に顎をやる。入れと言うことか?歓迎の準備をしておくと言っていた。洞窟の中は敵だらけか?と思ったら洞窟には誰もいなかった。そこで神話級美少女の俺と公爵令嬢風のこいつの二人だけだ。
ここは風穴と言われるだけあってひんやりしている。地底のどこかから風が吹き抜けていく。風属性が強い場所だ。
あまり広くない洞窟の中央で令嬢がふぅと息を吐いた。
「僕は戦闘はてんでダメなんだよね。多分兄弟の中じゃ最弱、だから今回はちょっと違う勝負をしない?」
「どういうことだ?」
「ゲンコツは嫌だってことだよ。君だって嫌だろ?正直僕との力の差は歴然だし」
その通り、まともにぶつかったらおそらくこいつに敵わない。その準備をする時間ももらえず俺はここに駆けつけた。
「はっきり言えよ。じゃあ何すんだ?」
令嬢がにっこり微笑んだ。まさに天使の微笑みだ。
「僕と鬼ごっこしよう。君が鬼、僕が逃げるから君が僕を捕まえて」
「鬼ごっこ?」
「エリアはこの洞窟の中。君が僕の髪の毛一本でも捕まえられたらあの子を返してあげるよ。だけど鬼ごっこの間に僕の出す問題に答えるんだ」
「問題?」
「クイズみたいなやつね。鬼ごっこだけじゃつまらないから。僕を捕まえるか、君がその問題に全部答えられたら君の勝ちだ。どう?」
変な勝負だが力では敵わないだろう。まだこの方が俺にも勝利の可能性があるように思えた。一人称は僕だが体型を見れば立派な胸もあるし腰つきが丸みを帯びている。俺のような女装している男の娘じゃない。正真正銘ドレスを着た令嬢。動きにくそうだ。俺もスカートを履いているが裾は膝丈、これなら男の俺に利がある。
「いいだろう」
「ふふ、じゃあ僕が逃げるから。立ち止まっちゃダメだよ?ずっと僕を追いかけてね」
ふわりと笑顔の令嬢が走り出した。甘い雰囲気はまるで恋人と可愛い鬼ごっこをしているようにも見える。
思った通り足が遅い。背後から追いつき伸ばした俺の手が空を掻いた。令嬢が真綿のようにふわりと飛び上がったのだ。翼がついているよう、令嬢がドレスの裾を掴んで高い岩場に優雅に降り立った。
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