50 / 114
Ⅳ マドウシ、俺。
045: ヒロイン、俺。再び
しおりを挟む久しぶりの街滞在だ。俺たちは存分に食っちゃ遊び寝て温泉に入りーので。
あっという間に三日経った。一緒に来るかとポメとるぅを誘ったんだが忙しいと断られた。だから何に忙しいんだ?護衛でついてくると思ったがそこはいいのか?
というわけで、俺は一人で魔導教室会場に来ていた。入門編ということで会場には俺と同じくらいの少年少女が集まっていた。この教室の教師は現役宮廷魔導士の弟子らしく、能力が優秀なら王都の王立学園への推薦状も出してくれるらしい。かつて俺も在籍していた貴族御用達の王立学園に市民が入学するのはこういった推薦状が必要だ。玉の輿、逆玉の輿を狙う奴らには絶好の機会だろう。
ほとんどが知り合いか友達参加なのか教室のあちこちで話をするグループが見える。皆身なりがいい、貴族ではないがそこそこ金持ちの子女なんだろう。そこに一人入る俺。苦い記憶が蘇った。
大学によくあるすり鉢状の大教室の端っこに俺は腰掛け頭のフードを落とした。教室の視線が一斉に俺の顔に集まる。もうこれは慣れた。
授業は今日一日だけ、そして俺は社交的じゃない。友人は気の合う奴が数人いればそれでいい。よって集まる視線に無視を決め込んでいたがそんな俺に話しかける奴がいた。まあこれも予想はついていた。
「君一人で参加?」
身なりがいい、でも貴族ではない。「ルキアス」は貴族だったからわかる。こいつは豪商の息子と見た。ぼっちにわざわざ話しかけるのは下心か正義感か。甘いマスクが女子たちの視線を集めていた。
クラスに一人は居るであろう優等生委員長タイプだ。転校生のぼっちに最初に話しかける英雄。俺にとってはこういう奴は昔からウザいだけだ。最低限の会話を返す。
「そうです」
「そうなんだ。ここにいるやつは昔からの知り合いだから居心地悪いかもしれないけど、仲良くしよう。今日はよろしくね」
俺は魔導を習いにきた。仲良くなるためにここに来たわけじゃない。皆で仲良く?よろしくね?団体行動強制すんなよ、うぜぇ。イラっときた。
待て待て、こういう反応するから過去さんざん揉めただろ?ここはうわべだけ取り繕っておけばいいんだ。
「はい、よろしくお願いします」
俺はきゅるんと笑顔を見せた。この営業スマイルも随分板についたな。破壊力は保証付きだ。無表情からの俺の笑顔に委員長が絶句、男子たちからもどよめきが起こる。一方女子たちから剣呑な視線。中でも金髪の気の強そうな女子から睨まれた。なんでだ?これは過去経験がない。
そこで教師と思しき年配の女性が教室に入ってきた。エリート教師にありがちな冗談が通じないタイプだろう。
「静かに。これからテキストを配ります。今日一日で基礎を詰め込みますので皆集中するように」
だろうな。まあ俺は魔導書で予習済みだからこのパートは正直いらない。自分のテキストを一冊とって残りを後ろに回すという配り方だったが最後俺の分が足りなかった。まあよくあるやつだ。別にこんなの要らないが金は払ってるんだしもらう権利はある、と俺が手を上げようとしたところで隣の奴が声を上げた。
「先生、一冊たりません」
いつの間にか俺の隣に座ったさっきの委員長男子が手をあげた。チッそのぐらい俺もできるのに。そして俺の前に座っていたさっきの金髪女子から鋭い視線。え?何これ?ちょっと嫌な感じがした。
その後もプリントが来ない、順番飛ばされる、無視されるとちょっとしたトラブル続出だがその都度この委員長が俺を庇う。それがさらに女子たちの怒りを買う。動じない俺にも苛立っているようだ。なんか知らんが今はクラスの全女子を敵に回したようだ。一方で男子からは熱狂的な視線。
まぁね、鈍い俺でもようやく理解できた。
これって乙女ゲームの導入か。身分の低い可愛い女子が学園で王子と仲良くなって?悪役令嬢にいじめられるという?また俺はヒロインか。俺、こいつ全然狙ってないんだけど。女子って陰湿だな。ま、俺にとってはへでもない。肝心な魔導発動のコツを聞ければ十分だし。
退屈な座学に二時間費やして。
やっと!待ちに待った試し撃ちの時間になった。
「では各自杖を持って外の練習場に集まってください」
杖?杖って?
周りを見れば皆ステッキのようなものを持っている。魔導士が持っているあれか。確か魔力上げのバフ機能がついている魔導士必須アイテムだが。ないとダメ?俺バフは要らないし。まあ杖なしでいいだろ。
なのに委員長が余計なことを言ってきた。
「あれ?杖ないの?」
「えっと、家に置いてきてしまったみたいで」
「じゃあ撃つ時は僕のを貸してあげるよ」
だから要らんって。下心はなさそうだが優等生のつもりか?偽善だ。初級魔導ごときバフなくても撃てるだろ?そして金髪女子が殺気立っている。
委員長も杖貸すならあっちに貸してやれって。あぁもうめんどくせぇ!金髪もさ、嫌がらせする根性あるならさっさと告れよ。無駄だろこれ。
練習場には足の長い燭台にろうそくが一本。いかにもファイア撃てというシチュエーションだ。そして結界の気配。ここなら安全に魔導が撃てる。
ん?待てよ?ということは?
結界を張れればどこでも魔導の練習できんじゃね?
「皆さんにはファイアを撃ってもらいます。体内の魔力を感じて集中、高まったところで魔導を放ってください」
え?そんだけ?俺そこはもうできてるんだけど?どうやったら初級魔導を出せるんだ?なんか上手く発動するコツとかないんか?
ろうそくめがけて順番にファイアを発動している。ちゃんと火がついている、いいなぁ。女子と男子が交互に撃っていくのだが、当然俺は無視され順番を抜かされている。別に最後でいいし。ホントめんどくせぇ
そんなことを考えて何気に振り返ると視界の端で誰かが手を振っていた。遠く草むらの暗がりに居たのは魔女っ子るぅ、ポメとスケジもいる。今日は忙しいって言ってたのに見に来たのか?スケジが魔導筆談の巨大文字でフキダシのようにるぅの言葉を一つずつ伝えている。
チョ ッ ト コ ッ チ 来 イ
教師の目を盗んで俺は草むらに近寄った。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる