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Ⅳ マドウシ、俺。
044: ✕✕殺し
しおりを挟む外を歩きながら俺はため息をついた。足元のポメラニアンに念話で話しかける。魔女っ子は俺の前を歩いていて会話には参加していない。魔女っ子の肩にはムンクが腰掛けているがぴくりとも動かない。趣味の悪いマスコットを肩に置いているようだ。
『俺なんかしたっけか?さっき感じ悪かったな』
冒険者は基本男の世界だ。だから女がいるだけでとても目立つ。特に俺は見た目超絶美少女だったから以前は性的にヤらしい視線やら卑猥な言葉やらちょっかいが多かった。
最初の頃は俺も油断していたせいもあり男たちに裏路地に連れ込まれて押し倒されたこともあった。普通の女子ならそこで貞操の危機だが、そういう悪い子は激怒した俺に股間をげしげし蹴られポメにきちんとお仕置きされたわけで。俺の嫁に手を出して生きていれただけでも感謝しろってんだ!
だがいつ頃からか男にモテなくなった。付き纏いもなくなってむしろ清々してはいたがなんでだ?色気ないし胸が絶壁だからか?
『あー、あれはですなー』
『ん?何か聞こえたか?』
『聞こえたには聞こえたのですが‥‥‥その‥‥‥』
『なんだよーはっきり言えよー怒んないからさー』
ポメは耳がいい。ギルド内の会話をこっそり聞いておくように指示したが何やらポメが気まずそうだ。
ポメが聞いたボソボソ話を統合するとこうだ。
俺があの街に滞在してからキレイなお姉さんたちが俺にべったりだった。あのSランクパーティのお姉さんたち然り、受付のお姉さん然り。俺めっちゃ可愛がられてたし?お姉さんたちを狙っていた奴らも多かったようで相当イライラしていたらしい。
で。俺がやっといなくなり、さぁこれから俺らがアタックだ!というところでもお姉さんたちは相手にしない。意気消沈でそれどころではなかったそうだ。巷ではそれをルキロスと呼んでいたようなのだが。なんだそれ?ペットロスか?俺死んだの?
つまりまだ誰もお姉さんたちを落とせていないらしい。その恨みが何故か全て俺に向かったわけで。
そうして男どもに嫉妬を込めてつけられた俺の二つ名が———
『百合殺し?!俺が?俺は設定女子だろ!なんでだ!!』
『ですから文字通りの意味と存じます。やはりお怒りになりましたか』
『怒んだろ!当然だ!』
あまりに女性陣に人気の超絶美少女。女だがあまりの剛腕ぶりに俺は男の敵のイケメン枠に入れられてしまった。見た目美少女だが胸絶壁だし。(2回目)
だからあの嫉妬バリバリの敵意かよ!まああの聖女も王子も俺に落ちたわけだから剛腕は確かかもしれない。こいつらは全然嬉しくないが。
ただただお姉さんに可愛がられただけなのにこの仕打ち。もういっそホントに男一人ハーレムだったらなぁ。実現しても年下な俺が食われる受けポジっぽいが。いやいや、そこはなんとか攻めで!あれ?やっぱこれってば百合?
モテモテなのにコレジャナイ感満載なのはどうなのよ?
神殺し、竜殺し、百合殺し。二つ名はもう十分だ。俺は他に何を殺した?ゴーレム?王子もか?それももういい。
はぁとため息をついて俺はポメと魔女っ子に話しかけた。
「そろそろ昼にしようか、どこかオープンカフェないかな?」
「ランチか!すぐ行くのじゃ!」
「アンアンッ」
ムンクもカクカクと頷いている。お前まで何か食う気か?どんだけだよ。
「ね?だから女神様も機嫌なおして」
ポケットから出したコンパクトを開くと、やっぱりむくれている女神様。でも二ヶ月毎晩一緒に過ごして俺はよくわかっている。これは可愛い嫉妬だ。
『ランチは断ったでしょ。そもそもそういうんじゃないし。受付のお姉さんには俺のこと妹みたいに可愛がってもらってたから』
『違うのよ』
「違う?何が?」
『どーして気が付かないの?違うのよ!鈍感!』
「???」
女神様が怒る理由がわからない。断ったのに。
『気がついたらついたで腹が立つけど!鈍感なのも腹が立つ!無自覚なんだから!あーもう!』
「ん?無自覚?何に?」
俺何間違った?ランチ断ったのは正解?
ケーキの美味しいお店のお誘いを断ったから?
ピコーン!
「あ!女神様もケーキが食べたかった!」
『ちが———う!どうしてそうなるの!』
「なんだ、そうならそう言ってくれればいいのに。お店でケーキ頼もう!女神様が好きなの選んでいいよ。俺が食べればケーキ味わえるでしょ?」
「‥‥いいの?甘いもの苦手でしょ?」
「別に?女神様が食べるんだから平気。いい店ないかなぁ。あ、あそこにしよう!」
テラス付きのカフェに突入、テラス席を確保してワンオーダーでバンバン注文だ。パスタやらピザやら食いまくる。俺は和食派だがイタリアンも嫌いじゃない。ポメは足元でタイの塩釜焼きに果敢に食らいついている。ムンクは魔女っ子の膝の上でパスタをすすっている。根っこがパスタを食う、すげぇホラーだ。
デザートには女神様はナポレオンパイ、るぅは生クリームたっぷりストロベリーパフェをオーダー。硬いパイ、これどうやって食うんだ?と思ったら周りの女子が器用にナイフで切って食べていた。俺なら手で食う案件だ。難易度高い、女子ってすげぇ。パイの味は激甘だったが女神様が喜んでいるのが分かれば俺も嬉しい。
美少女、幼女、仔犬に根っこで爆食しホッと息をついたところで、ふと俺の視線が店内の張り紙に行った。
「ん?魔導教室?」
魔導士が疎開している。きっとこっちで魔導教室を開いた魔導士がいるんだろう。だがそこに踊る文言が魅力的だった。
「なになに?簡単入門編?一日で基礎をバッチリ身につけて?初級魔導を?!撃てるようになりましょう?!専用練習場付き!マジか!」
客の視線も気にせず俺は思わず壁に張り付いてしまった。
たった一日で初級魔導が撃てるようになるなんてマジ夢のようじゃん!しかも練習場がある。試し撃ちもできるのか。
「うさんくさいぞ。そんな簡単じゃなかろう」
クリームまみれの幼女に正論でたしなめられる。お前はまずその顔をなんとかしろ、と思ったら肩に乗ったムンクがるぅの口をナプキンで拭き拭きしていた。マンドラゴラキングは転職して魔女っ子専属お世話係か?
まあ確かにそうなのだが、こっちはワラにもすがる思いなんだ。
「魔導は人族の十八番だ。何か特別なレッスンがあるのかもしれない。三日後にレッスンあるな。受講してみるか」
「ほぅ三日後か。それなら間に合うかもしれんな」
「何が?」
「秘密じゃ」
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