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Ⅳ マドウシ、俺。
043: きな臭い?
しおりを挟む「む?ひょっとしてあれがそうか?」
足湯に浸かっているムンクに気がついたようだ。魔女っ子がずんずん近づいていきなりムンクを鷲掴みにした。
「おい!待て!そいつは」
俺は耐性があるからいいがお姉さんがヤバイ!俺はお姉さんの背後から抱きついて咄嗟に耳を塞いだ。普通の人は精神攻撃・ムンクの叫びに耐えられない。俺に抱きつかれて耳を塞がれたお姉さんから悲鳴が出た。うんうん、やっぱ怖いよね。
一方鷲掴みにされてジタバタするムンクに魔女っ子はいい笑顔だ。
「これがキングか。確かに活きが良いぞ。ほぉ、このわらわの前で叫ぶのか?初めて聞くがそれも悪くない。ほれ、存分に良い声で鳴いてみるがいい。じゃがその後おぬしがどうなるかは知らぬがな」
可愛らしい魔女っ子が黒い笑顔でオソロシイ言葉を吐いた。魔女っ子に足を鷲掴みにされたジタバタしていたムンクはそこでるぅの正体を察知したようだ。ムンク顔のまま汗ダラダラのガクブルで硬直した。そして完全に沈黙。結局ムンクの叫びは披露されなかった。
「お前は賢いな、見どころがある。気に入ったぞ。わらわについてこい。きちんと言うことを聞くなら悪いようにはせんぞ?」
捕虜連行?それ、ガッツリ悪党セリフだ。仲良し風に魔女っ子の肩にインコのように腰掛けているが、ムンクすんげー脂汗出してるし。
お姉さんの耳栓を解けばお姉さんはちょっと驚いた風だった。
「え?もう終わり?」
「すみません、急に耳を塞いで。大丈夫だったみたいです」
「そ、そうなんだ?もうちょっと長くてもよかったのに。残念」
「はい?」
よくわからないことを言われたがお姉さんが無事でよかった。お姉さんが笑顔でるぅの頭を撫でている。
「あらあら、すっかり仲良くなったの?叫ばなかったのは珍しいわね。この子すごく態度が大きかったから」
「こいつ、買い戻せませんか?倍払いますので」
「え?買い戻し?どうかしら?」
「わらわが責任持って面倒見るのじゃ。こいつもわらわと一緒がいいと言っている。のう?そうじゃろ?」
魔女っ子に促され壊れたようにぶんぶん頷くムンク。るぅがヤクザのボスのようだ。あんまパワハラすんなよ?
「あらそうなの?なら偉い人に聞いてみないと」
お姉さんからギルドマスターに掛け合ってもらった結果、意外にもオッケーが出た、しかもタダでいいと。
「実はもう株がだいぶ増えてるからその子がいなくてもなんとかなりそうなんだよね」
結構その子肥料食らいだったし?とお姉さんもネタバラシしてくれた。つまりは口減しである。確かにこいつ太ったな。どんだけ肥料食ったんだよ?
というわけで両者円満でムンクの身請けが決定した。餞別に粒肥料までもらってしまった。
るぅがムンクの身体検査に夢中になっている間、俺は受付のお姉さんから情報収集だ。
「なんか以前に比べて魔導士増えてないですか?」
「あー、それね。実は王都がアレって噂よ」
「アレ?」
お姉さんが俺に手招きする。近づけば内緒話をするように俺に耳打ちした。
「きな臭い」
「‥‥‥‥戦争が起こると?」
「んー、ギルド内での噂。まだ内緒ね」
お姉さんは人差し指を唇に当てて俺にウィンク。その仕草にギルド内の男性冒険者がざわついた。このお姉さんも美人で気配り上手、良妻賢母のいい奥さんになるだろうと男の冒険者に大人気だ。そして美少女な俺に何故か刺すような視線。なんで?この展開、いつもと違う?
「ほら、歩兵の徴兵って結構準備いるのよ。武器に鎧とかね。でも魔導士は杖は必須アイテムで自前だし弾は魔力だし飛び道具だしで即戦力なわけ。だから最初に徴兵されるのさ。この間、第一次の魔導士徴兵があったって」
「それは英雄の魔王討伐のせいじゃ?」
「そうとも言い切れない。それならもっと早くに動くはずだし?」
確かにそうだ。タイミングが合わない。
ということは?
「魔導士も色々いてさ、戦闘じゃなくアカデミックに極めたいってのも結構いて?鼻の効く連中はひとまず様子見で最寄りの町に疎開してる感じ。うちはマオウトンネルが開いたから手っ取り早いって人気みたいよ?」
「マオウ街道はまだ開通してないんですよね?」
「舗装はまだ。歩く分には問題ないわ。だから歩きでの往来は結構あるのよ」
納得だ。人族最大の王国ラトスリアが戦争をしかけるのならば、やはり相手は魔族?あいつらは魔族を敵と勘違いしてるようだし。隣国との折り合いは今のところいいはずだ。だが魔王は未だ未確認のはず。この間王子もそう言っていた。ならばどこに撃って出る気だ?
「あ、でもこの間魔王が出たんだって。あの山奥の鉱山の街で」
俺の思考を読んだようなセリフに俺の体がびくりと跳ねた。金鉱の街?俺らがちょこっとだけ滞在したあそこか?
「え?ほんとですか?」
「なんでも魔王がゴーレムで街に攻めてきて?居合わせた英雄軍のメティオストライクに破壊されたって。ホントかしらね?そんな上位魔導士なんて今の英雄にはいないはずなんだけど」
お姉さんの答えに俺は内心安堵の息を吐いた。
あー、びっくりした。こないだの件はそういうことになったのか。身バレしたかと思った。
まあ俺はいいけどね。自分でゴーレムの起動スイッチ押しちゃったから自分で片付けただけだし。ついでにレベルも上がってごっつぁんだった。
別に感謝されたいわけじゃないが、露骨に魔王下げに勇者上げってのが引っかかる。プライドの高いあの王子殿下はこういうのを良しとしないはずだ。これはきっと王宮側の指示なんだろう。
やたら魔王を悪役に置くのは?国威高揚?プロパガンダか?魔王を人族の敵と必死に刷り込んでいるようにも見える。その意図は?
そんなお姉さんが時計を見て嬉しそうに俺に話しかけた。
「あ、もうこんな時間!ねぇお昼まだでしょ?一緒にランチ行かない?私、午後休みなのよ、ルキアスく‥‥ちゃんがよかったらなんだけど」
何やら頬を染めてモジモジするお姉さんにギルド内がさらにざわついた。やはり何やらボソボソ話している。足元のポメがぴくりと耳をそよがせた。
おお、お姉さんからランチのお誘い。だが大体の情報はもう聞けた。正直ガールズトークは苦手なのだ。女子ウケする持ちネタもないし。グループならまだしも一対一だと間が持たないし。それに———
「えーと」
「るぅちゃんも一緒に!ポメちゃんオッケーのケーキが美味しいお店もあるんだよ?ね?どうかな?」
ここでお約束の胃痛がキリキリと。
はい、わかっております。
ギルド内の視線も痛い。ちゃっちゃと撤退だ。
「すみません、この後約束があって。また今度誘ってください」
「え、そ、そうなの?じゃあまた今度!絶対よ!」
残念そうな受付のお姉さんに笑顔で手を振って。男どもからの突き刺すような敵意の視線の中で俺は逃げるようにギルドを出た。
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