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Ⅳ マドウシ、俺。
048: 被害者兼被疑者、俺。
しおりを挟むほうほうの体で逃げた俺は魔女っ子たちと合流し宿屋に帰還、カーテンを閉めた薄暗い部屋で俺はテーブルをコツコツと叩いてソファに腰掛けた全員の顔を見回した。
「静粛に。これより今回の事件の捜査会議を始める」
捜査本部の外に筆書きで看板置くなら「デバフステッキでファイア撃ったのになぜかファイアボール大量連続発動事件」だ。必ずホシを上げる!
「被害者は俺な。被疑者は‥‥」
「わらわは悪くないぞ」
魔女っ子は口を尖らせている。拗ねていると言ってもいい。
関係者は俺、姿見の中の女神様、魔女っ子るぅ、ポメにスケジだ。部屋を暗くしているのはスケジ対策である。雰囲気出してるわけじゃない。
『おかしいわね、確かにデバフは発動したのに』
鏡の中の女神様も不思議顔だ。名探偵役の女神様にわからなかったらもうこの事件は迷宮入りか?頼みの綱だったのに。刑ドラフラグ終了。
『我が試した時は普通のファイアが出ました』
『私モ同ジ。ステッキ問題ナイ』
うんうんと頷く二人。スケジはどうも論調を俺が悪いにしたいらしいな。どんだけ魔女っ子ヨイショの過保護だよ。
まあ確かにデバフは発動した。だが普通のファイアを出すという成果には至らなかった。ステッキの設定が俺に合っていなかったということ。るぅたちは前回のデータを元に俺に合わせにきていた。そうなると変動要因は俺だ。面目ない。
被害者兼被疑者、俺。つまり自作自演、いつもの墓穴である。てかもう俺しかいないじゃん。俺ってば誰疑ってたんだよ?だが原因は不明。
前回と今回で何かが変わったということか?場所か?スケジとの魔導訓練?よくわからない。
よくわからないと言えば。
「そういえば。女神様は今回るぅを手伝ってステッキの設計してくれたんだよね。なんで?」
ギクギクッと視線を外した女神様が指を揉みながらぼそぼそと呟いた。気のせいか頬が赤い?
『‥‥‥‥‥‥‥‥だって‥ファイア撃ちたいって言ってたから‥‥撃たせてあげたくって』
ん?それって俺のため?ファイア撃たせるためにあんなに嫌がってたステッキ作ってくれたの?
俺の体温がギューンと限界マックスまで上がる。血圧脈拍もドッキドキでヤバい。今バイタル取ったら危険値でアラーム鳴りまくりだろう。俺はフルフル震えながら思わず鏡に抱きついてしまった。
「女神様!好きだ!今すぐ結婚して!!」
『もももう!なんなのよ!バカ!』
真っ赤な女神様から俺の額にエアデコピンが炸裂。だが痛くない。こういうちょっとした甘い変化も嬉しいんだ。
と、そこでスケジが俺に本を差し出してきた。開いた箇所をトントン叩いている。それは諸事情で禁書となった魔導書、極の巻だ。俺がまだ読んでいない本だった。
「えー、なになに?魔導の習熟度が一定に達するとエキスパート補正が発生する?え?」
説明しよう!
エキスパート補正とは。
数多ある魔導のそれぞれに習熟度という概念がある。まあレベルみたいなものらしい。
で。その習熟度が一定値に至りカンストするとエキスパート補正なるものが発動する。追加効果は個人差があるが魔力量に応じた攻撃力および連射数の増加。攻撃力増加は場合により魔導そのもののランクアップにもなるという。例えばファイアアローならファイアボールなど?
エキスパート補正はそうそう達成できるものではなく賢者クラスの魔導士でも生涯に一つか二つ程度のものらしい。
と、ここまで本を読んだ俺。ある結論が導き出された。
つまり?俺のファイアがレベルカンストした?だからあんなとんでもない結果に?
俺、2回しかファイア撃ってないんですけど何か?
魔王封印で俺は基礎能力値・耐性値以外は全て初期化された。魔導だって正真正銘レベル1スタートだ。それでもうカンストかよ!
まあ百歩譲って?ファイアカンストでなんでファイアボールになった?そこはファイアアローとかになるんじゃね?15万の魔力のせい?殉職じゃあるまいし勝手に二階級特進してんじゃねぇ!
鏡越しに本を見せたら女神様が感心したような声をあげた。
『あら、こんなことになってるの?』
「女神様はご存知なかった?」
『私に習熟度なんてあったかしら』
ということは女神様もすでにカンスト。そういうことですか。きっとファイアを使ったこともないだろう。るぅでもポメでもなく、スケジがこれに気がついたのは元人族魔導士だからか。
この仮説が正しいのなら(多分正しい)、俺はファイアを撃ってももうファイアボールしか出てこないことになる。そこに思考が至り俺は頭を抱えて絶叫。最悪だ!
「あああああ!結局俺ファイア撃てないんじゃん!」
そう、これはもはやデバフ以前の問題だ。
ファイアが出ないんだから。
「もう面倒じゃ、これをやる」
うんざりした様子のるぅがチャッカマンらしきアーティファクトを差し出してきたが。
「ちがーう!そうじゃないだろ!」
「ルキはよく頑張ったのじゃ。もう諦めろ、楽になるぞ。わらわはもう知らん」
「何だそれ!!」
憧れのハイファンタジーの異世界で!自分の魔導で火をつけてキャンプファイヤーしたかったんだよ!俺の夢が!ロマンが!
2回しか撃ってないのにファイアカンスト。なんだこの溢れんばかりの魔導センスは!俺は俺の才能が憎いぞ!
そして俺は魔王と女神様の強さのわけを改めて理解した。鬼高い魔力を武器に二人はファイアを出すように容易くヘルファイアを出すのだろう。さすが神族、これじゃ勝てるはずもない。
落ち込む俺を魔狼が気遣って慰めてくれた。擦り寄ってくる大きなモフを抱きしめて櫛るように撫でるとなんとも癒やされる。ペットセラピー?魔狼はプチモフポメラニアンにない大型犬の癒やしだ。
大きいってだけで包容力あるし。ポメはなんだかんだと気配りの長男だなぁ。
前世ではじいちゃんちにいた大きな犬とも俺は仲良しだった。あいつもいいやつだった。俺と同じ年でひとりっ子の俺の兄貴だったんだよな。性格も似てる。いつもこうやって俺を気遣って———
あれ?あいつ名前なんて言ったっけ?
一瞬茫然とする俺の頬にポメが鼻を擦り付けてきて我に返った。
『どうぞ気に病まれませんように、火をつけるのは我にお任せを』
「うん、ありがとな。お前はファイア撃てるのか?」
『我は物理攻撃担当、陛下ほど魔力値は高くありませんので』
「うぅッポメいいなぁ」
「そうじゃ!空に向かってファイアを撃つのじゃ!長い松明で火を取ってやるぞ」
いいアイデアだと言わんばかりに目をらんらんとさせる魔女っ子。
なんだよそれー、打ち上げ花火かよ。もう面白がってんだろ。松明ごと吹っ飛ぶぞ?
そもそも松明に着火ってさ、どっかの火祭じゃん。もうため息が止まらない。
俺のこのやるせない思いをどうしてくれようか!!
俺がダンッとテーブルを叩いた。
「食うぞ!ヤケ食いだ!今日はめ一杯食って飲みまくる!」
「ストレスを暴食や爆買いで発散するのはよくないのじゃ」
「ほっとけ!俺はいいんだよ!じゃなきゃ外で走りながらわめくぞ!」
「暴走行為も良くないぞ。オススメは運動じゃな。スケイチを呼ぼうかの?ガッツリ鍛えて貰えば」
「運動いらん!走れないならメシ食うっていってんだ!みんな付き合えよ!」
その晩、散々食い散らかし大荒れに荒れた俺は食後、ここぞとばかりに女神様に甘えまくって。なでなでしてもらいながら傷心のうちにフテ寝した。
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