【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

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Ⅲ ハンター、俺。

036: ロケットサーブ?いやいや、火の玉サーブです。

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「るぅ、例の煙出せるか?」
「煙?出せるぞ?」
「じゃあ頼む。俺たちを隠すんだ」

 バフンと大量の煙に辺りが包まれる。目眩しの煙だが山頂近いここだと低い雲海に呑まれたようだ。これで英雄軍に俺たちの姿は見えなくなったが俺の視界も消えた。ポメの結界で煙から守られる中、俺は目を閉じて気配を探ればゴーレムの魔石の魔力を感じられた。目を開ければ青い光があちこちに見えた。街の方角に動いている。ゴーレムの魔石が放つ魔力の光だろう。これを標的にすればいい。

 ラケット型スコップを手に岩山から岩石をひょいと持ち上げた。まずはサッカーボール大だ。崖の淵に立ち眼下の比較的近めのゴーレムに狙いを定める。こちらの方が標高が高い。風もなく条件も悪くない。懸念は俺のコントロール。テニスボールより球はデカいがタイミングが合うかどうか。俺は意識を集中させる。

 俺は左手で岩を空高くトスアップ、体をしならせ右手のラケットを振り抜いた。打ち返す相手もいないから威力優先のフラットサーブだ。

 ガンッという音と共にラケットが岩にミート、懐かしい手応えだ。弾丸と化した岩が眼下のゴーレムの頭にヒットした。ゴーレムでも壊せなかった岩の弾丸がゴーレムの頭を突き抜けた。音速のロケットサーブだ!ゴーレムがぐらりと体を揺らしガラガラと小さな岩となって崩れた。魔石を失えばゴーレムは岩に戻るということだ。

 ゴーレムの頭の魔石を偶然打ち抜けたようだ。試し撃ち、当たるだけでもいいと思ったがこれは運が良かった。

「やった!当たった!」
『本当に?すごいわね!』

 女神様が嬉しそうに俺の特技を褒めてくれた。俺を褒めてくれたのは地味に初めてじゃないだろうか?

 マジか!もう嬉しくてデレちゃうじゃないか!いやいやもっとデレたい!もっと褒めて褒めて!

『さすがは我が主!お見事でございます!』
「おぉすごいぞ!なんじゃあれは!」
「おう、ありがとな」
「もっと見たい!もっと撃つのじゃ!」

 こっちにも褒められた。そして更にせがまれた。目を爛々とさせたポメとるぅが俺をキラキラと見ている。さすが兄妹、同じ目をする。そして俺はこの過剰に期待に満ちた目は苦手だ。こっちには苦笑いで応じる。

 頭の魔石に当たればゴーレムを壊せるとわかったが、さっきの球だと小さすぎて狙いが際どい。魔石の光を目印に狙っているが標的も動いている。ちょっとずれたらおしまいだ。運頼みはリスクがある。

 一発で確実に仕留める、それが俺の信条だ。
 ならもっと球を大きくしてみるか?

 俺の身長大の岩をひょいと持ち上げた。重さを感じられるが苦はない。女神様の怪力すげぇな。
 この岩ならゴーレムの頭より少し小さいくらいか。これなら魔石を外さないだろう。だがこれが地面に落ちたらクレーターが出来て自然破壊必須だ。きれいな森に穴を開けたくない。この岩をゴーレムを破壊できるギリギリの強度にすればヒットと同時に弾丸も粉砕するんじゃないか?

 衝撃で粉砕、ならば———

 手に持った岩に魔力を込める。微かな火のイメージ、それだけで魔力錬成もせずワンテンポ遅れて岩が炎に包まれた。俺に火の耐性があるから熱さはない。岩の種類はわからないが熱で弱くなるんじゃないかという発想だ。
 スコップの柄を長くして岩を放り撃ち抜くフラットサーブ、ガィンッとちょっと痛々しい音と共に岩が音速で飛んだ。岩は狙い通りゴーレムの後頭部に激突、同時に岩とゴーレムどちらもバラバラに粉砕した。さっきより破壊力デカくなったのは弾丸が大きくなったせいか。

「よっしゃ!狙い通り!名付けて必殺!火の玉サーブだ!」

 まんまじゃないかって?ツっこむなよ!

 あとはこれを連射すればいい。スコップが心配だったが女神様が丈夫さが取り柄と言っていた。柄を少し太くしたし?まあ大丈夫だろう。

 麓の森から風に乗って微かに声が聞こえてきている。歓喜の声か驚愕の声か、勇者の軍だろう。ゴーレムめがけて雲海を突き抜けてメティオストライク級の火岩が降ってくるわけで、訳わからなかったらパニックものだろうに。早く逃げないと流れ弾に当たっても知らないからなー


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