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Ⅲ ハンター、俺。
032: ニワガール、俺。
しおりを挟む巨人族じゃない。女神様の答えに俺がほっと安堵の息を吐いた。
「よかった‥女神様が巨人族だったらどうしようかと」
『そんなに動揺すること?』
「するでしょう?人族サイズの俺と巨人族サイズの女神様だと夫婦生活に色々支障をきたしますし」
『‥‥‥‥はい?』
「夫婦円満の秘訣は夜の夫婦生活!女神様に不満があってはいけないでしょう?あ、逆に俺が巨人族だった場合も女神様が辛いし?やっぱサイズ大事!えっと、安心してください。これは俺のが巨人族サイズという意味ではなk」
『何の話をしてんのよ!!!』
「ぐぅ!!」
女神様の怒声と共に俺の顎の下に衝撃が走り俺の体が宙に浮いた。その勢いのまま俺は背面跳びのように背後に仰向けに倒れた。レフリーがいればK.O.を取る場面だ。
おお!女神様新技!怒りのエアアッパーカット!見えないから絶対避けられない、消える魔球並に卑怯なやつね。
ポメがひっそりとため息をついた。
誤解するなよ!これは夫婦喧嘩じゃないからな!
女神様は嬉シハズカシ照れてるだけだ!
もうなんかこれも最近気持ちよくなってきているというか?女神様のなら愛でも暴力でもなんでもオッケー?ゾクゾクしちゃうってか?俺ってば女神様に調教されてる?
痛い割にはダメージが入っていない顎をさすって俺がスコップを見上げる。で?これどうやって扱うんだ?
「無事に見つけたわけですが、これどうやって引っこ抜くんです?」
『触れてみなさい』
「え?」
『私の力が解放されているのなら貴方にも抜けるはずよ』
女神の力が解放?そんなことで?俺がぞんざいにぽんと手を置けばスコップがギュンと消えた。
「おお?!どこいっ‥‥てませんね」
正確には小さくなったのだが。目の前にちょうどいいサイズのスコップがふわりと浮いていた。俺が触れたせいかスコップは魔力も満ちて輝いていた。恐る恐る手を伸ばせばスコップはすとんの手に落ちてきたが。
見た目俺の手にジャストサイズだが?なんだろうこのずっしり感は。見た目小さくなっただけで物質の重さは変わっていないってこと?だから重いの‥か‥‥って。
え?女神様の初期スキルとは?
『私の初期スキルは無事解放されたみたいね』
「そのスキルってひょっとして」
『怪力よ』
やっぱり!!!
俺は目を閉じてはぁとため息をついた。
あの巨大なスコップと今のスコップが同じ重量ならこの怪力はとんでもない。俺が持てる武器なんてないだろう。武器が壊れる。昨日まで俺は弓も引けないと思ったが、今のこの怪力なら逆に弓を壊す勢いじゃね?クロスボウは機械的に弓を引くから壊すことはないか?でも気をつけないと。
丈夫が取り柄の女神様専用装備がスコップ。魔法少女ステッキじゃなかったのが心底悔しい!俺がスコップ持ったら庭ガールだろッ しかも怪力とか!女神様初期スキルがまさかのガテン系。せっかく神話級超絶美少女なのに!このぶち壊しの仕打ちとか酷くない?わざとですか?
武器屋にオーダーで魔法ステッキ作らせようかな?いや、最悪魔法出なくていいし。
街で買った武器を下げるベルト(街でのお買い物その3)をつけてスコップを下げてみたが、やはりどうみても庭ガールか農家のお姉さんだ。ここにカッコいい武器を下げるはずだったのに!
『何よ、言いたいことがあるなら言いなさいよ』
「俺の言いたいことなんてもうわかってるくせに」
『がっかりしないでよ、これでいて使い勝手はいいのよ。形も変えられるし』
「魔法ステッキになれ」
『それは無理』
「なんじゃ、ルキは魔法ステッキが欲しいのか?」
てけてけやってきた子役アイドル級魔女っ子がじゃーんとどこから出したのかステッキを出してきた。紫ベースのオープンハートにコウモリやらドクロでデコられている。ちょっと色が毒々しいがハロウィン仕様と思えば悪くない。それは俺が思い描いた魔法ステッキによく似ていた。
「うわぁぁぁッお前!どこでそれを!!」
「わらわが作った。可愛いじゃろう?わらわ専用じゃ」
「マジか!すッげぇ!お前才能あるな!完ッ璧な魔女っ子じゃないか!」
「そうじゃろう?いいじゃろう?」
「いい!すげぇいい!これで魔法使えるのか?俺にも作ってくれぃ!それで是非二人で魔法少女合体技を!」
そこら辺で女神様にいい加減にしろと耳を引っ張られた。女神様の技が多様化してきてるなぁ
俺たちの騒ぎを遠巻きに見ていたポメがふいに顔を上げた。耳をぴくぴくさせている。立ち上がり崖から下を見下ろしていた。
『陛下』
「ん?どしたー?」
『勇者です』
ナンデスト?!俺もポメの側に駆け寄ってポメの視線の先を見やる。はるか崖の下、人の群れらしきものが見えるが米粒サイズだ。
「勇者?あれが?」
『どうやらここに伝説の武器があると聞きつけてやってきたようですな。我らは裏から回り込みましたが奴らは街から直接ここまで来たようです』
ポメが耳をピクピク動かしている。万能ポメは遠くの音も拾うことができる。地獄耳発動中だ。
ここは街に意外に近かった。英雄を警戒して俺達は遠くにキャンプした。ポメの足でだいぶ稼いだがそれでも俺らの方がここに来るまで時間ロスしてるわけだ。昨日勇者たちに会わなければ楽だったのに。
「伝説の武器?なんでそんなことに?」
この間偶然街で英雄に遭遇した時兵士たちは街の外にいたのだろう。俺がここにいるとは知らないのだろうにこんな山奥に勇者がわざわざ来た。偶然にしては強引すぎる。伝説の武器、誘導するようなその情報も作為的で気持ち悪い。
そもそもあの街で俺たちが偶然出会ったのだって?あの街は確かに魔王の城から近いは近いが他にもっと近い街はあるとポメも言っていた。
誰かが俺と勇者たちをかち合わせて戦わせようとしている?誰がそんなことを‥‥?
その意図に俺たちが乗ってやる義理もない。
「鉢合わせはしたくないな。面倒だ」
「じゃがあそこから奴らがこちらに上がってくるなら鉢合わせるのではないか?」
あいつらがいる場所が下山ルートと街ルートの分岐点、あそこにたむろされては俺たちが降りられない。俺たちが下山した後に好きなだけ登山でもハイキングでもしてもらってオッケーなんだが。
ポメの時空抜けですり抜けられそうだが聖女がいる。気が付かれるかもしれない。そういうニアミスのリスクは避けたい。
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