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Ⅲ ハンター、俺。
027: ここを✕✕とする!
しおりを挟む『陛下、如何なされましたか。おお、これは勇者ではありませんか』
『なんじゃ?ケンカか?コイツが魔王か?』
空気を読まない幼女はポメを抱っこして俺の隣にやってきた。意識を遮断されては俺はもう何もできない。一触即発な魔王も止められない。こいつが暴れたらアレが、あの激痛拷問が俺に来る。そう思えばトラウマ級の恐怖である。もうこいつらだけが頼りだ。
『ケンカじゃない!マズい!この状況なんとかしてくれ!』
『なんとかとは‥‥勇者を倒せるチャンスなのでは?一思いにブスっと。レベルアップなるもののチャンスですぞ』
『お前そればっかだな!潜入調査も終わっていないのに俺が魔王とバレるわけにいかないだろうが!』
『ダメでしょうか?』
『ダメだって!お前の大好きな串焼き食えなくなるぞ?いいのか?美味しいおやつ!ホカホカご飯!ポチャポチャお風呂!あったかい布団!大事だろ!無くなったら困るだろうが!』
『おお!それは困りますな!!!』
ポメ、全力で同意。所詮獣は食い気、本能で生きているから釣りやすい。ポメはもうどっぷり人族のメシと布団に馴染んでいた。
『なんじゃ。困っておるのか?ならばわらわがなんとかしてやろう』
ふふんと幼女が鼻で笑って見せた。どう見てもただの愛らしい女の子なんだが?一応魔族だし?魔女の格好してるから魔法使いなんだろうか?
『だ、大丈夫なんだろうな?』
『問題ない!わらわに任せておけ!』
『それならいいが‥‥派手にやるなよ?!ちょっとこいつの隙をついてくれればいいから』
肉体の主導権を切り替えるポイントはわかった。今そこは魔王に守られている。魔王の意識が逸れる瞬間を狙って強引に切り替えるしかない。
『心配無用じゃ!今こそこの力を示そうぞ!わらわは大いなる魔女の娘!へるぅさまじゃ!わらわの力の前に皆畏れ平伏すがいい!』
なんでこんな偉そう?名前のところのイントネーションがおかしいな?と一瞬思ったのだが、その直後のこいつの行動で衝撃を受けた。幼女の翳した手から大量の煙がバフンと吐き出された。
「なんだこれは?!」
「ゲホッ 煙幕ですわ!」
あっという間に視界を奪われた。その煙で英雄二人が身を庇うように退く。自分の傍の魔族の幼女が煙を出した。だが魔王はこの程度では動じない。そうとわかっていたのか煙避けの結界を張っている。そして幼女も動じなかった。真の目的は煙幕じゃない。魔女っ子が勢いよく魔王の前に飛び上がりパンッと魔王の目の前で両手を打ちつけた。
いわゆる『ねこだまし』である。
元は相撲の奇襲戦法だが、場に出た最初のターンに限り必ず敵モンスターを怯ませ先制できるというメリットが‥‥おっとそれどころじゃない。
予想外のそれに魔王が思わず目を閉じた。生理的な反応だ、魔王とて避けられない。その一瞬の隙で俺は脳内ポイント切替機で魔王の意識を切り替えた。ふわりと俺の意識が肉体に戻る。魔女っ子ナイス!
魔王は英雄たちにガンを飛ばしただけ。これといった力を使わなかったせいか過負荷も来なかった。あれが来ていたらヤバかった!
辺りは煙幕のおかげで騒然としている。そのどさくさで俺は仔犬と幼女を両脇に抱えて脱兎のごとく走り出した。この煙、目にしみる!俺にダメージ出してどうするんだよ!
「どうじゃわらわの魔導は!すごかろう!存分に褒めよ讃えよ!」
「あれのどこが魔導だよ!派手にするなと言っただろうが!」
「むぅッこれ以上にないくらい地味魔導だぞ!ならばわらわの本気を」
「うわぁぁーッもういい!何もするなぁー!!」
怒声を吐いた俺が走り去る途中で遠く警鐘の鳴る音を聞いた。煙のせいで火事と間違われ街はさらに騒然となった。うわぁ!もう騒ぎはごめんなのに!
猛ダッシュで宿屋に戻り荷物をまとめる。大きな姿見も大事に収納だ。英雄たちに見つかった。一刻もこの街にいちゃダメだ!
女将に“すぐ出ることになった!宿代は取っといて!”と捨て台詞を吐いて仔犬と幼女を小脇に抱えて俺は夜逃げのように街を出た。まさに夜逃げ!一目散だ。宿代一週間分前払いしてあった。それが丸儲けできたから宿に不満はないだろう。
だが俺は大いに不満だ。
「くっそぅ!まだ昼メシ食ってなかった~!」
ポメにまたがり街から相当に離れた山の中で俺達は足を止めた。
「今日はここをキャンプ地とする!」
「なんじゃそれは?」
「言ってみたかったからいいだろ。メシは食えなかったがな」
先人(伝われ!)と同じ轍を踏まないよう宿を確保してから街に繰り出したのに!メシにありつく前に英雄共に遭遇したせいでメシも宿も失った。買い物なんかしてないでさっさとご当地グルメ食えばよかった!
今日はもう女神様に会えない。最寄りの街まで逃げても良かったが、ミッションの女神様専用武器を探すためにはあまりここを離れたくない。英雄たちから身を隠すのも森のほうがいいだろう。
よって今日は初めての野宿キャンプである!がこの程度で動じる俺ではない。だって憧れのソロキャンプだし。もちろん備えはある。立って歩ける大きめテント、簡易コンロ、ロッキンチェア、ハンモック、ふかふか布団。こんなこともあろうかとポメの四次元ポ◯ットには快適キャンプグッズをガンガン入れておいたのだ。コブが一人増えたが問題はない。
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