【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

文字の大きさ
上 下
30 / 114
Ⅲ ハンター、俺。

027: ここを✕✕とする!

しおりを挟む



『陛下、如何なされましたか。おお、これは勇者ではありませんか』
『なんじゃ?ケンカか?コイツが魔王か?』

 空気を読まない幼女はポメを抱っこして俺の隣にやってきた。意識を遮断されては俺はもう何もできない。一触即発な魔王も止められない。こいつが暴れたらが、あの激痛拷問オーバーロードが俺に来る。そう思えばトラウマ級の恐怖である。もうこいつらだけが頼りだ。

『ケンカじゃない!マズい!この状況なんとかしてくれ!』
『なんとかとは‥‥勇者を倒せるチャンスなのでは?一思いにブスっと。レベルアップなるもののチャンスですぞ』
『お前そればっかだな!潜入調査も終わっていないのに俺が魔王とバレるわけにいかないだろうが!』
『ダメでしょうか?』
『ダメだって!お前の大好きな串焼き食えなくなるぞ?いいのか?美味しいおやつ!ホカホカご飯!ポチャポチャお風呂!あったかい布団!大事だろ!無くなったら困るだろうが!』
『おお!それは困りますな!!!』

 ポメ、全力で同意。所詮獣は食い気、本能で生きているから釣りやすい。ポメはもうどっぷり人族のメシと布団に馴染んでいた。

『なんじゃ。困っておるのか?ならばわらわがなんとかしてやろう』

 ふふんと幼女が鼻で笑って見せた。どう見てもただの愛らしい女の子なんだが?一応魔族だし?魔女の格好してるから魔法使いなんだろうか?

『だ、大丈夫なんだろうな?』
『問題ない!わらわに任せておけ!』
『それならいいが‥‥派手にやるなよ?!ちょっとこいつの隙をついてくれればいいから』

 肉体の主導権を切り替えるポイントはわかった。今そこは魔王に守られている。魔王の意識が逸れる瞬間を狙って強引に切り替えるしかない。

『心配無用じゃ!今こそこの力を示そうぞ!わらわは大いなる魔女の娘!へるぅさまじゃ!わらわの力の前に皆畏れ平伏すがいい!』

 なんでこんな偉そう?名前のところのイントネーションがおかしいな?と一瞬思ったのだが、その直後のこいつの行動で衝撃を受けた。幼女の翳した手から大量の煙がバフンと吐き出された。

「なんだこれは?!」
「ゲホッ 煙幕ですわ!」

 あっという間に視界を奪われた。その煙で英雄二人が身を庇うように退く。自分の傍の魔族の幼女が煙を出した。だが魔王はこの程度では動じない。そうとわかっていたのか煙避けの結界を張っている。そして幼女も動じなかった。真の目的は煙幕じゃない。魔女っ子が勢いよく魔王の前に飛び上がりパンッと魔王の目の前で両手を打ちつけた。

 いわゆる『ねこだまし』である。

 元は相撲の奇襲戦法だが、場に出た最初のターンに限り必ず敵モンスターを怯ませ先制できるというメリットが‥‥おっとそれどころじゃない。

 予想外のそれに魔王が思わず目を閉じた。生理的な反応だ、魔王とて避けられない。その一瞬の隙で俺は脳内ポイント切替機で魔王の意識を切り替えた。ふわりと俺の意識が肉体に戻る。魔女っ子ナイス!
 魔王は英雄たちにガンを飛ばしただけ。これといった力を使わなかったせいか過負荷オーバーロードも来なかった。あれが来ていたらヤバかった!

 辺りは煙幕のおかげで騒然としている。そのどさくさで俺は仔犬と幼女を両脇に抱えて脱兎のごとく走り出した。この煙、目にしみる!俺にダメージ出してどうするんだよ!

「どうじゃわらわの魔導は!すごかろう!存分に褒めよ讃えよ!」
「あれのどこが魔導だよ!派手にするなと言っただろうが!」
「むぅッこれ以上にないくらい地味魔導だぞ!ならばわらわの本気を」
「うわぁぁーッもういい!何もするなぁー!!」

 怒声を吐いた俺が走り去る途中で遠く警鐘の鳴る音を聞いた。煙のせいで火事と間違われ街はさらに騒然となった。うわぁ!もう騒ぎはごめんなのに!

 猛ダッシュで宿屋に戻り荷物をまとめる。大きな姿見も大事に収納だ。英雄たちに見つかった。一刻もこの街にいちゃダメだ!
 女将に“すぐ出ることになった!宿代は取っといて!”と捨て台詞を吐いて仔犬と幼女を小脇に抱えて俺は夜逃げのように街を出た。まさに夜逃げ!一目散だ。宿代一週間分前払いしてあった。それが丸儲けできたから宿に不満はないだろう。

 だが俺は大いに不満だ。

「くっそぅ!まだ昼メシ食ってなかった~!」



 ポメにまたがり街から相当に離れた山の中で俺達は足を止めた。

「今日はここをキャンプ地とする!」
「なんじゃそれは?」
「言ってみたかったからいいだろ。メシは食えなかったがな」

 (伝われ!)と同じ轍を踏まないよう宿を確保してから街に繰り出したのに!メシにありつく前に英雄共に遭遇したせいでメシも宿も失った。買い物なんかしてないでさっさとご当地グルメ食えばよかった!

 今日はもう女神様に会えない。最寄りの街まで逃げても良かったが、ミッションの女神様専用武器を探すためにはあまりここを離れたくない。英雄たちから身を隠すのも森のほうがいいだろう。
 
 よって今日は初めての野宿キャンプである!がこの程度で動じる俺ではない。だって憧れのソロキャンプだし。もちろん備えはある。立って歩ける大きめテント、簡易コンロ、ロッキンチェア、ハンモック、ふかふか布団。こんなこともあろうかとポメの四次元ポ◯ットには快適キャンプグッズをガンガン入れておいたのだ。コブが一人増えたが問題はない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

禁忌地(アビス)に追放された僕はスキル【ビルダー】を使って荒野から建国するまでの物語。

黒猫
ファンタジー
青年マギルは18才になり、国王の前に立っていた。 「成人の儀」が執り行われようとしていた。 この国の王家に属する者は必ずこの儀式を受けないといけない… そう……特別なスキルを覚醒させるために祭壇に登るマギルは女神と出会う。 そして、スキル【ビルダー】を女神から授かると膨大な情報を取り込んだことで気絶してしまった。 王はマギルのスキルが使えないと判断し、処分を下す。 気を失っている間に僕は地位も名誉もそして…家族も失っていた。 追放先は魔性が満ちた【禁忌地】だった。 マギルは世界を巻き込んだ大改革をやり遂げて最高の国を建国するまでの物語。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

月の魔女と呼ばれるまで

空流眞壱
ファンタジー
ある開拓村で生まれた女の子が辿る特殊な物語。 使い古されている異世界物です。 初投稿に付き、誤字が多いかも知れません。読みづらいかも知れませんが、追々是正します。 追記)作者の気分で、更新が早くなったり、若干遅かったりします。定時更新ではありません、たまに修正の文字を入れずに直していることもありますので、悪しからず。 追記2)タグいれてみました。変化があるのか分かりません 2020/8/31に完結しました。 2020/11/12に第二部投稿始めました。https://www.alphapolis.co.jp/novel/797490980/566417553

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...