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Ⅲ ハンター、俺。
025: 絶体絶命(?)
しおりを挟む「ルキアス!無事でよかった!」
「で、殿下!はなし」
「久しぶりに会えたのに殿下はなしだ。ルフィノと呼んでくれ!さあ!俺とお前の仲だろう?」
おいおい!どんな仲だよ!公衆の面前でやめてくれ!
何度も言うが!俺たちはデキてないからな!!
呆気に取られて逃げるタイミングを逸した。おかげで超強力な変態勇者のハグに捕まってしまった。鎧装備の王子はカッチカチで逃げられない。俺もちょっと強くなったがまだ勇者にはレベルが敵わない。人違いですぅ!で言い逃れ出来るような美貌でもなく。俺は心中脂汗ダラダラだ。
俺の余計な三文芝居のせいで俺は魔族に拐われたことになっている。その俺が呑気に辺境の街を歩いていたわけで。こんなところに勇者一行がいるわけないよねーと油断しまくっていた。英雄あんなに避けてたはずなのに!
ヤバい!拐われた俺が呑気に観光とか!絶対におかしい!どう言い訳する?
ん?王子がここにいるということは———
「ルキアス様!やっぱりルキアス様ですの!」
「フェリシア様!」
げげげッやっぱり!歓喜の声と共にお約束のキラキラ百合聖女様登場。王子を突き飛ばし俺に抱きついた。あの筋肉ゴリラをどうやって突き飛ばした?流石は聖女様、俺より強いじゃん!
「ご無事で本当に良かったですわ。魔王城に行っても誰もいなくて‥‥もうダメだと思っていたところでしたのよ」
げ!もう城攻め完了でしたか!さすが勇者一味、仕事が早い!俺、城に戻らなくて良かった!
「まさか魔王の城の近くの街にいらしたなんて!ここに寄って良かったですわ。無事に魔族から逃げられたのですね!」
なんかうまい具合に誤解は進んでいるが。涙目の聖女様に抱きつかれ俺は頭の中が真っ白だった。
おおう!ここ、魔王城の近くでしたか!そういや城の場所をポメに確認してなかったな。行くつもりもなかったし。じゃあここは一番俺が警戒すべき場所だったん?ポメ!お前も教えてくれればよかったじゃん!って、え?
そこで衝撃の事実に気がついた。
足元にいるはずのポメラニアンがいない。辺りにポメの気配もなかった。
げ?!ポメがいない?さっきまで俺の足元歩いてたのに!どこ行った俺の最恐SP!
まさか拐われた?アイドル犬誘拐?!俺に身代金は払えないぞ!どうか自分で払ってくれ!ってか誘拐犯ぶっ潰して自力で逃げられるか。
え?じゃあ俺はこのピンチを一人でなんとかしろと?
動揺する俺を抱きしめる聖女を突き飛ばし王子が俺の肩を抱いた。聖女を突き飛ばす勇者ってのも衆目的にどうよ?
「俺のルキアスに触るな!ルキアスが戻ればお前との共闘も終わりだ!さっさとどこへでも行け!」
「行くのはあなたの方ですわ!ルキアス様を放しなさい!」
仲が良くなったのかと思いきや、俺奪還で手を組んだだけと言うことだったらしい。相変わらずこの二人は不仲だ。
英雄二人に取り合いされながら、俺は今更ながらこの状況を理解した。
おそらく英雄二人は俺の中の女神様に惹きつけられている。魔王である俺でさえ女神様にゾッコンだ。ちょっと力があるものなら女神様のパワーに惹きつけられるのも頷ける。同時にゾクゾクと悪寒が走っている。俺の中の女神様がこいつらを嫌がっている。こいつらに対面した時から感じている嫌悪感は女神様のものだ。
ダメだって!女神様は俺の嫁だから!
「落ち着いてください!ですから!俺にはもう心に決めた人が!」
そこに王子がぴくんと反応した。じっと俺の顔を見る。そしてトンデモ発言を吐いた。
「前から気になっていたが、そいつはひょっとして‥‥魔王か?」
ちが———う!なんでそうなるんだ!
この王子はどうしても俺をBL路線に引きずり込みたいらしいな!
「どうなんだ?!まさかもうお前は魔王の手に落ちてさんざん辱めを‥‥何をされた?スライムか?触手か?男として生きていけない体にされたとか?だからスカートを履いているのか?俺はどんな事実でも受け入れる!正直に話してくれ!!」
公衆の面前でデカい声でヒワイなこと言わないでください。王子の鼻息が荒いし。何か期待してます?仮にも勇者でしょうが。俺を見る通行人の、え?こんな美少女が男の娘?!触手って?という視線が痛い。
まさかの俺と魔王のBLカップリング。これは流石に、物理的に無理。そしてこの王子は俺と魔王の何を想像した?ドロドロスライム攻め?ヌルヌル触手プレイ?そこは見た目美少女な俺が受けなんか?!
おかげで鎖で拘束されてスライム触手にエロエロ攻められてあんあん悶えてイかされまくりの女神様の姿を想像して俺もハァハァしちゃったじゃないか!どうしてくれるんだ!
あ、女神様、これは不可抗力です。ムラムラしたのちょーっとだけだから!痛い痛い!胃はやめて!すみません!ごめんなさい!ちゃんと否定するから!
「ちち違います!そうでは」
「まあ!おいたわしいわ。ご安心ください。私がルキアス様を魔王からお守りしますわ!もう二度と魔王をルキアス様に触れさせません!」
聖女もさらにトンデモ誤解をする。俺と魔王は既成事実にされてしまった。だからそれ無理だって!勇者についで魔王、俺どんだけBLビッチだよ!こいつら全然俺の話を聞いてないし!俺は思わず嘆息と共に閉口してしまった。
この思い込みの強い英雄二人に人族の未来を預けるのは問題があるような?こんなのに振り回される部下の人が可哀想だ。やはり俺はこの二人から離脱して正解だったな。だが今の状況は一向に改善してしない。
ああもう!こいつらめんどくせぇ!!
ポメ!どこ行ったんだよ!ここに来て俺を守れ!
腹立ち紛れに俺はぎゅっと目を瞑ってポメに念を送った。学園ではこれでポメが俺の元に現れた。上手くすればこれでポメを召喚できる。はずだった。
と、そこで何か聞きなれない音が遠くから聞こえてきた。以前は雷が鳴る音だったが今回は違う。
なんだこの音は?風?長いな‥‥一体どこで?
ひゅるるるぅぅッと風を切る音がする。どこからだろうと辺りを見まわし、まさかと最後、自分の頭上を見上げた。抜けるような青空の中、それは豆粒ほどの物体だったがものすごい勢いで俺に向かって落ちてきていた。
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