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Ⅰ ヒロイン、俺。
004: 実はゴリゴリファンタジーだった件
しおりを挟む負けじと聖女も王子に指を突きつける。聖女以外がこんなこと王子にしたら不敬罪で即処刑だろう。
「そのセリフ!こちらからお返ししますわ!こんな浮気男、こっちからお断りですのよ!王家からどうしてもというから温情で婚約してあげたのに、これだから王族は傲慢極まりないですわ!」
「どの口が言っている?!傲慢は貴様の方だこの腹黒!これのどこが聖女だ!」
「この脳筋な下品が王子?世も末ね、ふざけんじゃないわ!この私の輝かしい経歴によくも汚点を残しましたわね!絶対許しませんわ!」
えええ?!
お二人は婚約者?でしたか?
そうでしたっけ?全然知らんかった。
ん?じゃあ俺の今の立ち位置は??
「勅命でつい先週婚約が整ったばかりだ。お前に黙っていて済まなかった。だが愛しているのはお前だけだ、信じてくれ」
「え?いやあの?俺は別に」
殿下!先週婚約して今週早々に婚約破棄しちゃっていいんですか?流石にそれはまずいんじゃ?しかも国王陛下の勅命なのに?
いやそれよりも?
王子お気に入りの愛人(じゃないけど俺)にちょっかい(?)を出した悪役令嬢(聖女)にキレた王子が婚約破棄を言い渡す。
乙女ゲーム?これ乙女ゲームの有名な弾劾シーンか?その割に聖女がへこたれていないが。口論ならめっちゃ対等に戦ってる。マジでいいごん太根性だ。
いやいや、つーか?これって?
よく考えたらあれか?
俺ってば王子と婚約者の仲を引き裂く可憐令嬢?
俺、ヒロインポジ?三角関係?
ヒロイン、俺。マジか。マジもんか?!
王子に散々毒づいた聖女が駆け寄ってきて満面の笑みで俺の手を取った。そして更なる爆弾を落としやがった。
「もう一刻たりともこんな男のそばに大事なルキアス様を置いておけませんわ。さあ、私と共に参りましょう?」
「はい?」
「私、ずっとルキアス様をお慕いしておりましたの。この通り嫌な男との婚約も破棄しましたので私は今フリーできれいな身ですわ。どうぞ私のそばにいてくださいませ」
「はいぃぃ?」
「ルキアスの手を離せこの毒女が!!ルキアスは俺のものだ!!」
ゲッ 俺に流れ弾が飛んできた?!俺を巻き込まないでくれ!王子と聖女、二大権力相手にどっち断っても俺の首が飛ぶぞ?!
男ならモテモテだったらいいなと思うだろ?だがこれは断じて違う!勘弁してくれ!コレジャナイ!
「大体貴方勇者でしょう?勇者ならとっとと魔王討伐に行ってきたらどうなの?!」
その聖女のセリフに俺はガチンと固まった。目を見張り王子を見上げれば王子がバツの悪そうな顔をしていた。
「えと?殿下?今のは?」
「あー‥‥すまない。俺は勇者になった。これも先週宣旨を受けた」
「は?」
「お前が危険な場所が嫌いなのは知っていたから言い出せなかった。こんなことで別れるとか言わないでくれ!」
げぇぇぇぇッ
この王子!勇者になったんかい!道理で!王子のくせに異常にガタイがいいと思ったら勇者の素質があったんか!
てか?ふざけんなよ?別れる云々言う前に俺たちデキてないからな!!勝手に既成事実にすんじゃねぇ!!!
おっと。マジギレしてる場合じゃない。落ち着け。ここは冷静に考えねば。もうそこかしこ地雷だらけだ。一歩踏み間違えるととんでもないぞ!
俺はこの王子の側近候補で。王子が勇者として戦場に出るなら側近の俺もついていかなきゃならん。未来の就職先が安全地帯だと思ったら戦場最前線。俺の明るい未来!輝かしい就職先が!王子のそばが一番安全だと思ったのに!!
マズイ!これはとってもマズい!!
俺の幸せなコバンザメはどうなるんだ?!
もうこうなれば聖女のそばにいた方が安全か?!
やっぱ聖女側に寝返ろっかなーと心中ガチで悩む俺を動揺したと勘違いした王子はイケメンスマイルだ。だからそれ腹立たしいからやめろ!
「大丈夫だ!お前を置いて旅に出ないから安心しろ。魔王討伐はこいつに行かせるから」
こいつって聖女様?
え?勇者がそれでいいんかい?
勇者は行かないで聖女一人で?
言ってること鬼畜だな。
「はぁ?!聖女の私が行くわけありませんわ!」
「教会からも魔王討伐指示が出ているのは王宮にも聞こえている!歴代最強な聖女なんだろ?さっさと行って魔王倒してこいよ!」
「ルキアス様を置いていくわけありません!私のいない間にルキアス様独り占めとか許せませんわ!貴方こそ勇者ならとっとと討伐へ行って来たらどうなの?!後のことは私が受け持ちますわ!」
げげげッ 聖女にも魔王討伐指示が出てるのか?!乗り換え不可?!どっちも安全地帯じゃなくなったじゃないか!!
魔王降臨。国の‥人類の存亡の危機に勇者と聖女が魔王討伐をなすりつけあっている。この王子と聖女は国民に大人気なんだがな。国民がこれ見たら泣くぞ?だがハイファンタジーマニアの俺としてはもう一つのキーワードが無性に気になった。
「‥‥‥‥あの、魔王?というのは?」
「ああ、つい最近目覚めたようだ。伝承のとおりだな。まだ極秘情報だから内密に頼む。魔王自体まだ未確認らしい。だが備えとして俺に勇者の宣旨が出た」
なるほど。それで王子が急に勇者か。
勇者、聖女、魔王。
おおぅ!なんか急にゴリゴリファンタジーになってきた!
「かつて降臨した魔王は古代都市を壊滅させたと言い伝えられています。今回降臨した魔王は過去類を見ない強さとのことですわ。すでに『神殺し』の二つ名がついています」
「ええ?『神殺し』?!」
「目覚めた際に畏れ多くも万物の支配者たる神を倒したらしい。とんでもないやつだ」
それってめっちゃくちゃ強そう。でもこの二人も強いのはわかる。王子は俺が護衛の技なんか要らないと思うほどに普通に強い。自分の身は自分で守れるやつだ。聖女も聖属性魔法が強力だ。この二人が組んだらめっちゃ強くなんじゃね?
あ!だからこの二人の婚約?とことん反りのあわない二人を少しでも仲良くさせようと苦肉の策?勅命まで出して無理矢理婚約させて魔王討伐パーティ?王宮と教会の苦悩が垣間見えたような気がしたぞ。
だがそれも俺のせいで秒速の婚約破棄。
これ逆効果だったようですわー
犬猿の仲の二人を取り持つなら共通の敵だろう。魔王討伐はちょうど良さそうだがそれだけじゃダメそうだな。
仕方ない。俺も一国民として国のために一肌脱ぐか。
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