【完結】ヒロイン、俺。

ユリーカ

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Ⅰ ヒロイン、俺。

003: 王子登場

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 俺が聖女の手を握り返そうとしたその時、耳をつんざく轟音と共に結界が破られ錠のかかったはずの扉が荒々しく開かれた。

 扉の外には抜刀した赤髪の偉丈夫イケメン、そいつに扉が蹴破られたようだ。目を瞠る俺の横で聖女がチッと舌打ちをした‥‥ように聞こえた。ん?気のせいか?

 烈火の如く怒りを露わにしたその男が聖女を睨みそして俺を見据えた。その迫力に俺は思わず身を引いてしまった。男は慣れた動作ですらりと剣を鞘にしまっている。

 このイケメンに覚えがある。こいつは———

「あの!違うんです!これはその!事情がありまし」

 慌てふためく俺に気にも止めずカツカツと歩み寄ったその男が前触れなくガバリと俺を抱きしめた。身長差があるから俺がちょっと踵が上がるような感じだ。男女ならちょうどいい身長差なのだが、この歳の男にしては俺は背が低い。だがまだまだ俺は成長期!身長はこれからに期待だ!

 が、今はそれどころではない。

 ‥‥‥‥‥‥‥‥え?

「ルキアス!大丈夫だったか?!無事でよかった!」

 えええええええええぇぇ?!

 なんで?どうして?王子が俺をハグ?

 俺を熱く抱きしめているのは俺が仕える予定の第一王子だ。名をルフィノ。燃えるような赤髪に恐ろしく整った顔立ちの美形、背も高く頭もいいとかどんだけだよーと思ったが。まぁ身長以外は俺もそうだからそれほど嫉妬はない。

 だがこれは想定外だ!!!
 この状況が全然無事ではないんだが?!?!

「でででででんでん!!!」
「間に合ってよかった。ひどい目にあっていなかったか?」

 王子が愛おしそうに俺の頭に頬ずりまでしてきやがる!俺の背筋にゾクゾクと寒気が走った。

 力が強くて全然ハグが解けねぇ!!
 王子のくせになんてガタイだよ!?騎士か?

 ここらでずっと感じていたハテナの状況がなんとなくわかってきた。嫌な方向でだが!そして悪寒の意味も。

 許されない関係?未来がない?

 え?これって?ひょっとして?
 俺、まさかの王子のアレ?デキてる?
 聖女からモテモテと思ったら実は王子からガチでモテていた?!

 大混乱の中で必死に「ルキアス」の記憶を探る。激流の中でなんとかわかったことは、王子の意図を察知していた「ルキアス」は王子と関係にはなっていない。どうやら王子の執着攻撃は以前からあったようだが、本能でソレとわかった「ルキアス」はのらりくらりと華麗にかわしていたようだ。

 だが俺はそんなこと知らない。よって突然現れた王子にあっさり捕まってしまった。

 ぎゃーッ ルキアスすまん!
 せっかく対王子で無敗キープだったのに俺があっさり土をつけちまった!
 いやいや?俺事情知らないし?初見の王子相手に無理だってば!!これは不可抗力だろうが?!

 しかしこれを振り払っていいものかどうか。寝返ろっかなーという不味い瞬間を見られてしまった。王族への裏切りは即無礼打ちになってもおかしくない。しかもこの王子はいつも帯刀しているわけで。ここは穏便に———

「でで殿下!俺は大丈夫です!落ち着いて」
「本当にすまない。神殿から急の呼び出しで出向いてみればそんな連絡はしていないという。この女が俺とお前を引き離すために仕込んだんだ。汚いマネしやがって」

 はい?なんですと?

 何やら仕込んだと言われた聖女を見やれば目を細めて相変わらずのあの笑顔だ。笑顔なのに背後に黒いものが見えて俺は思わずゾッとしてしまった。

 げッ こっちもおっかな!!

「あらあら、随分いらっしゃるのが早かったですわね。もう少しでしたのに」
「俺がいない間にルキアスに何をした?!ルキアスに手を出すのなら聖女であろうとも容赦しないぞ!」
「少しお話ししていただけですわ。王子殿下のおそばにいてはルキアス様によいことはないですと」
「そんなことはない!俺たちは愛し合っている!邪魔するな!」

 はいぃぃぃぃぃ?!愛し合っている?
 いやいや?殿下の一方通行ですよ?

 目を瞠る俺に俺を抱きしめる殿下はとろける笑顔だ。無駄にイケメンなのが腹立たしいっつーか!

「皆まで言わなくてもお前の気持ちはよくわかっているぞ。俺に生涯付き従うと言ってくれたことは忘れない。お前の愛は確かに受け取った!」

 いや違うから。それコバンザメとして生涯お世話になりますって意味だから。学園モテモテ系から一気に王子BL系かよ!これは勘弁!

 なんで?どうしてこうなった!!

 混乱する俺を置いてきぼりに王子と聖女二人の口論はヒートアップ。聖女はなぜか相当イライラしているようだ。

「本当に腹立たしいですわ。いいかげんその手をお放しになってはいかが?ルキアス様が嫌がっておいでですわ!」
「ルキアスは嫌がっていない!お前こそここから出ていけ!ここは王族専用の部屋だぞ!」
「この私にそのような口がよくきけますわね!婚約者がありながら堂々と愛人を囲うなど王族の風上にも置けませんわ!これだから男なんて大っ嫌い!!」
「お前だってお気に入りを侍らせているだろうが!自分のことは棚上げか?!俺はルキアスただ一人、誠実だ!」

 いやいや?浮気なら一人だろうが複数だろうがだめでしょうが!!

 なんでか不貞暴露大会になってきたな。
 この二人が不仲なのは「ルキアス」の記憶でわかったが、気のせいかなんだか痴話喧嘩のような??

 だが気のせいではなかった。ここで王子が勢いよく聖女を指差して罵った。

「聖女だからと我慢していたがルキアスに手を出すなど‥‥もう勘弁ならん!聖女フェリシア!お前との婚約を破棄する!二度と俺とルキアスの前に顔を見せるな!!」

 ‥‥‥‥‥‥‥?
 はい?今なんと?


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