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外伝②:国王陛下のため息
しおりを挟む少年王レオンハルト・カイゼル・デ・ヴァールはため息をついた。退屈だ。
御前会議が行われている一室。大臣達が意見を言い合っている。
議案は諜報からの報告でもう知っている。自分の中で答えも出ている。あとは指示をするだけだが、議会で論議した体を取らねばならない。
最後は王の指示を仰ぐのだからこの時間は正直無駄だ。まあ普通の王は諜報に王宮の様子を探らせはしないだろうが。
たまに大臣達に都合の悪い案件が握りつぶされることもある。この場は大臣達の忠誠を測る場ともなっていた。
廊下が騒がしい。扉がばんと開きアレックスが入ってきた。だいぶ気が立っているようだ。止める衛兵に構わず部屋に入ってくる。
レオンハルトは心の中でため息をつく。
そろそろ来る頃だとは思っていたが、御前会議中だぞ。馬鹿なのか。
「結婚許可申請が却下されました!納得がいきません!」
アレックスはだんと机を叩く。大臣達からざわめきが起こる。
「陛下の御前であるぞ。なんと無礼な!」
「御前会議に乱入とは‥‥、公爵とはいえこのような狼藉は許されませんぞ!」
「却下の理由が謀反の疑いとは!陛下への忠誠を疑われたのです!これが黙っていられますか!」
いや違うだろ。結婚邪魔されてキレてるだけだから。いつもなら謀反疑われても毛ほども気にしないくせに。
アレックス・ラウエン公爵。
公爵家初代が始祖王と双子だったことに由来して王家の双子と呼ばれる名家・ラウエン家。アレックスはその若き当主で俺の年上の従兄弟だ。
この歳で手のかかるガイア領を治める才気ある若者である、が面倒だ。
この直情径行は何とかならんのか。数少ない使える手駒だが、過去何度となくやらかしている。とにかく面倒だ。これを使いこなすのも王の資質なのか。
言い合っている大臣は親国王派。王と近しいアレックスに嫌がらせか。つまらん事をする。さてどう落とすか。
「鎮まれ。」
レオンハルトのさして大きくない声だったが、議場が静まり返った。
「許可証を。余がサインしよう。」
「陛下!」
「この男が謀反など企てんことはわかっている。余を信じよ。」
書面に署名する様子をアレックスはキラキラした目で見ている。現金なやつだ。
「しかしこれを許せばいずれ陛下の御世によからぬことが起こるやもしれませぬ。」
「危険分子を放置できませぬぞ。」
大臣達がここぞとばかりに騒ぎ出す。
言いたいことはわかる。
よりによって二人揃って精神系スキル持ち。これでは本人達の意思とは関係なくどこぞから担ぎ上げられることがあるかもしれない。こんな男でも遠くはあるが王位継承権もあるし。
やっかみや嫌がらせもあるだろうが、結婚を許可したことで何かあった時に誰も責任を取りたくないのだろうな。
「問題なかろう。」
「この様な不穏なスキルを持つ公爵を特別扱いすれば他に示しがつきませぬ!」
「陛下の御世にこの様な危険、陛下の御威光にも傷になるやもしれません!」
「構わぬ。」
「ですが!」
「くどい!!」
イラッとした。
わかってんのか。結婚許さなかったらこいつは領地捨てて出奔しかねない、そんなやつだ。
誰がその後あの厄介な領地の面倒見るつもりだ。お前らが束になっても扱えない領地だぞ。国益損ねるつもりか?ごねるならこいつより有能で従順なやつを連れてこい!
レオンハルトは心の中で一気に毒づく。
少年王に一喝され議場が静まり返る。
「—— 余が許す。これでも不満か。それとも汝等は余はこの男に敵わないと、そう申しておるのか。そう思うものはこの場で余の前に名乗り出るがいい!!」
場の空気が一気に重くなる。
おっと、勢い余って『威圧』まがいのことをしてしまった。いかんいかん、みんな固まってしまったぞ。
膝を折りかしこまるアレックスを見る。
「ラウエン公アレックス、議場を荒らした罰として領地で一ヶ月謹慎せよ。」
長い付き合いだ。アレックスは深く頭を下げているが、満面の笑みであろうことはわかる。
王家に準ずる公爵位に謹慎一ヶ月はそこそこ重い。これで大臣達の溜飲も下がるだろう。
周りへの示しとして出した罰だが、呼んでも滅多に出てこない男だ、領地で謹慎など痛くもないだろう。どうせ一ヶ月は結婚準備で慌ただしくなるだろうし。こちらからも邪魔させない、と言外に伝える。
ほんと、面倒くさい。
「次はない。下がれ。」
圧をかけた低い声で言い放つ。流石にそうそう乱入されても面倒だから釘は刺しておかねば。今回は貸しにしておいてやる。
アレックスが辞した後、静まり返る中レオンハルトが口を開く。
「時間が押したな。次の議案はなんだ。」
その言葉に魔法が解けたように大臣達が息をついた。
まったく、さかりのついた獣は手がかかる。嫁がうまく御せればいいがあの男の相手は苦労することだろう。
レオンハルトはチラリと窓の外を見た。
貴族という囚われの身分で恋ができるのは奇跡だ。あの男を見て恋はいいものだとも言い切れないが、その奇跡は素晴らしいと思う。自分にもその時が来るのだろうか。
叶うなら可愛い嫁をとってさっさと隠居したい。九歳の若き王は心の中でそう願うのだった。
※ ヒロインサイド完
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