17 / 20
最終話:『大いなる祝福』
しおりを挟む翌日、後は挙式だけだと勢いづいていたラウエン家一同にブレーキがかかった。結婚許可証がおりなかったのだ。
強硬な親国王一派が謀反の疑いを理由に反対したたためだ。
謀反などありえないだろう!!と怒り狂ったアレックスは単身で王都ウラノスに向かい、あろうことか御前会議に殴り込んだ。
「許可証取ってきたよ。これで結婚できるね。」
メリッサに満面の笑みで微笑むアレックスを見てバース、グライドがため息をついた。
公爵位の貴族が護衛なしで王都に出向き、呼ばれてもいない、しかも御前会議に乱入、陛下の御前で結婚を直訴し陛下直筆のサイン入り許可証をもぎ取ってくる。片道三日かかる王都への道のりを、どこをどう通ったのか一日で行って帰ってきた。
ああ、皆の言っていたアレとはこのやんちゃのことか。これは大変だ。メリッサは皆の苦労を悟った。
しかしラウエン家の不幸は続く。挙式予定一週間前に大伯父が亡くなり二ヶ月の喪に服し、続いて発生した領内の川の氾濫に更に三ヶ月慶事が見送られた。
そして今日、どうにか挙式の日を迎えた。
ラウエン家の、特にアレックスの焦れ具合はひどく、今日が延期になればメリッサと駆け落ちしかねない勢いだった。
使用人達も早く女主人を迎えたい一心で挙式を阻む不幸がないか目を光らせていた。
挙式は王都の王族専用の教会で行われる。国王が出席するためだ。
王家の双子とされるラウエン家の婚礼には必ず国王が直接祝福する慣わしだ。
控室ではメリッサはウエディングドレスを着付けられていた。
首元から裾までシルクとレースで飾られた真っ白なマーメードラインのドレスを纏い、結いあげられらた蒼みがかった銀髪にはラウエン家に伝わるティアラが載せられた。手首にはアレックスから贈られた腕輪が光る。その美しい姿にアニス達からため息が漏れた。
「大変美しゅうございます、お嬢様。いえ奥様」
「ありがとう、ロザリー、みんな。」
普段笑うことのないロザリーがほのかに微笑む。これはとても珍しいことだ。
魔封の森の白百合のブーケが手渡された。
花嫁衣装のメリッサを見て祖父ダリウスは泣きっぱなしだ。
「あんなに小さかったメリッサがこんなに立派になって。」
「おじいさま‥‥今までありがとうございました。」
「幸せになるんじゃぞ。あの男なら心配ないだろうがの。」
泣きながらもほくほく顔の祖父にメリッサは困った顔をした。
「もうあのような謀りごとはやめてくださいね。」
「ふむ、だがわしの見立ては間違いなかったじゃろう?」
「ええ‥まあ‥‥」
婚約だと言われ家から送り出された。一人の令嬢としてゆっくりと優しい恋をさせてくれた。駄目でも家に帰ってこれる隙を作っておいてくれていた。何より、陽だまりのようなアレックスにメリッサを委ねてくれた。
全ては祖父の掌の上だったのだろう。やはり祖父と、仕切っていたロザリーには敵わない。
祖父に導かれ、槍と盾を持つ王族の守護女神像の前に進み出る。
御前の儀式のため招待客はいない。すでに真っ白い衣装に身を包んだアレックスが待っていた。
前髪を後ろに撫で付け柔らかい美貌と新緑の眼がいつもより晒されて、ものすごい男っぷりだ。
アレックスにベールを上げられ、式の最中なのにメリッサはその色香に魅入ってしまった。
膝を折り頭を下げる二人の前に国王が進み出る。
祝福を与える国王レオンハルト・カイゼル・デ・ヴァールは御歳九歳。太陽の如く眩い金髪と黄金の瞳、歳の割に凛々しい顔立ち、迷いのない采配から『女神に愛された神王』『始祖王の生まれ変わり』と呼ばれている。
即位から三年、様々な改革や改令で傾いていた王国は復興、発展していた。
「おもてをあげよ。」
段取りでは顔を伏せたまま祝福を受けるはずだったのだが。顔を上げるか迷っていると再度促された。
おずおずと顔を上げたメリッサは壇上の、王冠を纏った金色の少年王と目があった。
レオンハルトはメリッサににっこりと微笑む。威厳ある雰囲気が一気に霧散して年相応の少年となった。
「シャムロック伯爵家、メリッサ。其方はこの男の伴侶となる事を誓うか?本当にこの男でいいのかい?まだ間に合うよ?」
新郎から声をかけられるところを先にメリッサに問いかけられて驚く。
この男は大変だよ、と言外に言われているような問いかけにいたずらっぽい含みが感じられた。茶目っ気のある方なのだろう。
王の言葉に青ざめたアレックスがビクリと震えた。
「はい。誓います。」
王の目を見てしっかりと返答した。
フフッと微笑んで少年王は新郎を見る。今度は威厳ある国王の顔だ。圧のある低い声が教会に響く。
「ラウエン公爵家、アレックス。其方は妻を生涯守れ。余の命だ。」
「必ずや。」
胸に手を当ててアレックスが深く頭を下げる。畏まる二人を見下ろしレオンハルトはほんの微かに、小さくため息をついて微笑み、目を閉じ両手を広げた。
「今この場をもって二人を夫婦とする。国王レオンハルト・カイゼル・デ・ヴァールの名において祝福を与えよう。これより先この二人に幸多からん事を。」
国王固有スキル『大いなる祝福』が発動し、二人は眩い光に包まれる。
ここに二人の婚姻が成立した。
「知ってたかい、メリッサ。」
国王が去った後、花嫁の手を取り教会の外に導くアレックスがふわりと笑った。
「一年前の今日、魔狼の俺は君とあの森で出会ったんだよ。諦めずに君を追いかけて良かった。」
「アレックス様‥」
「いや、ちょっと違うな。抗えずに走り続けたんだ。たとえ君に嫌われて拒まれても、きっと泣きながら君に愛を乞うていたんだろうな。そのくらい魅入られてるよ。」
「‥‥っ そんなことには、なりませんから。」
アレックスの告白にメリッサは耳まで真っ赤になる。
アレックスは所構わずメリッサを口説く。その低く甘い声にメリッサはぼうっとなってしまう。こういうのはちょっと困る。馬車まで転ばずに歩けるだろうか。
ふわりとした浮遊感にメリッサは驚く。アレックスに横抱きにされていた。
「そのドレス、とても似合ってるけどちょっと動きにくそうだ。」
「ア、アレックス様?!」
「早く邸に戻りたいんだ。もう一年も待ったんだから。」
後ろに控えていたグライド達を残してアレックスはメリッサを抱え走り出していた。
0
お気に入りに追加
926
あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる