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淡い期待
しおりを挟む翌朝。メリッサは自室のベッドの上で目を覚ました。
陽は高く上がっている。いつもより寝過ごしてしまったようだ。伸びをして起き上がり、はて、自分はいつベッドの入ったかと思った。
かさりと枕元のカードに触れた。これは?
“酒はほどほどに”
見覚えのある滑らかな筆跡。サインはないが誰が書いたかはわかる。そしてこれはメリッサに贈り物で贈られたカード。そこで昨日の記憶が一気に噴出した。
夜更けに公爵の寝室を訪ねた。婚約者とはいえ未婚の女性が夜着のまま男性の寝室に忍んで行ったのだ。ありえない醜態である。
酒?酒って何?!サイドテーブルに昨日の空き瓶が置いてある。これ酒だったのか?!
とんでもないことをしでかした!二日酔いはないが記憶がしっかりしているのも恨めしい。
紳士で高貴な方だから、寝落ちしたメリッサをこっそり部屋に運んでくれたのだ、と理解した。
メリッサのカードに公爵が書き込んだのだから部屋に入っている。空き瓶を置いたのも彼だろう。
血の気が引いた。一昨日のことで嫌われていないのはわかってよかったが、昨晩の件で呆れられたのではないか?
酔って押しかけ乱入とか!私馬鹿なの?!とにかくお詫びを!お詫びをしなくては!!
「おはようございます。」
ロザリーの声にびくりとする。酒がバレるとまずいが空き瓶を手に持っていてごまかしようがない。
「ロ、ロザリー、おはよう。」
「朝起こしたのですがお疲れのようでしたのでそのままにいたしました。」
「えっと‥‥」
「今後は夜更けにお出かけになるのもお控えください。それと公爵様より禁酒するよう仰せつかりました。よろしいですね。」
ロザリーは淡々とそう言い空き瓶をメリッサから取り上げる。メリッサは真っ赤になって寝具に突っ伏した。これはもうダメだ。
着替えをしてアニスに髪を整えてもらう。謝罪の手紙をどう書こうと悩んでいると、アニスの手が止まった。
ちょうどアップスタイルに結い上げようとしていたようだが、あわてて櫛でとかしつけられた。
「今日の髪型はこのままで。艶やかなお髪で充分お美しいです。」
「そう?」
珍しい。いつも編み込みなどアレンジ技を駆使していたのに。
アニスが辞した後、とにかく謝罪をと、公爵宛に昨晩のお詫びと禁酒する旨の手紙を書いて祈るように送った。どうか呆れられていませんように!
程なく返事のカードが届いた。
“昨晩は思いがけずお会いできて嬉しかった。午後のお茶をご一緒したい。”
メリッサは安堵の息をついた。よかったぁ。
すぐに了解の返事を送り、ソファのクッションに顔を埋める。嬉しくて泣いてしまいそうだ。
公爵様はいつでもお優しい。昨日もとても紳士だった。声もいい!立ち姿もカッコいい!何より笑顔にドキドキした。初めてお顔を見たけど、淡い金髪と新緑の瞳が公爵様の柔らかいイメージにぴったりでとても素敵だった。
兜を脱いだことでメリッサを受け入れてくれたようでメリッサは嬉しかった。
ぼうっと頬を染め昨日のことを思い出していたメリッサはふとあることに気がついた。
贈り物で頂いたものはどれもどこかに必ず新緑のような柔らかなグリーンが使われていた。メリッサの部屋もグリーン基調でまとめられている。
それが昨日見た公爵の瞳の色だと気がつき、メリッサの顔がボフンと一気に沸騰する。
会えなかった一週間、メリッサのまわりは公爵の瞳の色で染められていた。
お気に入りの腕輪もよく見れば内側に小さな緑の石が埋め込まれている。石の隣には“A to M”の刻印。Aはアレックス、公爵の名前。結婚指輪のような刻印をそっと撫でる。
今までカードにはメリッサへの気遣いが多かったが、今日のカードに初めて“嬉しい”と公爵自身の気持ちを綴ってくれた。メリッサは目を閉じる。
会って間もないのにそんな筈ない、でももしそうならどんなに良いだろう。
公爵様、私は期待してもいいのでしょうか?
昨晩キスを落とされた左手の甲をメリッサは愛おしげに撫でた。
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