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カードとお花と贈り物
しおりを挟む翌朝、メリッサはベッドの中で目を覚ました。
ここはどこ?ああそうか。公爵家にきたのだ。ぼうっと記憶が蘇り、ハッとする。部屋に戻った記憶がない。昨晩魔狼を堪能して寝落ちしたのだ。外に出ない約束だったのにやってしまった!!
「おはようございます。」
「あの‥ロザリー。私昨日‥」
「外でお休みになるのはご遠慮くださいませ。部屋まで運ぶのが大変です。」
「うう、ごめんなさい‥‥」
やっぱり。メリッサは両手で顔を覆った。ロザリーが運んでくれた?使用人達にはバレてないのかな?
メリッサは窓から庭を見下ろす。もうそこには魔狼の姿はない。見つかる前にどこか行ったのかしら?飼っているのなら敷地内にいるのだろうか。気になって朝食後に控えていたバースにそれとなく聞いてみた。
「そういえば昨晩庭に魔獣がいたのを見たのだけど‥」
「‥‥魔獣‥でございますか?」
おっと、普通の令嬢は魔獣見た事ないか。メリッサは慌てて付け加える。
「ええと、金色の毛皮の大きな生き物だったわ?あれは昨日話していた魔獣ではないのですか?」
「‥‥‥‥。」
「いえ、あの、チラッと見えただけで気になっただけなのだけれども…」
「‥‥‥‥。」
「‥‥バース?」
ん?なんですかこの沈黙は。バースは思案するように沈黙し、やがて首を傾げる。
「‥‥はて。そのような魔獣がおりましたかな。私めは見たことがございません。」
公爵家で飼っているのではない?公爵家の首輪をつけていて、あんなに人に懐いてるのに?何かはぐらかされているような気がしてバースをじっと見る。
「それよりもメリッサ様、旦那様よりこちらが届いております。」
バースが差し出したトレーにリボンのかかった箱と花束が見えてメリッサの気が逸れた。目を見張りリボンで束ねられた花束に手を伸ばす。魔封の森でしか咲かない白百合、メリッサの大好きな花だ。瑞々しい香りが嬉しくメリッサは破顔した。
花束についていたカードを開く。
”邸に早く馴染まれるように。困りごとは何なりと言って欲しい。“
短いがメリッサを労る文面。滑らかな筆跡。公爵の人柄が感じられメリッサは微笑んだ。
贈り物は揃いのカードに便箋、ガラスペンにインク。どれも新緑を溶かしたような美しい緑色だった。
男性から女性への贈り物は花束や装飾品が定番であるが、メリッサは宝石を好まない。家に伝わるもので十分だし、そもそも着飾らないのだから。
装飾品よりも美しい小物を贈ってもらえてメリッサは心躍った。
「公爵様へお返事を差し上げたいですが、届けらますか?」
「飛竜を出しますのですぐお届けできるでしょう。」
遠征先がどこかわからないが、飛竜で駆ってもらえるなら確かにすぐだろう。
メリッサは早速もらったカードとガラスペンで返事をしたためる。
”お心遣い感謝いたします。ご無事をお祈りしております。“
もっと色々書きたい気もするが、遠征中で忙しいだろうからこのくらいが煩わしくなくてよいだろう。
以前魔封の森の花で作った押し花のしおりをカードに添えてバースに託した。
それから毎日、メリッサの元に公爵から魔封の森の花束と贈り物が届いた。
二日の予定の遠征だったが、帰還できずに一週間経っていた。公爵はメリッサを慣れない邸に一人にさせている事を詫び、日々の生活を気遣ってくれた。
初日に少ししか会えなかったが、公爵のメリッサへの細やかな心遣いが嬉しかった。
ハンター家業で街に出ると、その美貌で目立つメリッサはよく声をかけられた。一方的な好意が煩わしい。不躾な視線や言葉を浴びせられたり、ひどい時は強引に連れていかれそうになった。
押し付けがましい好意ではない公爵の優しさはメリッサにとって新鮮で心温まるものだった。
ほどなく毎日花束につけられて届くカードをメリッサは心待ちにするようになった。
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