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第一部
第08話
しおりを挟むエデルの手に導かれ月夜の森林を駆け抜けた。外でエデルと会うことに夢中になりすぎてエルーシアは素足のまま出てきてしまった。せめて部屋履きを履いてくればよかった、そう思っていたらそれと気がついたエデルが微笑んでエルーシアの体に手を回す。
「失礼します」
「エ‥エデル?!」
「少しだけ我慢してください」
優しく抱き上げられてエルーシアの心がキュンと高鳴った。
エデルがエルーシアを軽々と横抱きにして走り出す。エルーシアを抱き上げているのに手を引かれて駆けた時よりも速度が速い。自分を子供のように抱き上げるエデルの力強さに驚きつつその胸元に身を寄せた。腕の暖かさとエデルの少し早い鼓動に目を閉じる。
月明かりの中をエデルは駆け抜け、崩れかけた廃屋に辿り着いた。かつてエルーシアの父が暮らしていた家屋だったが火事で焼け落ちたと以前義兄から聞いていた。危ないから近寄らないようにとも言われていたがエデルは躊躇いなくその廃屋に足を踏み入れる。そこはそれほど崩れていない部屋だった。しっかり造られたそこは火事の影響はほとんどない。二十年近く経っているのに朽ちた様子もなかった。部屋の雰囲気から書斎か図書室、その一角に赤いブランケットが敷かれていた。エデルはそこにエルーシアをそっと座らせた。
「ここには誰も来ません。誰も知らない」
「じゃあ私たちだけの隠れ家ね。素敵だわ」
笑顔でエデルを見上げればエルーシアを困ったように微笑んで見下ろしていた。エデルと見つめ合い、ここで初めてエルーシアは現状を理解し内心で慌てふためいた。
鉄格子越しじゃないエデルに会いたかった。ただそれだけで頭がいっぱいで会えたその先のことを考えていなかった。誰もいない夜の廃屋に二人きり。自分は一体どうなってしまうのだろうか?恋愛小説や侍女たちの話から恋人同士が何をするかはなんとなく知っていたが心の準備まではできていなかった。
気が動転する中でエデルにするりと抱き寄せられてさらに固まってしまった。
エルーシアは歳若い異性との触れ合いは初めてだった。別邸では修道女のような慎まやかな生活。ついこの間までエデルの指が触れ合うのさえ気恥ずかしかった。だのに今は抱きしめられて嬉しい一方で羞恥で鼓動が早鐘のようだ。
でも嫌じゃない。エデルなら大丈夫。
「すみません‥‥堪えられなくて‥」
「いいの‥私もこうしたかった。ずっと‥‥ずっと触れたかった」
「エルシャ様‥」
優しくブランケットの上に押し倒されエルーシアは心中大混乱だ。嫌じゃない。でも緊張で勝手に体がこわばってしまった。父に愛された母。母も父にこのように熱く抱きしめられたのだろうか。震えるエルーシアを見透かすようにエデルがそっと微笑んで耳元で囁いた。
「酷いことはしません。嫌だったら教えてください」
初めて耳元で聞くエデルの低めのいい声に背筋がぞくりと震える。小さく頷いたエルーシアを組み敷いたまま両手を取りエデルは十本の指に口づけを落とす。それは毎日の逢瀬でやっている事。いつもの優しいキスが嬉しくて全身を興奮が駆け抜けた。
エデルはエルーシアを抱きしめ触れるだけのキスを落とす。手櫛で梳かした髪へ、撫でた頭へ、髪越しの耳へ、剥き出しの額へ。優しい視線でエルーシアの反応を見守りながらキスを落とす。急がないそれは慣れないエルーシアを気遣っているのだとわかり、その気遣いが嬉しかった。鉄格子越しでは叶わなかった口づけに陶然となり、いつの間にか全身から力が抜けていた。
怖い、嬉しい、焦ったい。興奮で浅い息の中、頬に口づけられびくりと体が跳ねる。
「エルシャ様‥」
次のキスを予告するようにエデルがそっとエルーシアの唇を親指でなぞる。
「エデル‥大好きよ‥」
「僕もお慕いしております、エルシャ様」
あの鉢植えの花言葉と同じ言葉に笑みが溢れた。そしてそっと唇が触れ合う。優しく啄むような軽やかな口づけにエルーシアは陶然となった。エルーシアの顔中にキスが降り再び唇が合わさる。甘い痺れが全身を駆け巡る。気がつけばエデルの首にすがり口づけを返していた。
どれほど時間が経っただろうか。呼吸が上がりぼぅとするエルーシアの背筋をエデルの手が撫でる。エルーシアの唇をペロリと舐めエデルは笑みから目を細めた。
「続きは次の夜に、エルシャ様。お部屋までお送りします」
エデルとエルーシアの逢瀬はその後も続いた。昼は鉄格子越し、夜ラルドが不在な夜は隠れ家と呼ぶ廃屋で落ち合う。エデルはエルーシアに少しずつ快楽を教える。初めての恋人同士の睦み合い。愛を囁き口づけて優しく愛撫してくる愛しい恋人に、未知の快楽にエルーシアはさらに落ちていた。異性に免疫がなかった反動もあるかもしれない。
そうとなればラルドがいない夜だけでは逢瀬が足りない。鉄格子越しではダメだ。エデルに会いたい。もっと触れたい。エルーシアのため息は増えるばかりだ。
「ではこんなのはどうです?」
紺色のお仕着せに似たドレスをドロシーが持ってきた。ドロシーはエルーシアの恋に全面協力だ。
「ぱっと見侍女に見えますよ?」
「え?大丈夫かしら?」
「髪はアップスタイルにしましょうね。エルシャ様は頭痛で休んでいることにしましょう。付き添いは私だけで。他の侍女はおやつ付きの休憩を出せば大丈夫です」
ドロシーの手引きでエルーシアはエデルのいる厩舎に出かける。大胆な行動だという自覚はあった。エデルにも相当に驚かれた。
「昼間に出てきてはいけません。誰かに見られます。旦那様だって‥」
「誰にも見られてないわ。お仕事の邪魔はしないから。休憩時間だけ。お願い」
エデルに叱られるがそれでも休憩時間に隠れ家で待っていれば会いにきてくれた。小言を言いながらもエルーシアの我儘を聞いてくれるエデルが大好きだ。その後散々可愛がられ歩けなくなったエルーシアをエデルが部屋までこっそり届ける、がセットとなった。
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