上 下
93 / 121
異世界生活:王都レグナム編

プラントドラゴン②

しおりを挟む
プラントドラゴンを従魔にし、カエデと命名。
畑へ移動。

まずは桜が手本として魔素を流し込んで各果物を作る。
そして、それぞれを食べさせて味を覚えさせる。

あまりの美味しさに感動したのか『きるるるー!』と愛らしい声を発し、食べ続けている。
美味しいのは良かったのだが味は覚えているのだろうか。

「どう?わかる?」

蓮が聞くとカエデは頷き、リンゴの木に魔素を流し込み始めた。

魔法神マーリンの加護がある桜よりは時間がかかっているが、着実に実は大きくなっている。

カエデは賢く、実が程よい大きさになったところで魔素を流し込むのをやめ、蓮を見た。

蓮はリンゴを手に取り鑑定。
品質は問題なく上級全種回復オールポーションに匹敵する代物だ。

「完璧だね。でももう少し回復効果を比較したいんだ。調整できるかな?」

中級程度に留められるように説明し、何度かの調整を経て、感覚を掴むことができた。

「本当に賢いね」

蓮たちの言葉を理解し、言われた通りに実行する。
成功したカエデは何やら潤んだ瞳で蓮たちを見ている。

「フィーネさん。これを……」

まるで成功の報酬をねだるようだ。

調合師たちが蓮たちほど気を許せていないことを察し、蓮はフィーネにリンゴを渡した。

フィーネはゆっくりと近づき、リンゴを差し出すと、手を噛まないようにゆっくりとリンゴを咥え、そして食べた。

「きゅるる」

カエデはもっとくれと言わんばかりにフィーネに擦り寄る。

「ふふ。かわいい」

皮ごと食べるためゴミが出ないのは助かる。
蓮はミカンとブドウをもぎ取り、フローネとウィステリアに渡した。

2人も緊張していたが、懐っこい性格のプラントドラゴンにはすぐに気を許せたようだ。

蓮のように対抗できる力があるわけではない人間が、圧倒的な力を持つ魔物と関係を築くことは難しい。
ユグドラシルの眷属であることと、向日葵の従魔である事も相まって、思っていたよりも早く距離は縮まりそうだ。

次に収穫作業。
収穫作業自体は手伝えなくても、支援魔法で手助けすることはできる。

蓮は収穫作業を実際に行い、桜が蓮に身体能力向上ストレングス自動回復オートヒールをかけて実演。

「こんな風にフィーネたちが収穫するのを助けてあげて欲しいんだ」

蓮が言うとカエデは鳴き声と共に魔素を漲らせて植物魔法を発動。

木に実っていた無数のリンゴが一斉に地に落ちた。

「あーダメだよ!リンゴが傷ついちゃう!」

桜がリンゴを拾い、見てみるとやはり傷つき、砂がついている。

布袋に入れて絞るとはいえ、万が一ポーションに混入しては一大事。

「よしよし。つぎはきをつけようね」

しょげるカエデ。
あからさまに元気をなくしてしまった。

それを見て、自身が失敗した時に、よく蓮や桜に言われている言葉を向日葵はカエデに送り、優しく撫でた。

「そうそう。良かれと思ってしたことだから怒ってないよ」

そして蓮は『他にも思いついたら試してみて、より良い方法を探そう』と言葉を続けた。

「あ、あの。木の下に網を張り巡らせてはいかがでしょうか?」

言葉にしたのはフローネ。
蓮は主体的に改善を提案するフローネに『素晴らしい意見ですね!詳しく聞かせてください!』と言葉にした。

するとフローネは、地に書き込みながら説明を始めた。
リンゴの木を囲うように四隅に丸を描き、それらを線で繋いだ。

「こうして4カ所に杭を立てます。あとは三角形の布や網を2枚用意して、杭に引っ掛けます」

三角形の布で木を挟むようにすれば、落ちてくるリンゴを受け止めることができる。

「リンゴの重さに耐えらる布と杭が必要ですが、そのままくるんで台車に乗せれば一気に収穫できるのではないかと……」

蓮と桜は顔お見合わせ、フローネを与えた。

「天才的な案ですね!」

「うん!凄いです!」

カエデの失敗をフローネが正解へと変えた瞬間だ。
しかも画期的なほどに効率が上がる。

ユグドラシルに依頼して杭と布を用意。
早速、各木を囲うように取り付け、カエデの植物魔法で実を落とす。

先ほどとは違う優しい音を立てながら見事に受け止めている。

「支援魔法をかけれる?」

蓮がカエデに声をかけると、鳴き声とともに身体能力向上ストレングス自動回復オートヒールを調合師の3人にかけた。

「ねぇ。一度地面に置かないと包めないよね」

杭に引っ掛けている布を外す時になって、ウィステリアが気がついた。
このままでは布に砂がつくため、意味がない。

蓮は製造機に入れる前に水魔法で洗うことを想像したが、同時にウィステリアが別案を出した。

「芝……いや、ダメだ。杭を長くして、木の板を敷いたらどうかな?」

足元を芝を生い茂らせることはできる。
しかし、リンゴの重さで草が潰れて布につく可能性がある。
ウィステリアは、青臭いポーションになってはいけないため、木の板にした方が良いと考えたそうだ。

「木の根に光が当たりにくくなるため、木の格子こうしにしてはいかがでしょう?」

ウィステリアの案をフィーネがさらに改善する。

雨季で雨が増える。
木の板が邪魔で雨水が、木の根に届かなければ枯れてしまう可能性がある。
そして、雨水で地面が濡れた場合、光が当たりにくいと乾きにくく、根腐れの原因になる。

そのため果実を通さない程度の目の荒さの木製の格子を用意すれば、一時的に置くことができる。

フィーネやフローネが果物を包む作業の時に、その上を歩いても壊れない強度が必要だが、その方法であれば実現できそうだ。

「カエデに指示を出せますか?」

蓮がそう言うと、フィーネがカエデに説明。
ウィステリアも木の周りを舞い、杭の間を移動するように、どこからどこまで、どのように木製格子を作るのかを説明。

カエデは再び魔素を漲らせて植物魔法を発動。
杭から張り巡らせるように木を伸ばし、見事に木製の格子を作った。

網目の大きさも丁度良く、フィーネやフローネが歩いても足がことはない。

「ではやってみましょう!」

蓮の号令で作業再開。
ゆっくりと杭から布を外し、木製格子の上に下ろす。
そして、ウィステリアは飛びながら、フィーネとフローネは木製格子の上を歩きながら三角形の布の角を真ん中に集めて強く縛った。

ウィステリアが果物を乗せた布の重さに耐えられずに落とすのではないかと心配したが、カエデの支援魔法は効果が高く、杞憂と終わった。

包んだ果物を台車に乗せ、同じ作業で残りの半分の果物も収穫。

それぞれが主体性を持ち、合理的な思考で行動するため、効率が爆発的に良くなった。

台車を押して移動。
製造装置に投入して、搾り取る。

試飲するが完璧な再現力だ。
回復効果も問題ない。

「みなさん本当に凄いですね」

蓮は感心しかなかった。
樽を満タンに振るのに必要な果物はおおよそ1000個。
この方法であれば何度か行うだけで製造可能だ。

余った時間は自由に研究して良いことを改めて伝えると調合師の3人は顔を見合わせて喜んだ。

「きゅるる」

絞り終わった果物を見てカエデが甘えるような声を発した。

「カエデも頑張った分、いっぱい食べていいよ」

絞り終わった果実は、ゴミになるか肥料になるかだったが、今後はカエデのおやつなることが決まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界に行ったら才能に満ち溢れていました

みずうし
ファンタジー
銀行に勤めるそこそこ頭はイイところ以外に取り柄のない23歳青山 零 は突如、自称神からの死亡宣言を受けた。そして気がついたら異世界。 異世界ではまるで別人のような体になった零だが、その体には類い稀なる才能が隠されていて....

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

処理中です...