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異世界生活:グリーデン編

職人ギルド

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ザディオへの質問を終え、蓮は武器防具工房テルムを後にした。

「まいったなぁ」

ザディオに質問を分かったことは数多くあった。

まず、物を作ったり畑を耕すには職人ギルドへの登録が必要だと言うこと。
蓮がフォッターに、果実の入手経路を言っていなかったため、職人ギルドへの登録案内がなかったのだろう。

次に、販売形態。
ザディオは職人ギルドと商人ギルドに登録し、口の立つテリーを雇って販売をしてる。
この形態での販売は珍しく、ほとんどの職人は職人ギルドのみに登録。
職人は口下手で販売に向かないため、販売は商人ギルドに任せていることが多いそうだ。

問題はここからだ。
販売価格は販売者に一任されているということ。
販売に長けていない職人は止む無く安く商人に提供し、商人は民間人や冒険者などに高く売る。

必需品のポーションに至っては原価の10倍程度で売られている。
中級ポーションは銀貨2枚程度で作られているが、原価は銅貨2枚程度。

販売の自由にしても利幅が大きすぎる。

高く売れれば高く売れるほど、販売者だけでなく、商人ギルドも年会費が上がり潤う。


「ここだな……」

ザディオの言葉の真偽を確かめるためと、製造資格を得るために、職人ギルドへやってきた。

冒険者ギルドと同じような木造の建物。
しかし、作りが綺麗であることと、細かな装飾が施されていることから職人のこだわりを感じる。

中に入ると、受付には小柄な少年が居た。
冒険者ギルトのように殺伐としておらす、商人ギルドに賑わっていない。

静かな空間に、妙に緊張する。

「職人ギルドに登録をしたいんですが……」

図書館のような静けさに、職員室のような緊張感。

思わず小声で話しかけてしまった。

「あん?あんたが?」

小柄な体つきに似合わず、気が強そうな目つき特徴の少年。

服装も受付というよりは、職人のようなオーバーオールに皮手袋。

悪気や悪意は感じない。
ただたんに、ガサツなだけだろう。

「んん?なんだろ?鍛冶じゃなさそうだな。飯か?」

上から下までジロジロと見てから、何やら訪ねてきた。

鍛冶?飯?
飯って料理人の事か?

意味が分からずに返答に困る。

「おい!聞いてんのかぁ?」

黙っていると顔を近づけて来た。
近い。
容姿も口調も、小学生の男の子のような話し方だ。

「これ……。ザディオさんからの手紙です」

蓮が職人ギルドへ行くことを知り、ザディオが話が早く済むように職人ギルドのギルドマスター宛てに手紙を書いてくれたのだ。

「あん?あの偏屈のザディオが手紙!?ちょっと見せて見ろ!」

少年は蓮の持つ手紙を素早く取り上げ、読み終わると少年は、『これ書いて待っててくれ!』と言って奥に走って行ってしまった。

出された物は、商人ギルドで書いた物と同じような記入用紙。
そこには名前、年齢、種族、製造物、製造場所、保有スキルなどの欄があった。

待つ間に分かる所から埋めていく。
名前などはそのままで、スキル欄には錬金術と鍛冶を記載。

製造物や製造場所などは後で聞こう。

そんなことを考えながら書いていると、書き終える頃に少年が戻ってきた。

その後ろには、少年よりも少しだけ背の高い筋肉質で髭を蓄えた男性が居た。

背丈に不釣り合いな丸太のように太い腕。
大きい顔。
ザディオによく似た特徴のため種族を聞かなくてもドワーフだと分かった。

「こいつぁ大したもんだな。付いて来い」

蓮を見るや否や、ドワーフは奥の部屋へと歩いて行った。

受付の少年も理解できずに『え?ええ?』とあたふたしてる。

蓮も理解できないがとりあえず付いて行く。

「まぁ座れ。儂は職人ギルドのマスター。ガバルってもんだ」

蓮は自己紹介をし、製造資格を得に来たことを説明。
ガバルは挨拶を返す間もじっと見つめてくる。

怪しんでる様子も警戒している様子もない。
ただ何かを見定めているような感じだ。

「ザディオの手紙を読んだ。儂も鑑定のスキル持ちでな」

ザディオの手紙には、鑑定ができない見慣れぬ男が職人ギルドに登録をしたいと言っている。
とんでもない物を作った男だから良くしてやってくれ。

ただそう書かれていたそうだ。

「奴でも儂でも見えんとは、大したもんじゃな。それでいったい何を作ったんだ?」

「話が早くて助かります」

蓮はそう言うとリンゴジュースの入った木製の水筒をアイテムボックスから取り出し、ガバルに渡した。

今まで出会ったものと同様、アイテムボックスを持っている事と、飲んだジュースの味と効果に驚愕。

「これを安価に提供したいのですが、難点が多くて相談したいです」

ガバルの表情は一変。
心配や不安が入り混じったような表情で『詳しく聞こうか』と小さく言葉にした。

「まず、単刀直入にお伺いしますが、職人ギルドは売り合えげ重視ですか?」

「いいや。品質重視じゃ。儂らは商人ギルドの奴らとは違う」

その答えと聞いて、蓮は安心した。
蓮はこの飲み物を安価で、適切に販売したいことを説明。
フォッターの申し出まで断って、安さと差別なく流通させることと、冒険者の生存率を向上させたいことを話した。

「ほう。分かってるじゃねぇか。なかなか粋な奴のようじゃな」

蓮の情熱プレゼンはガバルに深く刺さったようだ。
ガバルの反応と、フォッターの反応を比べると、なぜか少し、反応が違うように見えた。

蓮が違和感を抱いているとガバルが言葉を続けた。

「あの強欲商人の要求を突っぱねるとは見どころがある。気に入ったぜ」

強欲商人とはフォッターの事らしく、ガバルを始め、職人ギルドに属する者は商人ギルドの事を良く思っていない。

ガバルが以前にフォッターを鑑定した時は、話術Lv7と詐欺Lv3のスキルと有していたそうだ。
蓮が感じた違和感の正体が分かった。

ガバルは本当に心が動いており、フォッターは表面上で心が動いている風に演じているだけだったのだ。


職人ギルドの登録者は、腕は立つが口は立たない。
作るのは得意だが売るのは苦手な者が多い。

ザディオの話し通りで、自分で作って自分で売る者よりも、自分で作って商人が売る者が大半だそうだ。

「けっ。あいつらには心意気がねぇ。安く買おう、高く売ろうばっかりだ」

販売を依頼する時に、商人は利益を求めるあまり、自分たちに優位な契約を持ち掛けることが多いのだとか。
元居た世界でも、営業部と技術部が合い慣れぬ関係なのは良くあることだ

「やっぱり、ポーションが高い理由は商人ギルドなんですね」

蓮の言葉にガバルはゆっくりと頷いた。

ポーション事態は、素材と調合のスキルがあれば簡単に作れる。
工程も時間もそうかからないそうだ。

蓮が職人ギルドに確認したかったことはまさにそこだった。
原価が安くても、時間や技術を要するものは高くなるのは当然。

もし、それが理由で高くなっているのであれば、黙っていようと思った。

しかし、予測は悪い方に的中。
ただただ、商人が儲けるため、商人ギルドが潤うためだけに設定された市場だそうだ。

蓮が調合した者が、そのまま販売した場合の単価を聞くとおおよそ相場の半額。


下級ポーションは銅貨1枚から2枚程度。
中級ポーションは銀貨1枚程度。
上級ポーションは大銀貨1枚程度まで安くできるそうだ。

「では僕はこの飲み物を1杯銅貨3枚で提供しようと考えています」

蓮の言葉にガバルは先ほどとは違い、怒り交じりに『それはだめだ』と強い口調で言った。
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