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異世界生活:グリーデン編

商人ギルド②

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案内された部屋に居たのは、控えめに言ってもふくよかの限界を超えた朗らかな年配の男性だった。
今にもパンをこねて『新しい顔だよー!』と投げ出しそうな優しい顔立ちに、妙な親近感を覚えた。

「はじめまして。私はここの商人ギルドの長をしているフォッターです」

見た目通りの優しい声と話し方。
蓮が挨拶を返すと、『飲み物を見せてもらえませんかな?』と素早く話を進めた。

無駄話や探り合いはせずに本題に入る。
しかし、嫌な感じはしない。

蓮は再びアイテムボックスからリンゴとリンゴジュースの入った木製の水筒を取り出した。

「リンゴという果実です。この果実を搾って作った飲み物です」

「本当にアイテムボックスが使えるとは。これは羨ましい」

どうやら受付のマリーからアイテムボックス持ちと聞いて、審議を確かめるために呼ばれたようだ。
フォッターはそう言うと試飲しても良いかと尋ね、蓮はそれに頷いた。

木製の水筒の上部を回し、取り、そこへ自家製のリンゴジュースを注ぎ、フォッターに渡すと、フォッターはソムリエのように匂いを嗅ぎ、ゆっくりと口に含んだ。

すると、数倍に目が見開き、一気に飲み干した。

「な!?なんという味わい!それに疲れが吹っ飛びましたぞ!ぜひ商人ギルドに卸して頂きたい!」

「え?それって……」

さきほどまでの、ゆっくりとした優しい口調からは打って変わって、鼻息を荒くしながら早口でフォッターは語り出した。

「これは売れる!扱いたい商人も山ほどいるはずだ!面倒な契約などはこっちでやる!ぜひ商人ギルドうちに卸してくれ!」

蓮は商人ギルドに売るだけで、あとは商人ギルドが販路を拡大するということのようだ。
瞬時にそこまでの想像と決断をするとは、なかなかの豪商だ。

「そんな大きく商売をしようとは思ってないのですが……」

「そ、そんなこと言わずに!これは大繁盛間違いなしですよ!」

何度も断るがなかなか話が通じない。

「では答えを出す前に一つお願いがあるのですが……」

蓮が条件提示を示唆すると、フォッターは取り分の話しに持ち込む気だと予測した。
これだけの品質、これだけの美味さ。
売れるのは間違いなし。
6割……。いや、7割か……。
フォッターの頭の中では、どこまでの取り分に抑えまれるのか。
それをどのように回避するのかを幾通りも考えを巡らせた。

「3種類の下級ポーションを飲ませて頂けませんか?実は飲んだことが無くて」

フォッターは拍子の抜けた表情を浮かべ、そんなことで良ければと、すぐにマリーに持って来させた。
目の前に並ぶ小瓶に入った3色のポーション。

それぞれを一口ずつ飲んでみる。

下級HP回復ポーションは赤色で、苦く口に残る。
下級MP回復ポーションは青色で、酸っぱく、瓶1つを飲み切ると胃があれそうだ。

下級SP回復ポーションは黄色で、若干のアンモニア臭だ。
色といい臭いといい……。
一瞬別の液体が脳裏を過ったが考えないことにした。

「これは戦闘中に飲めたもんじゃないな……」

グランから聞いていた以上に不味い。
リンゴジュースに驚くわけだ。

蓮は口直しにリンゴジュースを飲み、少しの沈黙の後に口を開いた。

「すみません。自分で売ることにします」

「そ、そんな!これがいったいどれほどの価値があるかはお気付きでしょう!?」

確かにビジネスとして捉えれば、一財産築けるだろう。
しかし、販路を拡大しすぎたくはない。

「もう決めましたので。それで……。商人ギルドへの登録はお願いできますか?」

「はぁ……。なんともったいない……」

扉の前では席に漲っていた表情も『顔が濡れて力が出ないよぉ』とでも言いだしそうなほど落ち込んでいる。

「私も商人!商談不成立だからといって諦めませんぞ!」

てっきり『商人ギルドに卸さないなら登録はさせない!』などと言われるのではないかと思っていた。

しかし、良くも悪くも商人。
これから会うたびに商談を持ちかけられるのだろうが、きちんと割り切って登録はしてくれるようだ。

「ちなみに。差し支えなければ理由をお聞かせいただけませんか?」


悪い人ではなさそうだ。
ただの仕事熱心。
商売人の魂に火が付いただけ。

この手の人には表面上の会話ではなく、こちらも情熱で話すのが一番効果的だ。

蓮は元居た世界で培った営業知識をフル回転。

笑顔を消し、睨むでもない。
しかし、相手がすごむほど真剣な表情を作り、声色を低くしてゆっくりと話し始めた。


「ここへ来る途中に道具屋へ寄って、下級ポーションを上級ポーションだと偽り金貨2枚と言われました」

鑑定持ちで難を逃れたこと。
他にも、冒険者ギルドで獣人への差別的な販売があると聞いたこと。

蓮は、この街の一部の悪質な商人に、この果物が回ることを避けたい。
そのために自身で販売し、適切で良心的な市場を作り、社会貢献につながる商売がしたいことを説明。

「そのために、これは冒険者に限定販売をしようと思います」

一旦は冒険者に限定販売。
普及すれば、一般にも販売するが、冒険者ギルドのカードを有する者には割引販売など特別対応。

転売を禁止する方法などまだまだ考えないといけないことは多いが、蓮は今検討している展開を説明。

「な、なぜそこまで……?」

フォッターの問いに蓮は真っすぐに見つめて答えた。

「妹が2人います。妹達に誇れないような、恥ずかしい商売はできません」

「くぅ!お若いのにしっかりされている!そうです!商売とはそうでなくては!」

蓮の言葉にフォッターの商売人魂に再び火が付いた。
暑くなり、自身の想いなど語り始めたが、長くなりそうなため制止。

思いのほか時間がかかったが商人登録を無事に終え、商人ギルドを後にした。

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