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異世界生活:グリーデン編
盲点
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通貨などの一般常識を学び、異世界に来て初めての外食。
結論から言えば口に合いすぎた。
塩コショウの効いた鳥の丸焼きのようなもの。
薄味の回鍋肉風に野菜と肉が炒めたもの。
ポトフの様な味付けの野菜と肉のスープ。
ふわふわに焼かれたパン。
味付けがどれも元居た世界のそれと類似している。
一口食べて向日葵は眉を上げ、バクバクと食べた。
気にはしていなかったが、やはり味付けがされていると、食いつきが違う。
「ねぇグランさん。後で厨房に行ってもいい?」
「ああ。構わないよ。フェンリルは通れないが、他の者は問題ない」
リルを差別しているわけではなく、大きさ的に通路を通れないのだ。
桜はリルに『美味しい調味料教わってくるから待っててくれる?』と申し訳なさそうに聞くが、リルは鼻息を荒くしながら『うむ。我に気を遣わずに行くが良い』と答えた。
言葉に貫禄はあるが、内容的には可愛げと残念さを帯びている。
「グランさん。僕は解体場に行きたいんですが良いですか?」
「ああ。あそこに見える扉の向こうが解体場だ」
グラン指差し先には大きな両開きの扉があった。
どんな魔物でも運べるように、大きく作っているようだ。
「解体には時間がかかりますか?可能なら少しでも先にお金が欲しいんですが……?」
蓮は時間短縮の為に、今後の流れを伝えた。
蓮は解体場で魔物を預けた後、1人で商人ギルドへ向かう。
登録料が必要なのであれば、その分だけでも受けってから行きたい。
残された桜や向日葵達も、厨房見学の後、魔物のお金を一部でも受け取り、調味料や食材、調理器具などの買い出しに行く。
用事が済めば冒険者ギルドに集合。
「わかった。持ってきた魔物次第だが、俺が一緒に解体場に行って説明しよう」
金貨数枚にでもなれば良いが、買い物のお金や今夜の外食費や宿泊費が足りなかったら大変だ。
最悪、少し買い物をして今日は大樹の家に戻り、後日、再び来るしかないと蓮は思っていた。
「蓮兄1人で大丈夫?」
魔物が高く売れるかを考えていると、桜が心配そうに声を変けた。
1人で商人ギルドに向かう蓮が、危険な目に遭わないかを心配しているのだろう。
「大丈夫だよ!お兄ちゃん結構強いみたいだしね!」
蓮は力こぶを作り、強がってみせた。
そして、最悪どうしようもなければ走って逃げると笑って見せた。
「ううん。迷子にならないかなって……」
蓮の予測よりも遥かに低い水準で心配をされていたようだ。
その様子を見て、グランは兄妹の仲の良さを微笑ましく思った。
強くなればなるほど、人間性を失うものが多い。
残虐な思想になったり、人を見下したり、人を人と思わなくなったり。
様々な方向に人格がゆがむことが多い。
この兄妹にはそれは無いのだろうと先を想像し、頬が緩んだようだ。
「ごちそうさまでした!ひぃちゃんいちばん!」
誰よりも早くお腹が膨れ食事を終えた向日葵は勝ち名乗りを上げるように宣言した。
競っていなかったが、グランですら『おぉ。ヒマワリはいっぱい食べて凄いなぁ』と父親のような言葉を口にした。
相変わらず愛嬌Lv10の威力は凄まじい。
「ふむ。我も終わった。眠るのか?」
早くも眠そうな向日葵を見て、リルが声をかける。
ユグドラシルはその光景が好きなようで、いつもの様に優しく見つめている。
そっと席を立ち、眠りにつく向日葵の頬に手を当てて、浄化で口周りを綺麗にする。
まるで母親の様に慈愛に満ちた振舞だ。
「ここであれば好きに使ってくれ。しばらくは誰も入れないようにしてある」
「ありがとうございます。厨房を見終わって買い物に行くときには連れて行きますね」
グランの言葉に桜が答える。
グランに慣れてきた様子だ。
ドラコは人目もくれずに食べ続けている。
よほど空腹だったのか、人間の料理が口に合ったのか。
気持ちの良い食いっぷりだ。
他の者は皆食べ終わり、食休みモード。
待っている間に、ユグドラシルが食後のデザートに世界樹の実を出そうとするので、慌てて止めた。
グランの体感もかねて、リンゴやミカンを机に並べ、食べて待つことにした。
ドラコが食べ終わり、行動開始。
「ミミィ。すまんが片付けたら厨房に案内してやってくれ」
長い耳をピョコピョコさせながら皿を下げる兎人族の女性にグランが声をかけた。
「僕も先に一度厨房に行くよ」
皿を下げるのを手伝おうとする桜に蓮が言う。
皿を重ね、多い方を蓮が、少ない方を桜が持ち上げる。
桜は、そのまま机に触れることなく魔力を込めて浄化で机を綺麗にした。
「む、無詠唱だと……」
その言葉に、蓮と桜は逆に驚いた。
グランによれば、この世界では、使用する魔法の名称を口にしたり、導く言葉を並べてから魔法の名称を口にするそうだ。
『受けよ!我が聖なる雷!サンダーボルト!』という事だろうかと、自分自身がアニメの戦闘シーンの様に魔法を放つ瞬間を想像して恥ずかしくなった。
いい年してさすがにそんなことはできない。
「人間は相変わらず不思議なことをしますね」
そう口にするのはユグドラシル。
恐らく、形式や恰好といった無駄なことを重んじる風潮があるため、長い年月とともにそれが主流になった言ったのだろうという。
グランはより想像を具体化し、威力や精度を上げるために導き言葉や魔法名を言うと弁明していた。
「想像力の差かもしれないね」
蓮達は、漫画やアニメ、ゲームなど、多くの娯楽で想像力が鍛えられている。
桜が安定した青い炎を出せるように、科学を学んでいるおかげで、結果を想像しやすい。
そういった生まれ育った環境の差が、培われた想像力の差が、魔法技術の差に表れているのではないかと蓮は予測した。
「なるほどな……。たしかに、一理あるな」
想像を明確にできれば言葉にしなくても良い。
言われれば一理あると得心が行くが、言われるまでは盲点となっていたようだ。
「僕たちも気を付けないとね。視野を広く持たないと気づけるものも、気づけないや」
蓮と桜は顔を見合わせてから厨房へ皿を運んだ。
結論から言えば口に合いすぎた。
塩コショウの効いた鳥の丸焼きのようなもの。
薄味の回鍋肉風に野菜と肉が炒めたもの。
ポトフの様な味付けの野菜と肉のスープ。
ふわふわに焼かれたパン。
味付けがどれも元居た世界のそれと類似している。
一口食べて向日葵は眉を上げ、バクバクと食べた。
気にはしていなかったが、やはり味付けがされていると、食いつきが違う。
「ねぇグランさん。後で厨房に行ってもいい?」
「ああ。構わないよ。フェンリルは通れないが、他の者は問題ない」
リルを差別しているわけではなく、大きさ的に通路を通れないのだ。
桜はリルに『美味しい調味料教わってくるから待っててくれる?』と申し訳なさそうに聞くが、リルは鼻息を荒くしながら『うむ。我に気を遣わずに行くが良い』と答えた。
言葉に貫禄はあるが、内容的には可愛げと残念さを帯びている。
「グランさん。僕は解体場に行きたいんですが良いですか?」
「ああ。あそこに見える扉の向こうが解体場だ」
グラン指差し先には大きな両開きの扉があった。
どんな魔物でも運べるように、大きく作っているようだ。
「解体には時間がかかりますか?可能なら少しでも先にお金が欲しいんですが……?」
蓮は時間短縮の為に、今後の流れを伝えた。
蓮は解体場で魔物を預けた後、1人で商人ギルドへ向かう。
登録料が必要なのであれば、その分だけでも受けってから行きたい。
残された桜や向日葵達も、厨房見学の後、魔物のお金を一部でも受け取り、調味料や食材、調理器具などの買い出しに行く。
用事が済めば冒険者ギルドに集合。
「わかった。持ってきた魔物次第だが、俺が一緒に解体場に行って説明しよう」
金貨数枚にでもなれば良いが、買い物のお金や今夜の外食費や宿泊費が足りなかったら大変だ。
最悪、少し買い物をして今日は大樹の家に戻り、後日、再び来るしかないと蓮は思っていた。
「蓮兄1人で大丈夫?」
魔物が高く売れるかを考えていると、桜が心配そうに声を変けた。
1人で商人ギルドに向かう蓮が、危険な目に遭わないかを心配しているのだろう。
「大丈夫だよ!お兄ちゃん結構強いみたいだしね!」
蓮は力こぶを作り、強がってみせた。
そして、最悪どうしようもなければ走って逃げると笑って見せた。
「ううん。迷子にならないかなって……」
蓮の予測よりも遥かに低い水準で心配をされていたようだ。
その様子を見て、グランは兄妹の仲の良さを微笑ましく思った。
強くなればなるほど、人間性を失うものが多い。
残虐な思想になったり、人を見下したり、人を人と思わなくなったり。
様々な方向に人格がゆがむことが多い。
この兄妹にはそれは無いのだろうと先を想像し、頬が緩んだようだ。
「ごちそうさまでした!ひぃちゃんいちばん!」
誰よりも早くお腹が膨れ食事を終えた向日葵は勝ち名乗りを上げるように宣言した。
競っていなかったが、グランですら『おぉ。ヒマワリはいっぱい食べて凄いなぁ』と父親のような言葉を口にした。
相変わらず愛嬌Lv10の威力は凄まじい。
「ふむ。我も終わった。眠るのか?」
早くも眠そうな向日葵を見て、リルが声をかける。
ユグドラシルはその光景が好きなようで、いつもの様に優しく見つめている。
そっと席を立ち、眠りにつく向日葵の頬に手を当てて、浄化で口周りを綺麗にする。
まるで母親の様に慈愛に満ちた振舞だ。
「ここであれば好きに使ってくれ。しばらくは誰も入れないようにしてある」
「ありがとうございます。厨房を見終わって買い物に行くときには連れて行きますね」
グランの言葉に桜が答える。
グランに慣れてきた様子だ。
ドラコは人目もくれずに食べ続けている。
よほど空腹だったのか、人間の料理が口に合ったのか。
気持ちの良い食いっぷりだ。
他の者は皆食べ終わり、食休みモード。
待っている間に、ユグドラシルが食後のデザートに世界樹の実を出そうとするので、慌てて止めた。
グランの体感もかねて、リンゴやミカンを机に並べ、食べて待つことにした。
ドラコが食べ終わり、行動開始。
「ミミィ。すまんが片付けたら厨房に案内してやってくれ」
長い耳をピョコピョコさせながら皿を下げる兎人族の女性にグランが声をかけた。
「僕も先に一度厨房に行くよ」
皿を下げるのを手伝おうとする桜に蓮が言う。
皿を重ね、多い方を蓮が、少ない方を桜が持ち上げる。
桜は、そのまま机に触れることなく魔力を込めて浄化で机を綺麗にした。
「む、無詠唱だと……」
その言葉に、蓮と桜は逆に驚いた。
グランによれば、この世界では、使用する魔法の名称を口にしたり、導く言葉を並べてから魔法の名称を口にするそうだ。
『受けよ!我が聖なる雷!サンダーボルト!』という事だろうかと、自分自身がアニメの戦闘シーンの様に魔法を放つ瞬間を想像して恥ずかしくなった。
いい年してさすがにそんなことはできない。
「人間は相変わらず不思議なことをしますね」
そう口にするのはユグドラシル。
恐らく、形式や恰好といった無駄なことを重んじる風潮があるため、長い年月とともにそれが主流になった言ったのだろうという。
グランはより想像を具体化し、威力や精度を上げるために導き言葉や魔法名を言うと弁明していた。
「想像力の差かもしれないね」
蓮達は、漫画やアニメ、ゲームなど、多くの娯楽で想像力が鍛えられている。
桜が安定した青い炎を出せるように、科学を学んでいるおかげで、結果を想像しやすい。
そういった生まれ育った環境の差が、培われた想像力の差が、魔法技術の差に表れているのではないかと蓮は予測した。
「なるほどな……。たしかに、一理あるな」
想像を明確にできれば言葉にしなくても良い。
言われれば一理あると得心が行くが、言われるまでは盲点となっていたようだ。
「僕たちも気を付けないとね。視野を広く持たないと気づけるものも、気づけないや」
蓮と桜は顔を見合わせてから厨房へ皿を運んだ。
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