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私と彼女の夢物語
しおりを挟む「私のこと好きだったんだよね」
彼女はそう悲しげにつぶやいた。ある日のとある夕暮れのことだった。
「もちろんさ。でも今はそうじゃない。君は期限切れなんだよ」
次の日の朝だった、彼女の遺体が見つかったのは。
「ねえ、後悔してる?」
それは遺体が発見された日の夜のこと。彼女は夢の中で私に話しかけてきた。
「そんなこと言われたって。もちろん君が死んでしまったことには申し訳なく思ってるよ。でも仕方のないことは世の中にいくらでもある」
「そう」
それからというもの、彼女は不定期ながら私の夢の中に登場した。夢の中では、一緒に付き合っていた頃に行った遊園地や水族館にを2人で歩く夢である。何か話すことがあったわけじゃない。彼女はあまり話しかけてくることはなかったし、私も綺麗だなと言ってみたり、美味しいと言ってみたり、その程度のやり取りしかすることはなかった。
3ヶ月ほど経ってからであろうか、私はある一人の女に恋をした。彼女は私のアルバイト先に新しく入ってきた子で、私の2つ下の女子大生だった。
私は彼女に気に入ってもらおうと様々な手を尽くした。嫌な仕事を代わってあげて、バイト終わりはカフェラテを毎日おごった。それでも彼女は私のことが好きになってはくれていないようだった。目の瞳孔は常に閉じていた。
(申し訳ないのだが、ここから書くことはひどく曖昧な記憶を呼び起こしたものである。許してほしい。何より気が動転してしまっていたのだ)
さて、まず初めに何が起きたかを話そう。まず一つ目に起きたことは、日本沈没だ。大きな津波が襲ってきて、一瞬で家が流された。私と家族は運良く自衛隊のヘリコプターに乗れ、韓国へ連れて行かれた。そこで、日本列島が消滅し、私の数少ない友人や私が恋をした彼女が行方不明になっていることを知った。
それを知らされ間も無く、避難している場所にテロリストが侵入。私は辛うじて死ぬことなく、韓国の軍隊に助けられたが、私の家族を含め、その避難場にいた人の約8割の人が死亡した。
さらに、テロから逃げてきた避難所で話されていた言葉がハングルということもあり、詳しいことは分からなかったが、ロシアで革命が起き、現首相が殺害されたというニュースが流れているのを目の当たりにした。
たった1日の間にこんなことが起こるのかと疑問に思うかもしれない。たった一日でだ。しかし、起きない可能性はゼロではない。6億円の宝くじ、隕石が自分の住居に落ちてくること、そんなことよりも確率ははるかに低いかもしれない。しかし、それが起きるのが現実なんだと解釈をするしかない。
ここまで書いて、私は寝てしまった。そして、また夢を見た。
「ねえ」
彼女の声がする。
「うん」
「こんなことが起きるって想像できた」
「想像なんてできるはずがないじゃないか。世界史に残る大きな事件の3つがたった1日の間に起きてしまうんだぜ」
「アメリカにでも移住しとけばよかったよね」
「無茶言うなよ、予想できないことに何の対策のしようがあるんだい」
「だよね」
彼女は、少し間を空けてやがてこう言った。
「じゃあさ、予想できることには対策してたの?」
「え?」
「私はね。あの時にふられることなんてもうわかってたよ」
彼女の声がだんだんと嗚咽混じりになってくる。
「自殺しちゃうのも予想できてた。でも、どやって対策をすればいいのか分からなくって」
それからしばらく彼女は、声をあげて泣いた。
そして、何時か経ち、彼女は口を開いた。
「ヒトラーって本当に勝てると思って戦争を仕掛けたのかな。本当は、予想できたんだと思うんだ。戦死か自殺か、いずれにせよ望まずして死ぬことは。太平洋戦争時の日本の軍人もそうなんじゃないかな。死ぬことぐらい、負けることくらいわかってたと思う。そりゃ全員とは言わない。でも、特に天皇に近ければ近い存在の人ほど冷静に日本が負けることが予想できてたんだと思う」
「後悔してるかな」
「してる人もいれば、してない人もいる。人を人と決めつけるのはよくないわ」
「僕は後悔のしようがないね」
「そうなのよ、あなたは幸せ」
「何もないよね。今日目にした光景なんて」
「そうなのよ、何もないの。ただ、事実がそこにあるのみ。そこに向けての過去はなかったし、そこから始まる未来は誰も想像できないわ」
「もしかしすると、全てが夢だったりしてな」
「プラトンからすると仮想現実かもね」
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