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しおりを挟む(親友視点)
あいつの恋人がまた幼なじみを優先して、あいつとの約束をすっぽかしたらしい。
泣きそうな顔で、もう連絡は取らないと呟き、別れを切り出したのはつい先日のこと。
一年の記念日は覚えていてくれたんだ。
その日だけは自分を優先してくれるんだと、あんなに楽しみにしていたのに。
我慢して我慢して我慢して、もう限界を訴えたあいつを誰が責められるだろうか。
幼なじみだという男にはもちろん怒りを覚える。
だが、オレが一番ムカついているのは、
「お前どういうつもり?」
今、目の前にいるあいつの恋人だった男だ。
「どういうって……?」
「あいつの事ほったらかしにして幼なじみだとかいう奴ばっかり構ってんのはどういうつもりなんだって聞いてんだよ」
「……お前には関係ないだろ。それに、ほったらかしになんてしてない」
「は?いつだって幼なじみを優先してただろ?どの口が言ってんの?ていうか、そんなに幼なじみが大事なのか?恋人よりも?」
「そんな訳ない!」
「ほざいてんじゃねえよ。あいつよりも幼なじみの方が大事なんだろ?幼なじみの方が大切なんだろ?」
「違う!」
「違わないよ、お前は幼なじみの事が好きなんだよ。どうして気付かないかな?」
「オレが好きなのはあいつだけだ!」
「は?何言ってんの?」
激しく首を振るその姿を鼻で笑う。
ああ、イライラが止まらない。
こいつは、あいつがどれ程苦しんでいたのか知らないのだろうか。
「お前、幼なじみがあいつになんて言ったかわかるか?」
「え?」
知らないなら教えてやる。
「お前は自分のものだ、いずれ返してもらう、あいつは火遊びの相手だって言われたんだぞ?」
「な、んだよ、それ……!?」
「はっ、聞いてなかったのか?」
「それに、あいつが風邪引いても駆けつけた?あいつとの約束を何回破った?」
「それは、あいつは自分で何でも出来るし、風邪の時にはオレなんか構わないでゆっくり休めばいいと思って……約束は、埋め合わせする予定だったし」
「風邪で弱ってる時に自分で何でも出来ると思うか?一人が良いと思うか?弱ってる時こそ誰かに頼りたいんじゃねえのかよ。だからお前に連絡したんじゃねえのか?」
「でも、来て欲しいなんて一言も……」
「普通恋人が風邪引いたっつったら行くだろ。幼なじみには、来て欲しいって言われなくても行くんだろ?なのにあいつには言われなかったから行かなかった?それっておかしいんじゃねえの?埋め合わせも何回した?数える必要ないよな?一回もしてないもんな」
その度に慰め、一緒に過ごしていたのはオレだ。
「約束破って、埋め合わせのデートもドタキャンして、散々ないがしろにして。それでまだ自分を好きでいて貰えるなんて良く考えられるな。むしろその思考回路を尊敬するよ」
毎回毎回泣きそうに目元を歪め、でも涙を流せず堪えていたあいつを支えたのはオレだ。
「とにかく、あいつはもうお前と連絡取りたくないって言ってる。あいつの事を思うなら二度と目の前に現れるな」
もうこれ以上あいつの心を乱す事は許さない。
いっその事、二度と視界に入らないようにしてやりたいくらいだ。
「あいつはオレが守る」
そう言うと、目の前の男は目を見開いた。
オレの気持ちに気付いたのだろう。
「お前まさか、でも友達だって……!」
「まだ友達だよ。でも、お前と別れたならもう遠慮はしない」
「別れてない!」
「お前がそう思ってても、お前はもう捨てられたんだよ。諦めろ」
「……っ」
「お前と付き合ってる時からずっと奪ってやろうって考えてたんだ。あいつがお前を好きだから我慢してたんだ」
「でも、あいつはオレを……!」
「散々裏切ってきたお前と、ずっと傍で悩み聞いて支えてたオレと。あいつはどっちを選ぶと思う?」
「……っ」
オレの言葉に唇を噛みしめる。
すると
「ーーー!」
遠くから、目の前の男を呼ぶ声が聞こえた。
ぱたぱたと笑顔で駆け寄って来るのはこいつの幼なじみだろう。
「あれが幼なじみ?ふうん、どこが良いんだかオレにはさっぱりわかんねえな」
「……」
「まあいいや、あいつに見限られてくれてありがとな。おかげで、オレがあいつを手に入れられる」
最後にそう告げて立ち去ると、タイミング良く携帯電話に呼び出される。
そこに表示されたあいつの名前を見て、オレは強張っていた頬を緩めた。
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