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しおりを挟む※啓介視点
はっきり言おう。
(最っ高……!)
真壁とやってきたのは良く通っている店。
店員さんも店長さんも優しくて親切で買い物がしやすい。
そんな店でひとまず真壁を試着室に押し込め、俺が来て欲しい服を大量に持っていく。
そして着替えて出てきた真壁はというと。
「可愛い!!!」
「え?」
「あ、ごめん!何でもない!似合うよ」
「あ、ありがとう」
思わず全力で漏れた本音に慌てるが、照れた真壁がまた可愛くて再び叫び出したい衝動をグッと堪える。
何だろうこの可愛い生き物。
可愛い、可愛い、ああ可愛い。
肌が白いからか、青が良く似合う。
でもピンクも似合いそうなんだよなあ。
淡いピンクだからそんなに嫌らしくもないし、これに紺……いや真っ白なパンツでもいいかもなあ。
いやでも紺も捨てがたい。
チェックも似合うし、それなりに身長もあるからカジュアルもだけどキレイめなのも似合うよな。
水色に白も捨てがたいし、いっそ真っ白なコーデでも可愛いかも。
いやいや真っ白コーデは俺との結婚式までとっとえ貰わないと!
「けいちゃーん、鼻の下伸びすぎ」
「うお!?店長いたの?」
「ずっといましたけど?」
真壁に夢中で店長の存在をうっかり忘れていた。
「ごめんごめん」
「まあ良いけど。けいちゃん、今度これはどう?」
「おー、さっすが店長わかってるね!」
店長が持ってきたのはまさに俺が悩んでた水色とピンクのシャツ。
うーんやっぱりどっちも似合いそう。
(時間はたっぷりあるからな!)
こうなったら片っ端から可愛い姿を見せてもらおう。
そう思いながら、再び出てきた真壁の可愛さに心の中でひっそりと身悶えた。
*
※一也視点
「よっちゃん、俺はもう死にそうです」
夜。
部活帰りのよっちゃんを待ち構えて部屋に入り込み、小さなテーブルに突っ伏しそう呟く。
「楽しそうで何よりだ」
「死にそうだって言ってんの!」
「矢野といるのが楽しくて死にそうなんだろ?」
「うっ、そ、それは、そうなんだけど」
図星である。
あれから毎日放課後になると服屋に連れて行かれたり帽子屋に連れて行かれたりはたまた美容院のチェックをしたりと目まぐるしい毎日を送っている。
昨日なんかはそろそろ疲れただろうからとお茶までご馳走になってしまった。
自分の分は自分で払うと言ったのに頑なに聞いてくれなかった。
まるでデートみたいだ。
ここ数日の出来事をそんな風に感じてしまっている。
「良かったな、仲良くなれて」
「うん」
少しずつどころではない、一気に距離が縮まっているような気がする。
「で?告白はいつするんだ?」
「ぶーっ!!!」
「汚いぞ」
「なっ、だっ、よっちゃんが変な事言うから!!!」
思い切り飲んでいたジュースを噴き出してしまった。
「べ、別に俺は啓介に……!」
「へえ、啓介ねえ?」
「う……っ」
ニヤニヤとこちらを見つめるよっちゃん。
そう、実は最初に出掛けた日、矢野改め啓介にお互い名前で呼び合わないかと言われたのだ。
そんなもの二つ返事でオッケーに決まってる。
最初は恥ずかしくて呼べなかったが、昨日今日で漸く噛まずに呼べるようになったのだ。
名前を呼ぶのもそうだが、呼ばれるのも恥ずかしい。
でも嬉しい。
もっと呼んで欲しいとさえ思う。
「でも、あと少しなんだよなあ」
学園祭まであと二週間しかない。
もう当日に使う化粧品やネイルの道具、はたまたカツラなどの準備は揃っている。
後は担当する人達が練習をしたりネイルのデザインなどを決め、それを詰めているところだ。
ちらりと出来上がったネイルのサンプルを見たらかなりキレイだった。
ああいうのを作れる人やデザイン出来る人って凄い。
俺や田辺さんはというと、軽く髪型だけ整えて貰い、あとはステージ上で最終的な仕上げをするらしい。
その時に以前までの俺達の画像をスクリーンに流すらしい。
今更ながら恥ずかしい。
完全なる晒し者だ。
ていうか本当に俺で大丈夫だったのか?
「心配か?」
「だって、俺だよ?」
クラスの女子達のメイクの腕は確かだからその辺は心配していないが、自分自身が信じられない。
「大丈夫だって、お前もうちょっと自分に自信持てよ」
「そりゃ俺だって持ちたいけどさあ」
持ちたくても長年染み付いたこの思考を払拭するのは中々難しい。
それに……
(終わったら、啓介とも終わりなのかな)
学園祭のこの企画があるから啓介は俺に優しくしてくれている。
聞いたところによると、ステージの出し物で投票一位になり優勝すると豪華景品が貰えるそうだ。
だからこそ、これを狙って頑張ってくれているんだろうな。
「……はあ」
思わず漏れる溜め息。
学園祭の準備は楽しみだけど、本番は来なければ良いのに。
そうすればずっと啓介は俺を見ていてくれるのに。
そんな考えが浮かんでしまった。
*
「はい、一也」
「え?また?今度は俺が出すって言ったのに」
「もう買っちゃったもーん」
「……ありがと」
「どういたしまして!」
当たり前になった啓介との帰り道。
コンビニに寄りたいというので待っていると買い物を済ませた啓介がカフェオレを手に戻ってきた。
コーヒーは苦手だがカフェオレは飲める。
そんな俺の嗜好を覚えていてくれているのが嬉しい。
「おいしい?」
「うん」
啓介が買ってくれたものだから余計においしい。
ちなみに啓介はコーラを飲んでいる。
「今日はどうすんの?」
学園祭まであと三日。
衣装も決まったし当日の流れも決まった。
教室の中の飾りやポスター作りなども進められている真っ最中だが、俺達はステージの準備があるからと早々に退散してきたところだ。
「今日は何もしないよ」
「え?」
「だってもう全部決まってるし」
「え!?じゃあみんなの手伝いした方が良かったんじゃ……」
「いーのいーの!たまにはサボろうよ。今まで頑張ったんだし!」
「ええ?」
頑張った、のか?
啓介と出掛けて楽しかった思い出しかないのだが。
「と、いうわけで行こう!」
「え!?うわ……っ!」
手、手……!
掛け声と同時に引かれる右手。
手首を掴んでいたのが自然と手のひらに下りてきて温かな手が重なる。
「啓介!?」
「ん?どうかした?」
「あ、いや……」
何でもないような表情で微笑む啓介。
きっとこういうスキンシップに慣れてるんだろうな。
彼女もいたみたいだし……今いるかどうかはわからないけど。
親しくなったとはいえ、踏み込んだことは聞けずにいた。
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