現代物短編中編

うりぼう

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こんな親衛隊があったって良いじゃない3

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「オイお前!」
「……ゲ」

校内の階段を上った先で指を指され、一瞬誰だっけと思った後ですぐに憎き転校生だと気付き顔をしかめる。

あの制裁と呼ぶには少々躊躇われる作戦Bから一週間。
ぱったりと止んだ会長への魔の手に、もう心配はないと隊員達とお祝いパーティもといジュースでの飲み会を楽しんだのはつい先日の事だ。
次に会ったらきっとそそくさと逃げられるのだろうなと思っていたのに何故出会い頭に真正面からくってかかられているのだろうか。

そもそもお前ってお前。
ろくに話した事もない奴にそんな風に呼ばれる筋合いこれっぽっちもないのだが。

「やっと捕まえられた!」
「は?」

睨まれながらのセリフに首を傾げる。

「ずっと探してたのに他の奴らに邪魔されて近付けなかったんだよ、くそっあいつら!」
「……」

探されていたのも驚きだが、それを阻止されていた事も驚きだ。
恐らく隊員達の計らいだろうが、結局突破されている。

「……オレに何か用事?」
「そうだよ!ちょっと来い!」
「は!?ちょっ」

拒む間もなく手首を掴まれ引き摺られる。
がっちりと握られたためか一瞬で甲に血管が浮かぶ。

え、なにこの馬鹿力。

「なにっ、オイ!つか痛ッ、痛いって!」
「いいから!お前に言いたい事あんだよ!」
「だったらここで言えば良いだろ!?どこ行くつもり」

と、思ったがこの道順は非常に覚えがある。
親衛隊専用室が近くにあるため何度も通った道。

そこを通り過ぎて見えてきたのはやはりというか、生徒会室。

「うわっ!」

ドアを開けると同時に中へと押し込められる。
というか突き飛ばされた、に近い。
勢い余りすぎて頭から床にダイブするところだった。
結果尻餅をついてしまったけれど。

「何す、――‥!」

気付いたら、ぐるりと囲まれていた。
誰にってそんなの場所を考えたらわかるだろう、そう、会長以外の生徒会役員。
そしてプラスアルファな爽やかスポーツマンと一匹狼な不良、風紀委員長までいる。
全員親衛隊持ちの奴らだ。

「会長の親衛隊隊長、ですね」

真正面でしゃがみこみ目を合わせてくるのは副会長。
無言のまま頷く。

周りが目配せをする。
なんなんだ。

「よし。じゃあ葉月くんは教室に戻ってて」
「何で!?オレの事なのに!」
「良いから」
「でも、オレもコイツに言いたい事が……!」
「嫌なトコ、見せたくないんだよ……お願い」
「っ、わ、わかった」

切なげに寄せられた眉とそのセリフにきゅんときたらしい転校生、葉月というらしい、の目が輝く。
心境を表すならば、オレのためにそこまで……!そんなにオレの事が好きなのか……!といった感じだろうか。

(……くっっだらねー)

なんだこの茶番。

呆れているうちに転校生は部屋を出て行った。
大人しく従っちゃうのかよ。

「……」

ぱたんと音を立てて閉まったドアに、あれもしかして今からフルボッコ?なんて、呑気にそんな事を思ってしまった。

……のだが。

「……」
「……」
「……あの」
「しっ!静かに!」
「……?」

すぐさま始まると思ったのに、奴がいなくなった途端に会計がドアに耳を当てて何かを確認。
何してんだと聞こうとしたら口に人差し指で止められた。

「……よし行った!大丈夫!」
「?」

ぐっ、と親指を立てる会計。
どうやら足音を聞いていたらしい。

その一言を皮きりに、わらわらと群がる奴ら。
とうとう始まるか、と身構えたのだが。

「大丈夫?」
「……は?」
「うわ、何これ!?手首真っ赤になってるよ!?」
「あ?ああ、転校生に掴まれてたんで」
「酷いなこれは」
「痛かっただろ?」
「今アイスノン持ってくるね!あ、冷えピタの方が良いかな?」
「え?いやお構いなく」
「さ、ほら立って」
「っ、うわっ」

爽やかスポーツマンから始まり会計が手首を見て驚き一匹狼な不良が顔をしかめ風紀委員長が心配して書記が給湯室に走る。
そして最後に副会長が手を取って立たせてくれた。

何この状況。

「ああ、ごめんね。訳がわからないよね?」
「実はきみに頼みたい事があって」
「会長に頼んだんだけど全然取り次いでくれなくて」
「あいつが一週間前にきみに制裁された、注意してくれ、なんて泣きついてきてさ。うざったいったらねえ」
「これから捕まえに行くから皆待ってろって言われたのには驚いたよ」
「空振りしてたからな、今日もまさかと思ったんだけど」
「まあアレに捕まったらそんな細い腕じゃ振り払えねえだろうし」
「丁度良いから利用させてもらっちゃった」

話を聞いていると皆が転校生をうざったがっているように見える。
じゃあさっきの茶番は一体なんなんだ。

いやそれよりも。

「……頼み、ですか?」

聞くと、皆が一様に頷いた。

訴えはこうだった。

「もう、言葉通じなくて……」

副会長は本気の笑顔を胡散臭いと言われ凹んでいるところに転校生の『友達いないんだろ?オレがなってやるよ!』発言。

「オレにだって友達いるのに……!」

そんなに友達いなそうに見える!?と問われゆるりと首を横に振った。

美形だなんだと崇められてはいるが所詮はただの高校生ですからね、そりゃいるだろ友達くらい。
泣き崩れる副会長が不憫すぎる。

「オレだって部活出たいのに友達との約束優先させろよとか邪魔されまくって……約束なんかしてないし、つかテメェがいつ友達になったんだ!!クソッ、レギュラー落ちたら訴えてやる……!」

爽やかスポーツマンが嘆く。
そういや国体選手だっけ、なんの競技か忘れたけど。
真剣にやってるのに邪魔されたらそりゃ怒るわな。

「オレ、初対面で呆気に取られて何も言えずにいたら無口なシャイ野郎だと思われて、ちゃんと喋らなきゃダメだとか説教された……オレ無口じゃねえのにシャイって何それおいしいの」

のっぽな書記がしょんぼりする様はなんだか犬っぽくて可愛い。
いや会長が一番可愛いけど。

「オレなんか毎晩違う相手に腰振ってるヤリチンみたいに言われたんだぜ?ちゃんと可愛い彼女いるのし!つか彼女としかヤッた事ないし!オレの童貞彼女に捧げたし!」

確かにチャラいナリをしているので遊んでいそうに見えるが、幼なじみの彼女一筋なのはオレも知っている。
ずっと好きだったんだもんな、そりゃ『オレがお前の目を覚ましてやる!だからオレにしとけよ!』なんて言われたら嫌になるな。

「オレ、オレ不良じゃねえのに……髪染めようかなって自分でやったらやりすぎてこんなんなっちゃっただけだし、確かにちょっとやんちゃはしたけどそんな強くねえからすぐボッコボコだし、それに一人でいるのが好きなだけでオレだってちゃんと友達いるのに……!」

お前も友達いないと思われてたのか。
わかるよ、一人って気楽だもんな、あんなのといるくらいなら一人でいた方がマシだもんな。
一匹狼な不良……改めちょっとお馬鹿な一般生徒も涙ながらに語る。
うん、ご愁傷様。

あ、副会長とわかり合ってる。

「大体よ、アイツの怪力での被害者のが多いんだよアイツが訴えてる被害より!いい加減にして欲しい、つか泣くなマジで泣くな鬱陶しい男の涙なんて全然心動かねえむしろ反吐が出るマジふざけんな気持ち悪いんだよ……!」

色々鬱憤が溜まっているようだ。
大変だな風紀も。
あまり話した事なかったから隊規でもとりあえず逃げるってしてたけど、こりゃちょっと見直さなきゃいけないな。

「あー……」

ちょっかい出されているなあとは思ったけれど、てっきり喜んで相手しているのだと思ったが違ったらしい。
まあそうだよな、常識的に考えてあの礼儀知らずな勘違い野郎に惚れるなんて趣味が悪いにも程がある。

「要するに、オレ達親衛隊の力で奴を何とかしろって事ですか?」
「「「「「「頼む……!」」」」」」

相当切羽詰まってるなこれは。
まあ可哀想だとは思うけれど。

「お断りします」
「「「「「「何で!?」」」」」」
「いや、何でも何も、オレ会長の親衛隊ですし。会長以外どうでも良いんで」

何を当たり前の事を。
いくら会長の親衛隊長とはいえ全部の隊を動かす権限はない。
仲は良いけど。

「それに、そんな事自分達の親衛隊に頼めば良いじゃないですか」
「……それが、その」
「頼んだんだけど、逆に転校生がやっつけちゃって」
「怪我してくの見てらんなくてさ、でも会長のとこはみんな無傷でしかも撃退出来てるじゃん!?」
「まあうちの隊が優秀なのは認めますけど」
「でしょ!?だからさ!」
「一から何もかも任せっきりにするつもりはないし!」
「頼む!対策とか教えてくれるだけでも良いんだ!」
「えー……でも」
「「「「「「頼む!!!」」」」」」
「あー……」

がばりと全員で頭を下げられてしまっては断り難いじゃないか。

「はあ」

大きく溜め息を吐くと震える六つの肩。

「…………わかりました」

「「「「「「!」」」」」」

言った途端に輝く六対の目。
ああもう皆オレよりデカイのに可愛く見える。
会長が一番可愛いけどね、しつこいようだけど。

「どっちにしろうちの隊は会長のサポートで忙しいので、皆の親衛隊に掛け合ってみます。あいつらもやきもきしてるだろうし」
「あ、ありがとう!」
「ただし、皆も親衛隊の皆と話し合うこと。彼らにきちんとお礼をすること。皆あんたらのために体張るんだから当然ですよね?もし丸投げして後は知らんぷり、なんて事したら」
「「「「「「……っ(ごくり)」」」」」」
「……その時は、ね?」

わかってますよね、と絶対零度の微笑みで暗に告げる。
ぶんぶんと必死で頭を縦に振る様子がまた絶妙にタイミングが合っていて、噴き出しそうになったのは内緒だ。

その後親衛隊連絡網でそれぞれの隊長と副隊長を召集。
自分達が行った転校生対策を伝授し、すぐさま全隊員にそれが伝わった。
悉く実行された作戦Bに、転校生は不思議と大人しくなり、皆の生活にも日常が戻ってきたらしい。

そんな最中。

「最近オレんとこの隊長が忙しいらしくて全然構ってくれないんだけどさー」
「……っ」
「………なんか知ってる?」

低く訊ねる会長に、副会長がまた泣きそうになっていたなんて、オレは知らなかった。













おまけ。

「……どうしたの?これ」
「え?」
「手首。痣になってる」

がしりと腕を掴まれ目の高さに上げられる。

「あ、あー……(あのクソ転校生に掴まれたとこか)」
「誰にやられたの?」
「えっと」
「……もしかして、転校生?」
「……っ(ぎくっ)」
「……あいつ(ぶっ殺す)」
「かかか会長!目つきやばいですオレがキレた時よりやばいって相当です……!」
「ん?そんな事ないよ?」
「(いやいやいや)」
「それより、痛くない?」
「は、はいっ、すぐ冷やしてもらったんで、押すとまだ痛いですけど」
「……冷やしてもらった?誰に?」
「え?あ、生徒会の……」
「生徒会?」
「はい、あれ?聞いてませんか?なんか、転校生対策の事で生徒会室にお邪魔したんですけど」
「聞いてないなあ。忘れちゃったのかな?(オレが断ってたから無理に接触したな、しかも怪我までさせて)」
「(ああ、また会長の目がやばい……!)」
「……」
「……かいちょ、会長おおおお!?」
「ん?何?」
「ななななな何っていうかなななな何して……っ」
「消毒」
「いやいや!痣ですから!切り傷じゃないですから消毒とかいらな!ななな舐めないでくださ……!」
「違うよ。他の奴が触ったから、消毒」
「っっ!!!(なんなのこの人ー!可愛すぎるんですけど!あああでもそんなオレなんか舐めたっておいしくないし、つかオレなんか舐めたら会長が汚れてしまう……!)」
「ふはっ、真っ赤」
「!」
「ん」
「……っ」

手首を掴まれたまま目尻や頬にキスをされ……

(お、オレ今しんでもいい……!)

ふしゅう、と体から力が抜けきり全てがどうでもよくなる隊長がいた。







終わり
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